観光地のブランディングを考える際に重要な点とは…

新潟経済社会リサーチセンターの江口知章です。

近年、観光振興に関する会議に出席すると、地域の「ブランディング」という言葉をよく耳にするようになりました。ただし、その意味するところは人によって異なる時もあります。「ブランディング」という言葉を使うことで、発言者の意図が分かりやすく伝わる場合もあれば、その逆の場面もあります。

こうした中、観光地のブラディングに関する書籍を手に取る機会がありましたので、本日はその書籍をご紹介いたします。

 

旅行者

岩崎邦彦著『 地域引力を生み出す 観光ブランドの教科書』の感想

ご紹介する書籍は岩崎邦彦(2019年)『地域引力を生み出す 観光ブランドの教科書』日本経済新聞出版社 です。著者は静岡県立大学教授であり、中小企業診断士としても著名な先生です。

本書では地名とブランドの違いやブランド力のある地域になる方法、ブランディングにおける食の重要性、ブランドづくりのステップなど、観光地のブランディングに関して、様々なデータや事例をもとに説明されています。

本書に目をとおすことで、観光地のブランディングについては、一通りの理解が進むと思われます。観光振興の会議の場などでは、こうした書籍を読んでから臨むと議論が噛み合いやすくなるかもしれません。

なお、本書の中で特に興味深かったのは以下の箇所です。

なぜ、かつおの漁獲量では「静岡県」がナンバー1なのに、人々のイメージでは「高知県」が圧倒的に第1位になるのだろうか。

その理由は、両地域における「出会いの場」の違いだ。

地域の「食」のブランドづくりにおいて大切なのは、「生産量」や「漁獲量」の多さではない。観光客や地元の人々が、その食と出会える場所の多さである。

(中略)

グルメサイトを利用して、両県でのかつおの食との「出会いの場」の数を比較してみよう。

「高知県」&「鰹たたき」で検索すると、136件の飲食店が出てくるが、「静岡県」&「鰹たたき」で検索すると、わずか21件だ。

(中略)

かつおのブランド化であれば、かつおという海産物の漁獲量を訴求するだけでなく、おいしい「鰹のたたき」を食べる場を増やしていく。


岩崎邦彦(2019年)『地域引力を生み出す 観光ブランドの教科書』日本経済新聞出版社

観光振興を考える際に、重要な点が指摘されています。「かつお」以外にも、「うなぎ」や「お茶」についても同様な分析がなされており、生産(漁獲)者側と販売者側との連携が地域のブランディングの鍵なのだと実感できました。

家計調査でみると…

上記で引用したとおり、著者は漁獲量とグルメサイトをもとに分析されていましたが、グルメサイトを「その地域に住む一般家庭の購入金額」で代替しても同じ結果になるのではないのか?と思い、興味が膨らんだので、以下のように調べてみました。

まずは漁獲量ですが、下の表のとおり、農林水産省『平成30年漁業・養殖業生産統計』をみると、都道府県別の最新の結果でも「かつお」の漁獲量の第1位は静岡県。以下、宮城県、東京都、そして高知県は第4位。なお、私どもの会社がある新潟県は第7位でした。

かつおの漁獲量

これに対して、総務省『家計調査』をもとに、1世帯あたり年間の品目別支出金額・都道府県庁所在市等のランキングをみると、「かつお」の支出金額(2人以上の世帯)が多い自治体の第1位は 、グルメサイトの飲食店と同じく 高知市。全国平均の約5倍の支出金額です。高知の家庭では食卓に「かつお」がのぼる機会が相当多いのでしょう。

かつおの消費量

岩崎氏の分析と重ね合わせると、飲食店でも、そして一般家庭でも「かつお」がたくさん食べられているからこそ、「かつお」といえば「高知県」のイメージが浸透しているのかもしれません。

最後に

本書は観光地のブランディングを学ぶ書籍としても興味深かったですが、アンケート結果の活用方法としても学ぶべき点が多かっです。具体的には、質問の仕方、分析方法、他の調査との組み合わせ方、分析結果を平易な文章で表現する方法など、見習う点が多かったです。

日頃、アンケートの分析をしていますが、今回の書籍をお手本にして、より一層のレベルアップを図っていきたいと思いました。

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以下の資料も参考にさせていただきました。

静岡県「かつおの漁獲量、産出額日本一」
http://www.pref.shizuoka.jp/j-no1/m_katsuo.html