毎日、新聞やニュースアプリなどから様々情報を入手しても、その内容をすっかり忘れてしまう……。
または、色々な書籍を読んでも、その内容を覚えていない……。
さらには日々、多くの方々とお会いして「なるほど~」と気付きを得ても、全く身に付かない……。
といったことで悩んだことはありませんか。そんなことでいつも困っていた、新潟経済社会リサーチセンターの江口です。
こうした中、先日読んだ書籍の一文にとても勇気付けられました。それは…
最大のポイントは、記憶に頼らないという心構えを持つということです。
山口周(2015)『外資系コンサルの知的生産術 プロだけが知る「99の心得」』光文社新書
との文章です。
つまり、脳の記憶に頼らず、例えばEvernote(エバーノート)のような記録媒体に知り得た情報をドンドンインプットして蓄積する。そして必要の都度、記録媒体から検索して情報を入手すれば良いとの考えです。この一文で少しホッとしました。
こうした情報の入手、分析方法だけでなく、仕事の進め方、クライアントとの接し方など、すぐに役立つ知的生産の方法が詰まった書籍――山口周『外資系コンサルの知的生産術』(光文社新書)――を本日はご紹介したいと思います。
特に、仕事の進め方で悩んでいるBtoB向けの営業職や、シンクタンクの研究員などに強くおすすめします。
なお、同書籍によると、本はアンダーラインを引きながら読み、このうち9か所まで選んで記録媒体に転記することをすすめています。あまり多すぎると面倒で続かなくなるためのようです。そこで、今回は書籍の中から私が「これだ!」と感じた9つのアンダーライン部分を下記にご紹介します。
1.顧客の期待値と現実のズレを調整する
何かしらの知的生産をおこなう際には
1:知的生産物のターゲットとなる顧客
2:顧客が求めている知的生産物の品質
3:知的生産にかけられる時間・金・人手(山口,2015)
を確認することが大切であり、その上で、
顧客側はいつまでに、どれくらいの品質の知的生産物が、どの程度のコストで出てくると期待しているのか、その期待値と現実とのあいだにあるギャップをどうすり合わせていくのか
(山口,2015)
が極めて重要だと語られています。
確かに仕事上、顧客との間で何かしらのトラブルが起きる場合は、この「時期・品質・コスト」のいずれか、あるいはその全てに、顧客との間に隔たりがある時が多いです。
したがって、納期前後のギリギリでトラブルになることを避けるためには、仕事の開始直後から、「時期・品質・コスト」に対する顧客の期待値をしっかりと見定めて、すり合わせをおきたいものです。
2.終わり方を意識しながら、仕事を始める
情報のインプットに関するコツについては、
インタビューに限らず、公開資料や社内資料を読み込む場合でも同様なのですが、アウトプットのイメージを固めた上で、「足りない情報項目」を探しにいくというモードでインタビューや資料レビューに当たると、驚くほど情報の取得効率が高まります。
(山口,2015)
と提案されています。
これは情報のインプットだけではなく、仕事全般に言える話でだと思います。つまり、何となく仕事をスタートさせるのではなく、出来上がりを意識しながら仕事を進めると、途中で迷走することなく、効率性が高まります。
以前、私も上司に「仕事は終わり方を常に意識しろ!」と口酸っぱく指導されましたが、最近、ようやく、この意味の重さを実感しています。
3.一次情報に触れる
成果物を作る際のヒントも提示されています。
知的生産の実務においてインパクトのある成果物を生み出すためには大きく二つのやり方があります。一つは、相手が知らないような一次情報を集めて情報の非対称性を生み出すというアプローチです。(中略)もう一つは、顧客がすでに知っている二次情報を高度に組み合わせて情報処理し、インサイト=洞察を生み出すというアプローチです。
(山口,2015)
当然、後者の方が能力・技術が必要となるので、まずは一次情報を手に入れることが推奨されています。
実際、ビジネスの現場においては、二次情報を加工して難しい分析結果を伝えるよりも、たった1つの成功事例や自分自身の体験を紹介した方がお客様に納得してもらえる場面が多い気がします。
難解な分析は知的な感じがして、ついつい、より難しい分析に走りがちです。しかし、それは単なる自己満足に過ぎないケースが多いものです。そのため、より納得性の高い事例や経験を集めることに注力した方が良いようです。
4.情報収集は行動力
それでは、大切な価値ある一次情報を手に入れるにはどうしたら良いのでしょうか。
情報収集の成否は「腰の軽さ」で勝負が決まるという側面があります。「腰が軽い」というのは「まず行ってみる」「まず聞いてみる」といった態度で、取れる情報をどんどん取りに行くという行動様式のことです。
(山口,2015)
ビジネスの現場では、何かしら暗礁に乗り上げた場合、解決方法を頭で考えても時間ばかりがすぎ、なかなか仕事が進まない時があります。そういう時には、キーパーソンとなり得る人に直接、聞きに行ってみると、ヒントが得られ、事態が打開する時があります。
困った時こそ、行動が大切なのかもしれません。
5.分析で終わらせない
一次情報の入手は極めて大切なことです。しかし、情報を入手し、整理して分析しただけで終わっては何も変わりません。なぜならば、何かしらの行動をするために、情報を入手・整理して分析するからです。
なんらかの形で知的生産に従事する際には、常に、最後は「では、どうすればいいのか?」という問いに対して答えを出すのだ、という気概を失わないようにしてください。
(山口,2015)
あえて行動に踏み込まず、抽象的に終わらす場合も世の中にはあります。それでも常に現実的な答えを用意する姿勢を忘れないようにしたいものです。総論だけではなく、各論――具体的な行動がなければ何も変わらず、単なるレポートで終わってしまいます。
6.紙に書き出す
続いては、一次情報から結論を導き出す際のコツについてです。
一次情報から洞察や示唆を引き出す際の作業上のコツについて説明しましょう。それは、紙に書き出してみて並べてみる、ということです。(中略)紙に書き出して情報を並べてみることで、自分では思いもしなかった情報の組み合わせが生じて、それが新しい洞察や示唆につながるわけです。
(山口,2015)
これは他の多くの書籍でも指摘されている点ですが、ノートでもカードでも、どのような形式でも良いので、思いついたことをひたすら紙に書き出すだけで頭の中がスッキリすることがあります。どうしてもパソコンの前で考えこんでしまいがちですが、やはり、デシタルとアナログのバランスが大切なようです。
7.事例分析する際には理由を考える
一次情報から結論を導き出す際のコツの2つ目です。
帰納という推論方法は、注意していないと浅い結論を導き出してしまうことがあります。どうして浅くなってしまうのかというと、メカニズムに踏み込まないからです(中略)「なぜ、そうなるのか?」という点がまったくわかりません。
(山口,2015)
幾つかの成功事例から結論を抽出するやり方は、よく使われる方法です。しかし、気を付けないと、単なる事例紹介で終わったり、間違った方向に導いたりすることにつながります。
そこで誤解を与えず、より納得性を高めるために、そのメカニズム、いわば「なぜその事例は上手くいったのか?」という理由をしっかりと考える癖を付けたいものです。
8.組織内の摩擦を恐れない
仕事を進めていくこと、どうしても関係者間で様々な摩擦が起こります。それについては、以下のように記述されてまいす。
組織の中に必ずカウンターバランスを持ち、常に摩擦が起きるようにするとよいでしょう(中略)過去の歴史を振り返ると、長く続いた組織やシステムには、必ずカウンターバランスが働いていたことがわかります。
(山口,2015)
摩擦は時に苦しいものです。しかし、「ある程度の摩擦は健全な組織を保つためには良いことである」と前向きに捉えた方が良いようです。むしろ自分の意見が通りやすく、居心地が良すぎては、自分自身も組織全体もレベルが上がりにくいのかもしれません。
まとめ
「知的生産」に関する書籍は、大学生の時に梅棹忠夫著『知的生産の技術』 (岩波新書) を読んで以来、幾つかの本に目を通してきました。そうした書籍の中でも、今回ご紹介した山口周『知的生産外資系コンサルの知的生産術』(光文社新書)は、すぐに実践に役立つ示唆に富む優れた本でした。
その一方で、これまで「知的生産」に関する書籍を読んできた割には、自分の「知的生産」の技術がさっぱり上がっていないようにも感じ、やや反省してしまいました。この書籍で学んだことを少しでも実践につなげていきたいと思っています。