日本銀行「地域経済報告(さくらレポート)」をもとに2020年4月の景気の現状を確認【テキストマイニング】

新潟経済社会リサーチセンターの江口知章です。

感染防止に配慮しながら、経済活動の再開が徐々に進んでいます。ただし、外出を控える行動が続いており、個人消費が低迷するなど、景気は大きく落ち込んでいます。

その落ち込み状況を確認するために、今回は国内景気の現状について統計データではなく、企業に対して実施したヒアリング(インタビュー)調査を、「テキストマイニング」と呼ばれる方法で分析してみました。その結果を以下にご紹介したいと思います。

 

景気 経済 上昇

国内景気の現状

まずは国内景気の状況について、日本銀行「地域経済報告(さくらレポート)」に記載されている【企業等の主な声】をもとに確認したいと思います。なお、本報告は日本銀行が「支店長会議に向けて収集された情報をもとに、支店等地域経済担当部署からの報告を集約」¹し、四半期ごとに公表しているものです。

2020年1月の現状

景気の現状を新型ウイルスの感染拡大が大きく意識される前――2020年1月時点から振り返ってみましょう。2020年1月15日に発表された日本銀行「地域経済報告── さくらレポート ──(2020年1月)」をみると、各地域から様々な【企業等の主な声】が幅広い業種にわたって掲載されています。

この報告を分析²  すると、ヒアリング先の企業等から聞かれた様々な声のうち、最も多く用いられている語は「引き上げ」という語であり、以下「需要」「生産」「機械」「消費税」などが続いています。つまり、「消費税率の引き上げにより、需要や生産が落ち込んでいる」といった種類の意見が多くなっていることが、掲載された声の原文から確認できます。

202001-さくら-ワードクラウド図 テキストマイニング

※ ワードクラウドで表示。ワードクラウドとは、出現数の数の多さを、単語の大きさで表現・図式化したものです ³。

次に、より詳しい内容を確認するために、ヒアリング先の企業等で聞かれた声について、語の出現パータンが互いに似通った組み合わせを示すと、下の共起ネットワークの図となります(最小出現数15回以上、出現回数の上位60位以上)。

202001-さくら-共起 テキストマイニング

※大きな円ほど出現数が多く、太い線ほど関係が強いこと表しています。

図の真下をみると、 黄色のグループのように「消費税率引き上げ前の需要増加による反動から、売上への影響が大きい」といった種類の記述が、掲載された声の原文から確認できます。また、同様に図・左の緑色のグループをみると、「建設業では公共工事の増加が続いているものの、国内外の自動車販売が低迷している中、輸送機械や電気機械でも生産・受注が低迷している」といった種類の記述が確認できます。さらに、図・右のピンク色のグループをみると、「海外経済の減速」を指摘する記述や、図・右のオレンジ色のグループでは「キャッシュレス・ポイント還元事業が追い風になっている」といった種類の意見なども寄せられています。一方、図・真上の青色のグループでは「能力増強の設備投資」、図・真下の灰色のグループでは「人材確保」に向けた動きなどがあり、企業活動の前向きな取り組みについても語られていることが分かります。

2020年4月の現状

続いて、新型ウイルスの感染拡大後の状況についても確認してみましょう。

2020年4月9日に発表された日本銀行「地域経済報告── さくらレポート ──(2020年4月)」をみると、ヒアリング先の企業等で聞かれた声のうち、最も多く用いられた語は「ウイルス」であり、以下「影響」「生産」「減少」などが続いています。すなわち、2020年1月調査時には用いられていなかった「ウイルス」という語が一番多く出現するなど、新型ウイルスの感染拡大が突如、景気に暗い影を落としたことが理解できます。

202004-さくら-ワードクラウド図 テキストマイニング

※ ワードクラウドで表示。ワードクラウドとは、出現数の数の多さを、単語の大きさで表現・図式化したものです ³。

より詳しい内容を確認するために、企業から聞かれた声について、出現パータンが互いに似通っていた語の組み合わせを示すと、下の共起ネットワークの図となります(最小出現数11回以上、出現回数の上位60位以上)。

202004-さくら-共起 テキストマイニング

※ 大きな円ほど出現数が多く、太い線ほど関係が強いこと表しています。

図の真ん中付近の緑色のグループをみると、企業経営に「新型ウイルスの感染拡大が大きな影響」を与えていることが分かります。具体的には図・左下のように「外出の自粛で売上や来客が大幅に減少しており、観光でも宿泊予約のキャンセルが相次いでいる」、図・右のように「中国での工場の稼働低下や中国等からの部品調達難などもあり、生産が落ちている」といった種類の記述が、掲載された声の原文から確認できます。また、同様に図・右上のように「先行きの不透明感から設備投資の見送る」動きがある一方で、「能力増強投資を積極的に進める」といった種類の声も確認できます。さらに、図・下の赤色グループのように「公共工事は高水準で推移している」との記述や、図・左上のピンク色のように「スーパーでは食品が好調」との意見、さらに図・真ん中付近の黄色のグループのように「研究開発は着実に進めたい」との声も確認できます。

2020年1月と4月のそれぞれに特徴的な言葉

2つの調査結果について、特に多く出現している言葉、つまりそれぞれの月を特徴づけるような言葉を確認したいと思います。

2020年4月さくら特徴語

上の表をみると、2020年1月調査では「引き上げ」「需要」「消費税」「率」などの語が特徴的な語としてあげられています。一方、2020年4月調査では「新型コロナウイルス感染症」「影響」「拡大」「生産」などが特徴的な語としてあがっています。つまり、2020年1月と4月の間で、景気に大きな影響を及ぼした要因が「消費税率の引き上げから新型ウイルス」へと変わったことが確認できます。

まとめ

今回の結果をみると、出現数で最も多かった語は1月で「消費税」、4月で「新型コロナウイルス感染症」となりました。通常では見かけない語が1位を獲得しており、2020年に入ってからは例年とは異なる強い逆風が企業経営に吹き続けていることが理解できます。

また、こうした厳しい声を多くみかける一方で、一部の企業では能力増強投資や研究開発に積極的に取り組む姿勢を崩していないことも確認できました。目先の対応に終始しがちな時期ではありますが、先を見据えた対応の大切も実感しました。

このように今回は、統計データでだけではうかがいしれない企業の声を可視化でき、ひじょうに有意義なものとなりました。単に報告書を読んでいるだけでは見落としていたかもしれない点も抑えられたような気がします。今後も統計データ以外にも企業の声といった定性的なデータも組み合わせて、景気の現状をみていきたいと考えています。

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¹ 日本銀行のWebsite「地域経済報告―さくらレポート―」
ttps://www.boj.or.jp/research/brp/rer/rer200409.htm/ 
https://www.boj.or.jp/research/brp/rer/rer200115.htm/
(2020年6月9日アクセス)


²  今回の分析にあたっては、「KH Coder」を使用させていただきました。この場を借りて感謝申し上げます。

参考にしたWebsiteは次のとおりです。

  • KH Coder のWebsite https://khcoder.net/ (2020年6月9日アクセス)

併せて、以下の書籍も参考にさせていただきました。

  • 樋口耕一,2020,『社会調査のための計量テキスト分析【第2版】』ナカニシヤ出版
  • 牛澤賢二,2018,『やってみようテキストマイニング』朝倉出版
  • 末吉美喜,2019,『テキストマイニング入門』オーム社

なお、速報性を優先して、簡便に分析した結果となっているほか、分かりやすさに配慮して意訳しているところもあるため、取り扱いにはご注意ください。

また、分析にあたっては新型ウイルス関連の用語は「新型ウイルス」で統一するなど、適宜、語の変換処理・削除・訂正(クリーニング)などを実施しています。

³ ワードクラウドは 「E2D3」を使用させていただきました。この場を借りて感謝申し上げます。

参考にしたWebsite は次のとおりです。  

  • E2D3のWebsite https://e2d3.org/ (2020年6月9日アクセス)

また、速報性を優先して、簡便に分析した結果となっているほか、分かりやすさに配慮して意訳しているところもあるため、取り扱いにはご注意ください。

なお、文字をコンパクトにして図式化する必要などから、新型ウイルスを「ウイルス」で表記するなど、適宜、語の変換処理・削除・訂正(クリーニング)などを実施しています。