観光はレジャーと限らない

私どもの機関誌「センター月報」では、毎月、井門観光研究所の井門隆夫先生より、地域活性化や観光振興などに役立つヒントやアイデアをご紹介いただいております。

今月の「センター月報11月号」では、Go Toトラベルキャンペーン後の観光について、ご寄稿いただきました。本日はその原稿の一部をご紹介いたします。

 

アフターコロナ 観光

ごほうび旅行後の「逆転の発想」

Go Toトラベルキャンペーンで観光地がにぎわっている。東京都が適用となったことや秋の行楽シーズンが重なったこと、15%相当の地域共通クーポンが付くようになったこと、高速道路も周遊割引が効くようになったことなどから、週末だけではなく平日にも観光客が戻ってきて、なかには年明けまで満館という宿も散見されるようになった。おそらく、やっとキャンペーンが認知されてきたことに加えて、周囲も出かけているから大丈夫と同調圧力も解け、長い自粛生活からのごほうび需要が生まれているのだろう。

しかし、「率」で割り引かれる方式であることから、今回のキャンペーンでは高額な宿や商品に傾斜してしまっていて、低価格の宿との差が生まれている。大浴場で他者と接しない露天風呂付客室や食事を部屋提供する旅館などが売れ、宿泊事業者や旅行会社もさらに様々な付加価値を付けてより高額で販売しようとしている様子が感じられる。

あるいは、自動車教習所と提携し、合宿教習料金が割り引かれる商品まで登場し、観光の趣旨から外れているのではないかという意見も出ている。ただし、観光とはレジャーだけではない。人の移動はすべて観光であると広義にとらえることも必要だ。今こそ、1970年代から続いてきた「観光=レジャーという呪縛」から解放されるときではないかとも思う。

おそらく「観光=レジャー」という発想が今後も続く限り、需要は有名観光地や有力旅館に一層集中していくと思う。アナログからデジタル時代へと変わり、情報源がガイドブックやパンフレットといった客観情報からクチコミサイトや友人のSNSという主観情報へと変わり、クチコミやSNSで情報発信の多い観光地や宿にどんどん集中するようになっているためだ。これは、簡単には後戻りできない現象である。

そのため、もし有名観光地でも有力旅館でもない地域や宿が挽回するとすれば、同じ「レジャー」という土俵で勝負するのではなく、「広義の観光」をとらえていく必要がある。

少なくとも江戸時代の旅は「不要不急のレジャー」ではなく、湯治場で病を治癒するためであるとか、飢えをしのぎ豊作を祈るために講を組んで寄進を募り、社寺への祈願参拝を目指すなど「人々の悩みや願いの解決」という目的があった。

(中略)

今、若い世代がごほうびで来ていたとしても、これからもずっと同じようにレジャーで来るとは限らない。冬のボーナスが減額となり、年収ダウンとなった途端、旅行には渋くなるはずだ。これまで需要を支えてきた高齢者層も自粛が解けず、減少していくのが確実だ。そのため、2021年は「広義の観光」を考えなくてはならない時代に突入するだろう。もう一度、発想を200年前の江戸時代への回帰させる逆転の発想が求められている。

(中略)

逆転の発想の第一は「個人から団体へ」の回帰である。近年、過去にあったような職場旅行や招待旅行のような団体旅行が影を潜め、観光需要は「団体から個人へ」のシフトが定説となっている。しかし、本当にそうだろうか。個人需要だけをあてにする限り、景気に左右され続け、実質賃金指数と並行して旅行実施率が低下し、観光市場は縮小し続けるおそれを感じる。

そこで、団体に目を向け、例えば中世から戦後にかけて活発だった「講」を現代に復活するような発想も必要だと思う。多くの団体旅行ニーズが市場に眠っているような気がするのだ。

(中略)

ほかにも団体ニーズを感じるのは、様々な「オフ会」だ。現代、コミュニティはリアル空間からサイバー空間へと場を変え、強いつながりから弱いつながりへとシフトしている。かつては数年も会わないと年賀状だけのやり取りとなり、リアルで会うという機会は失われてしまったと思うが、現代は違う。SNSでつながっている限り、何年も会っていなくともいつでもつながっている。何かのきっかけを作り皆でオフ会を開催し、リアルの場で再会しようという連絡はすぐにでもできる。

(中略)

第二の「逆転の発想」が、旅先での「料理の簡素化」だ。Go Toキャンペーン実施期間中はおそらく割引が効くということもあり、高額な料理の人気が高いかもしれないが、勘違いをしてはいけない。現代の生活者は、もてなしの象徴である豪勢な料理を食べ残すことに強い罪悪感を持ち、食品ロスを出さないことが善というソーシャル性を持ち合わせている。加えて、好き嫌いも顕著となり、肉料理をメインに据える旅館などの人気が高まっている。

そうしたとき、地産地消とはいえ原価の高い食材を仕入れることに疑問符をつけることも必要だ。もしそうした食材を検討するのであれば、一括仕入れを行ない、調理済食材を真空または冷凍保存できる手法を検討するなど、原価と人件費を抜本的に下げる工夫を実践すべき時代になったと思う。極論すれば、調理師のいる旅館は地域に1軒でよいのかもしれない。観光=レジャー時代にはハレの料理が求められた。しかし、旅が単純なレジャーではなく、日常の課題解決が目的となったとき、豪勢な料理はもういらないと思う。それよりも、日常、自分でも調理できるようレシピを提供できるような料理とサービスが求められてくるのではないだろうか。

もしかしたら、こうしたことは頭には思い浮かぶが、地域の足並みがそろわないのかもしれない。地域の一軒一軒が個性を発揮して別々の業態や集客手法を目指したいが、皆が同じ方向を向いて競合し、コストをかける競争が終わらない、というのであれば、地域で会社をひとつにまとめ、一社のもとに業態を分けていくという手法を検討すべき時代が目の前に迫っている。


井門隆夫(2020)「観光イノベーションで地域を元気に 第43回」『センター月報』2020年11月号

感想

Go Toトラベルキャンペーンへの対応で観光地は賑わいをみせつつあります。その一方で、人口減少時代を迎える中、Go Toトラベルキャンペーの終了後も見据えながら、従来のレジャー型観光以外の需要創出方法について、対策を練り始めていく必要がありそうです。