新潟経済社会リサーチセンターの小林です。
今回は、アンケート調査の選択肢の並び順を入れ替えることで、回答結果が変わることについてみていきたいと思います。今回も、これまでのアンケート調査に関する投稿で引用してきた、平松貞実著(2011)「事例でよむ社会調査入門-社会を見る眼を養う」(新曜社)で紹介されている事例をみていきます。
選択肢の順番を逆転すると・・・
同書の第3章では、設問文と選択肢は全く同一であるのに、選択肢の順番(並び順)を入れ替えることで、回答結果が変わった事例が紹介されています。まず、設問文と1パターン目の選択肢の並び順と回答割合は以下のとおりです。
【設問文】
あなたは次のような生活のどれが一番よいと思いますか。
【1パターン目:A調査】
①何でもそろっていて便利で豊かな生活:6%
②その日、その日を愉快に楽しむ生活:17%
③なごやかな平和な家庭で暮らす生活:51%
④やりがいのある仕事に打ち込む生活:17%
⑤世の中のためになることをする生活:8%
この1パターン目(A調査)の選択肢の順番(並び順)について、③の選択肢を中心に逆転させたのが2パターン目(B調査)で、その選択肢の並び順と回答割合は以下のとおりです。
【2パターン目:B調査】
①世の中のためになることをする生活:13%
②やりがいのある仕事に打ち込む生活:28%
③なごやかな平和な家庭で暮らす生活:45%
④その日、その日を愉快に楽しむ生活:13%
⑤何でもそろっていて便利で豊かな生活:2%
A調査とB調査それぞれの結果を比較しやすくするため、A調査の選択肢の並びで、A・B両調査の回答割合をまとめると以下のとおりです。
①何でもそろっていて便利で豊かな生活:6%、2% (A調査、B調査の順。以下同じ)
②その日、その日を愉快に楽しむ生活:17%、13%
③なごやかな平和な家庭で暮らす生活:51%、45%
④やりがいのある仕事に打ち込む生活:17%、28%
⑤世の中のためになることをする生活:8%、13%
以上の結果をみると、例えば、A調査の一番目の選択肢である「①何でもそろっていて便利で豊かな生活」は6%とB調査の2%に比べて4ポイント高く、A調査の上から二番目「②その日、その日を愉快に楽しむ生活」は17%とB調査の13%に比べて4ポイント高くなっています。
また、B調査の一番目の選択肢である「①世の中のためになることをする生活」は13%とA調査の8%に比べて5ポイント高く、B調査の上から二番目「②やりがいのある仕事に打ち込む生活」は28%とA調査の17%に比べて11ポイントも高くなっています。つまり、選択肢の順番が前にある方が、回答割合が高くなる傾向があるようです。
実際に試したところ・・・
以前の投稿「【アンケート調査】設問の仕方で結果が変わる?」でもご紹介した、統計に関するある勉強会で、受講者の皆さん(約50名)を対象に、上記の設問のパターン1(A調査)を半分の皆さんに、パターン2(B調査)を残りの半分の皆さんに回答していただきました。その時の結果は以下のとおりです。
①何でもそろっていて便利で豊かな生活:4%、7% (A調査、B調査の順。以下同じ)
②その日、その日を愉快に楽しむ生活:12%、7%
③なごやかな平和な家庭で暮らす生活:76%、68%
④やりがいのある仕事に打ち込む生活:8%、11%
⑤世の中のためになることをする生活:0%、7%
「①何でもそろっていて便利で豊かな生活」の選択肢のみ、上記の書籍の結果と異なりますが、それ以外は、選択肢の順番が前にある方が、回答割合が高くなるという結果となっています。
まとめ
以上のような結果となる背景として、上記の書籍では「あらかじめ印刷された回答のなかから選ぶとなると、人間は初めの方に○を付けがちだから」(P66)としています。
これらを克服する手段として、選択肢の並び順が異なる2種類(または多種類)の調査票を用意し、回答してもらうといった方法が考えられます。
しかし、実際にアンケート調査を行うには、時間やお金などの面で各種制約があることから、全員同一の調査票でアンケート調査を実施するのが一般的です。したがって、通常のアンケート調査においては、上記の問題点を完全に排除することはできないことをよく理解したうえで、選択肢の並び順を故意に操作するといったことは慎む必要があると思われます。
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