収益性の高い観光地を目指して

新潟経済社会リサーチセンターの江口知章です。

私どもの機関誌「センター月報」では、毎月、井門観光研究所の井門隆夫先生より、地域活性化や観光振興などに役立つヒントやアイデアをご紹介いただいております。

今月の「センター月報2月号」では、これからの観光地が目指すべき方向性について、ご寄稿いただきました。本日はその原稿の一部をご紹介いたします。

 

井門隆夫氏

トンネルの先の世界


「1.すべてが仮説」
 
私たちは、まだ新型肺炎の長いトンネルの中にいる。トンネルを抜けると美しい世界が広がっていればよいのだが、私たちはどこに向かっているのだろう。
 
昨年(2020年)5月、新型肺炎で発令された緊急事態宣言が解除される少し前、“赤信号だけど一台も車は走っていない道路の横断歩道”を渡る気持ちで、関東から島根県に飛んだのを最初に、一年を通して全国各地を訪れてきた。年が明けてからの二度目の緊急事態宣言下でも、豪雪の新潟県をはじめ、各地を歩いている。
 
当然、うさん臭い目で見られることもしばしばだった(中略)
 
なぜ、そこまでして各地に出かけていったかといえば、マスメディアの情報だけでは現実の全てが見えてこないと思っているからだ。加えて、観光を学ぶ学生たちにも現実を見せ、体験させておきたかった。もちろん、体調管理と感染対策は徹底したうえである。
 
例えば、メディアの情報といえば、よく「高級な宿ばかり集客できて、価格の低い宿が恩恵に被れていない」という報道がされていた。しかし、実際は必ずしもそうではなく、価格の低い宿にもお客様は来ているケースも多々あった。
 
自分の目で確かめ、現地で話を聞けば、新たな発見があり、自分の頭で考えることができる。日本人は、島国だからだろうか、正論めいた意見や、多数意見に支持が流れ、異論は攻撃の対象となることがよくある。批判的な思考ができず、常に正解を追い求めようとする。社会に正解はなく、あるのは仮説だけなのに「仮説」(たぶん、こうじゃないだろうか)という意見を排除し、蓋をする。
 
(中略)
 
「2.情報の被発信量の差」
 
「集客できていたのは高い宿ばかりではない」というなら、どういう宿が集客できていたのかといえば(もちろん仮説にすぎないが)「情報発信がされていた」地域や宿である。「情報発信をしていた」ではなく、「されていた」と受動態なのは、発信していたのは地域や宿ではなく、その利用者であるためだ。つまり、観光客がSNSで発信し続けた地域や宿が集客できていたのではないかというのが私の仮説である。結果として、自慢したいがゆえに高い宿が人気だったのは否めないが、写真映えせずに自慢できず、被発信量が少なければ、そうではなかったのではないかと思う。
 
おそらくOTA(オンライン予約サイト)の時代もあと10~20年。検索エンジンに慣れ親しんだ現在の40~50代よりも、SNS派の20~30代の発信量が市場を凌駕する時代がやがて来て、検索エンジンを使わずに、友人・知人の情報からダイレクトに予約へ飛ぶ時代へと予約のしかたも変わっていくだろう。いや、もっと早くそういう時代になるかもしれない。というのも、SNSを使う20~30代(Y/Z世代)は人口が少なくても発信力が強く、40~50代はずいぶん引っ張られている。その上の60代との大きな差は、カラオケの選曲でわかる。ぎりぎり50代までは現在流れているJ-POPを歌うが(おそらく息子・娘がいるからだろう)、60代になると途端に懐メロになり、その間の時代の曲がない。
 
新型肺炎で苦しんだ年を境に、団塊の世代が完全に旅の主役から降り、40代以下世代へとシフトが始まっている。SNSでの被発信地域と宿への人気が集中する傾向は、今後も続くだろう。
 
「3.トンネルの先は違う世界」
 
アナログからデジタルへと時代が移行するのに伴い、様々な制度や商習慣も変えていかなくてはならない。アフター新型肺炎の時代ではなく、50年ぶりの、いや、人口増加が始まり観光の大衆化・余暇化が始まった産業革命以来200年ぶりの、大きな転換期を迎えようとしている。
 
新しい時代は、ひと言でいえば「人口減少時代」。日本の人口減少は、このまま半永久的に続いていく。これからデジタルトランスフォーメーション(DX)の時代だといわれるのも、働き手が減り続けるためだ。採用難の時代というのはいつか終わるものではない。未来永劫に続くと思わなくてはならない。しかし、DXに取り組みたくても、先立つものがない。そのため、現在のオペレーションを変えることができない。たとえできたとしても高齢化した社内には反対勢力が多い。現在のオペレーションのままで何とか増益ができないか。というのが多くの企業の目先の課題だろう。しかし、それは簡単ではない。
 
そのために、2021年は様々な業界でM&A(事業譲渡)が進むだろう。それは、現在の事業に収益性の高い事業を加えていくことにより、全社での収益性を高めるという手法である。このコラムでも何度かお伝えしているが、温泉地を例にすれば、1泊2食型の旅館が、他の旅館の事業譲渡を受け、調理場をなくして素泊まり型に変えるという方法を取ると収益性は高まる。そして、こうした手法で有名温泉地が変わろうとしている。
 
有名温泉地がどの宿も高収益となり、DXが進んでいくと、地方の温泉地はもう太刀打ちができなくなる。そうならないうちに、今、課題を地域で共有していかなくてはならない。トンネルの出口には、昔の時代は待っていない。
 
おそらく、この話題を進めるには、21世紀における観光地のエコシステム(ビジネス循環の仕組み)を提示し、その理想をめざすには、これから何をすればよいのかというバックキャスティング(フォーキャストの逆で将来から今を予想すること)で考えていくほうがよいのかもしれない。
 
これまでの人口増加時代には、待っていればお客様は来た。ライバル会社と同じ商品を売ることで、地域は潤った。しかし、これからは、お客様は自分で創っていかなくてはならない。ライバル会社とは違う土俵を作り、その中で生涯顧客を育てていかなくてはならない。そのためには、何を変え、何を目指せばよいのか。
 
次回は、(中略)観光地のエコシステムを提案してみたい。




井門隆夫(2021)「観光イノベーションで地域を元気に 第46回」『センター月報』2021年2月号

感想

当然ながら目先の対応も必要ですが、長期的に取り組むべきこと、目指すべき将来像を抱くことの大切さを痛感しました。