新潟経済社会リサーチセンターの江口知章です。
年度末を迎えると、仕事が忙しくなる一方で、与えられた有給休暇を取得しておこうか?と悩む人もいらっしゃると思います。
そこで今回は、有給休暇に関わるデータについて調べてみましたので、その結果をご紹介したいと思います。
年次有給休暇とは?
まずは年次有給休暇について、その内容を確認しておきましょう。
厚生労働省「労働基準法に関するQ&A」によると、
年次有給休暇とは、一定期間勤続した労働者に対して、心身の疲労を回復しゆとりある生活を保障するために付与される休暇のことで、「有給」で休むことができる、すなわち取得しても賃金が減額されない休暇のことです。
年次有給休暇が付与される要件は2つあります。(1)雇い入れの日から6か月経過していること、(2)その期間の全労働日の8割以上出勤したこと、の2つです。この要件を満たした労働者は、10労働日の年次有給休暇が付与されます。また、最初に年次有給休暇が付与された日から1年を経過した日に、(2)と同様要件(最初の年次有給休暇が付与されてから1年間の全労働日の8割以上出したこと)を満たせば、11労働日の年次有給休暇が付与されます。
厚生労働省「年次有給休暇とはどのような制度ですか。パートタイム労働者でも有給があると聞きましたが、本当ですか。」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/faq_kijyungyosei06.html <2018年3月9日アクセス>
と説明されており、より具体的には「雇い入れの日から起算した勤続期間」が6か月であれば、「付与される休暇の日数」が10労働日、同様に1年6か月の勤続期間であれば11労働日といった具合に上記Websiteに表で示されています。なお、同じく6年6か月以上の勤続期間の場合は20労働日となっています。
年次有給休暇の付与日数
次いで、年次有給休暇の付与日数の現状を確認してみましょう。厚生労働省「平成29年就労条件総合調査」をみると、2016年(または2015 会計年度)の1年間に企業が付与した年次有給休暇日数(繰越日数を除く)は労働者1人平均 18.2 日でした。
これを企業の規模別にみると、「30~99人」の企業規模で17.3日、「100~299人」で17.6日、「300~999人」で18.2日、「1,000人以上」で19.2日となり、概ね同じような日数となっています。ただし、わずかではありますが、企業規模が大きいほど付与日数が多い傾向もみられます。
年次有給休暇の取得状況
また、厚生労働省「平成29年就労条件総合調査」をみると、企業が付与した年次有給休暇のうち、労働者が取得した日数¹は 9.0日、取得率²は 49.4%となっています。内閣府男女共同参画局「第4次男女共同参画基本計画」(2015年12月25日決定)によると、年次有給休暇取得率を2020年度までに70%にする成果目標が示されていますので、その目標値を約20ポイント下回る水準にとどまっています。
¹取得日数とは、前年(または前々会計年度)1年間に実際に取得した日数。
²取得率とは、取得日数計/付与日数計×100%。
さらに、取得率を企業規模別にみると、「30~99 人」が43.8%、「100~299 人」が46.5%、「300~999 人」が48.0%、「1,000 人以上」が55.3%となっており、企業規模が大きくなるほど取得率は高くなっています。
加えて、取得率を業種別にみると、業種間の格差もみられます。取得率の高い業種をみると、「電気・ガス・熱供給・水道業」が71.8%、郵便局や協同組合などが含まれるとみられる「複合サービス事業」が64.6%、「情報通信業」が58.9%などとなっています。一方、取得率の低い業種をみると、「宿泊業,飲食サービス業」が32.8%、「卸売業,小売業」が34.9%などとなっています。定休日の少ない業種では取得率が上がりにくい傾向があるのかもしれません。なお当然ながら、働きやすさは有給休暇の取得率だけではなく、年間休日総数や労働時間数など総合的にみて判断する必要があることには注意が必要です。
念のため、有給休暇取得率の長期的な推移をみると、2000年頃からは概ね横ばいで推移しています。ただし、直近では2年連続で上昇しています。
有給休暇の取得率向上に向けて
それでは、有給休暇の取得率を上げていくには、どうしたら良いのでしょうか。
厚生労働省「2.年次有給休暇の取得促進」で紹介されている取組事例をみると、企業側が有給休暇の取得しやすい社内体制を整備したり、取得しやすい雰囲気をつくることが重要であるとことが分かります。その一方で、労働者側にも取得に向けた計画的な仕事の進め方が求められそうです。
具体的には以下のような工夫が紹介されています。
・全従業員の年次有給休暇の取得計画表を全員が見える場所に掲示し、取得促進を呼びかけ、従業員の意識啓発に努めた。<製造業/52人>
・従業員全員が年次有給休暇の日数を確認できるようにするため、年次有給休暇管理表を掲示するとともに、取得日数が少ない従業員に対しては、管理職より年次有給休暇を取得するよう勧奨した結果、当初5割を下回っていた年次有給休暇の取得率が2年間で7割にまで向上した。<運輸業/55人>
・誕生日休暇を創設し、確実に取得させるために、該当者に対して年次有給休暇の取得を促すメッセージを給与明細書も同封した。<運輸業/4人>
・全社員のスケジュールを掲示し、取引先や顧客へ支障がでないよう、社内で連携した。
・年次有給休暇が取得しやすいよう繁忙日に合わせて派遣社員を増員するなど人員配置の見直しを行った。<卸売・小売業/8人>
・年次有給休暇の取得率を向上させる方法を検討をするために、取得率が40%以下の社員を対象に「有給休暇の取りやすさ・取りにくさ」について、アンケート調査を実施し、阻害要因を少しずつ解消することにより、取得率が低い従業員への取得促進を図ることとした。<卸売・小売業/182人>
・総務課長を「年休ドクター」に任命し、従業員全員の「年休カルテ」を作成。年次有給休暇の取得状況に応じて従業員と面談を行い、従業員の意見・要望をヒアリングし、年次有給休暇が取得しやすいようにアドバイス等を行った。
厚生労働省「2.年次有給休暇の取得促進」
http://www.mhlw.go.jp/general/seido/roudou/jikan/shigoto_seikatu_02.html <2018年3月9日アクセス>
感想
「祝日」のように皆で一斉に休む以外にも、仕事の繁閑や、子育て・介護・通院といった本人の都合に合わせた休暇の取得が進むようになると、より豊かな生活がおくれるような気がします。ただし、それには仕事も休暇も計画的かつ早めに動くことが不可欠なようです。
なお、厚生労働省「平成29年就労条件総合調査」の主な調査概要は下記の通りとなっています。
【調査対象】
日本標準産業分類(平成25年10月改定)に基づく16大産業に属する常用労働者が30人以上の民営企業
【調査対象数・有効回答数・有効回答率】
調査対象数 6,367
有効回答数 4,432
有効回答率 69.6%
【調査時期】
2017年1月1日現在の状況について調査を実施。
ただし、年間については、2016年(または2015会計年度)1年間の状況について調査を実施