こんにちは。新潟経済社会リサーチセンターの江口です。
今年も残りわずかとなりました。来週末には新年を迎えることになります。
新年といえば……初日の出、初詣、年賀状、そして「おせち料理」でしょうか。そのおせち料理が和食の世界遺産(ユネスコ無形文化遺産)登録に重要な役割を果たしたことをご存知でしょうか。
今日は和食をはじめとした世界遺産登録の舞台裏を分かりやすく説明した書籍をご紹介したいと思います。
無形文化遺産とは?
そもそも、和食が登録された「無形文化遺産」とは、どのようなものなのでしょうか。
農水省のウェブサイトによると、無形文化遺産とは
芸能や伝統工芸技術などの形のない文化であって、土地の歴史や生活風習などと密接に関わっているもののこと
と定義されています。
また世界遺産と対比すると、
無形文化遺産が形のない文化を対象としているのに対して、世界遺産は建築物や自然などの有形のものを対象としている点
に違いがあるとしています。
また、日本では2013年4月現在で、能楽、人形浄瑠璃文楽、歌舞伎など21件が無形文化遺産に登録されており、新潟県の小千谷縮・越後上布も2009年に登録されています。
和食とは?
また、農水省のウェブサイトを読むと、和食という料理メニューが登録されたのではなく、
「自然の尊重」という日本人の精神を体現した、生産から消費に至るまでの食に関する社会的慣習
としての和食が登録されたようです。つまり「日本人の伝統的な食文化」として登録されたわけです。
なお、食に関するユネスコの無形文化遺産としては、和食以外に
「フランスの美食術」「地中海料理」「メキシコの伝統料理」、トルコの「ケシケキの伝統」に加え、昨年、「和食」のほか、韓国の「キムジャン: キムチの製造と分配」、トルコの「トルココーヒーの文化と伝統」、グルジアの「クヴェヴリ」が新たに登録
されたと表記されています。
和食が無形文化遺産に登録された理由とは?
こうした中、和食がユネスコの無形文化遺産に登録された舞台裏を紹介した木曽功氏著『世界遺産ビジネス』(小学館新書)を先日、読みました。著者は文部省(現在の文部科学省)に入省後、ユネスコの世界遺産事業に長らく関わってきた方です。
同書を読むと、和食の無形文化遺産はひじょうに厳しい状況を乗り越えて登録に至ったことが理解できます。
なぜ厳しい状況だったのかといえば、世界遺産は人類共通の遺産を保護・保全するという理念を大切にしているため、
和食は大ブームで商業的に成立している。無形文化遺産で保護する必要はない
という理由からでした。
そこで、補足のストーリーを付け加えて申請したというのです。
『和食:日本人の伝統的な食文化』というタイトルに、「正月料理を例として」という文言を付け加え、申請書本文もそれに合わせて微修正したのです。
今、おせち料理を自分で作っている家庭はどんどん減っています。何世代か経つとなくなってしまうかもしれません。「正月料理を例として」というのは、このように日本の伝統的な食文化がなくなりつつあるというストーリーを表したものなのです。
たしかに無形文化遺産として保護する必要がある――ストーリーの補足によって、専門家の見方はがらりと変わりました。
こうした背景を知ると、やや複雑な気持ちにもなります。「和食が世界遺産として認められた」と単に嬉しがっているだけでは良くないようです。
なお、本書籍は和食の話以外にも
- 世界遺産条約成立のきっかけ
- 日本の世界遺産登録が遅れた背景
(2014年時点で登録数第13位) - 本来の目的である保護・保存と開発を巡る問題
- 登録までの手続きと舞台裏
- ロビイングの実態
- 無形文化遺産、世界記憶遺産が生まれた経緯
- 世界遺産と観光客の入込の関係
- 世界遺産の加熱化から生まれたコンサルティング業の実態
- 1,000件を超えた世界遺産の今後
など、盛り沢山の内容となっています。
世界遺産に興味のある方には、とても役立つ書籍だと思われます。
木曽功著『世界遺産ビジネス』を読み終えて
同書を読み、「おせち料理は、日本の食文化を代表する料理の一つなのだ」と改めて認識いたしました。
なお、おせち料理を我が家では作っていませんが、おせち料理の意味などは子供に伝えてきました。
新年は「和食の無形文化遺産登録」の意味合いを意識しながら、いつもの年以上に、力を込めておせち料理の意味を伝えたいと思います。