M&A(事業譲渡)を活用して地域企業の灯を守る方法とは?

新潟経済社会リサーチセンターの江口知章です。

私どもの機関誌「センター月報」では、毎月、井門観光研究所の井門隆夫先生より、地域活性化や観光振興などに役立つヒントやアイデアをご紹介いただいております。

今月の「センター月報1月号」では、地域でM&A(事業譲渡)を活用して企業の灯を消さない方法について、ご寄稿いただきました。本日はその原稿の一部をご紹介いたします。

 

井門隆夫氏

複数の旅館を経営する事業体へ~資本または所有・運営分離~

近年、日本の中小企業は労働生産性が低いと指摘され、論争が起きている。そのために最低賃金を上げよとか、再編を促せとか、政策も動き出している。
しかし、低いのには理由がある。最大の理由は収益性が低いことであるが、労働集約型のサービス業が多いという背景もある。

(中略)

とはいえ、時代環境が変わってきた。株主やコンプライアンス重視の経営が大企業に普及するなかで、このままでは収益性に差が生まれるばかり。労働人口が減っていく時代にあって、都市の大企業に人は集中していってしまうのは自明の理だ。地域を存続させ、事業の灯を守るためにも、中小企業も変わらなくてはならない。

その進化プロセスについて、宿泊業を例にとって考えてみる

(中略)

例えば、1軒の旅館を経営する中小企業がそこにあたる。しかし、そうした企業の中には、後継者がなく、あるいはいたとしても先々の不安から、現在の給付金やキャンペーンが終了した際には廃業もやむなしと考えている企業も少なくない。そのため、ポスト新型肺炎には多くの宿泊業の灯が消えてしまうおそれをはらんでいるのが現状だ。そうした事情もあり、観光庁では次年度には廃屋の撤去費用の予算化も検討している。但し、廃業が増えてしまえば、地域の雇用は萎み、経済効果も薄れていってしまう。これ以上、地域の灯を消してはならないと首長には宣言をして欲しい。

(中略)

しかし、都会への人材シフトが進むことによる後継者不足の波を止めることは容易ではない。どうしても休廃業を検討せざるを得ない宿があれば、地域でM&A(事業譲渡)を活用して企業の灯を消さない方法を検討して欲しい。具体例としては、(個人事業の場合法人成りして)休廃業予定の法人を地域内の中小企業に譲渡する。


(中略)

企業名はそのままでも、変えてもよい。譲渡を受けた宿は、同業態にするよりも、例えば、調理場を廃止し素泊まり型にして、多くの要員を使わない収益性の高い業態を考えるのが将来を見据えれば妥当だろう。最近では、スマホがルームキー代わりにもなる技術もある。デジタル技術も活用して、極力人を使わず、連泊需要等の売り上げを上げる方法を検討していく。問題は、宿に住居がある場合、転居をしなくてはならない点である。そうした費用については自治体等で補助を創設してもらえるととてもありがたい。

これにより、譲渡を受けた企業は

(中略)

(複数の旅館を経営する事業体)に移行していく。1泊2食付きの旅館に素泊まり型を加えれば、収益性を高めることができる。実際に草津温泉等、全国の有名温泉地では地元老舗旅館を主体としてこうしたM&Aが進み始めている。

ただし、戦略投資により事業譲渡を受けたときには負債がさらに増えてしまっている。いかによい人材を確保すると同時に、安定した資本構成にしていくかがその後の課題となる。

今後、中小企業に立ちはだかる問題のひとつがそうした「資本」の問題である。

(中略)

その対策として、大きなホテル業では建物に投資をして所有をする「所有」者と、事業を運営する「運営」者に分離し、所有者が運営者に業務を委託する方式が採られている。メリットとして、それぞれの専門企業に委ねることでリスクを分散し、収益性を高めることができる。しかし、より大きな資本参加を期待するためには、運営会社の収益性が高くないとならず、あまりに低いとそもそも運営を任せることができない。そのため、

(中略)

まず1施設の運営を受託することを目指す。資本を投下するのは地元の異業種でも、ファンドでもよい。より生産性の高い企業の参加を政策的に誘導することが望ましい。

(中略)

最終形は、

(中略)

「運営専門会社」としての事業モデルを確立することだ。この時点では営業利益率は30%程度まで向上していることだろう。

(中略)

所有者から受託した宿泊施設を運営する専門企業として地位を確立する。今後、各地で地域ごとの運営専門会社ができ、中小宿泊業の灯を守るとともに、新しい業態を創造・開発していくことがポスト新型肺炎における中小宿泊業の進化プロセスだと思っている。

同様の進化は、各業種でも考えられるだろう。共通点は、テクノロジーや業態の変化と多様化に取り組みながらプロ集団となり、収益性を高めて新たな資本を誘導して、安定した資本構成を構築していくことだ。

(中略)

新たな中小企業の幕開けとなる初年度が2021年になるかもしれない。



井門隆夫(2021)「観光イノベーションで地域を元気に 第45回」『センター月報』2021年1月号

感想

M&Aと聞くと、マイナスのイメージを抱く人も多いかもしれませんが、地域にある宿泊業の灯を守る方法の一つとして、縁ある地域内の関係者が「運営専門会社」を立ち上げる取り組みが今後、増えるかもしれません。