ガソリン需要が新型ウイルスの影響で低迷。原料である原油価格の動向は?

新潟経済社会リサーチセンターの近です。

今年の夏は新型ウイルスによって「特別な夏」となりました。例年、夏休みに家族連れなどで賑わう行楽地の人出は減少したほか、旅行や帰省の際の手段は密を避けるため公共交通機関ではなく、自家用車を使って移動する人が多かったようです。

自家用車を使うと気になるのは、ガソリン価格です。本日はガソリンの原料となる原油価格が決まる要因と原油価格の変動がもたらす影響についてみていきたいと思います。

 

原油価格の動向は?

まず、原油価格の代表指標となっているWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート、ニューヨーク証券取引で取引される原油価格)の価格推移をみてみましょう。

WTIの価格推移(月末終値)

これまで最も高くなったのは2008年7月で、1バレル=147.27ドルを記録しました。この原油価格の高騰を反映したガソリン価格(レギュラー現金価格、全国平均)は、1リットル=185.1円(08年8月)となりました。

一方、最低価格となったのは今年4月でした。1バレル=▲40.32ドルと史上初めてマイナス価格となり、大きなニュースになりました。 その後、原油価格は徐々に持ち直し、このところ比較的低位な水準(1バレル=40ドル台前後) で安定的に推移しています。

原油価格が変動する要因 ~需要サイド~

原油価格は、主に需要と供給とのバランスによって変動します。まず、需要要因からみていきましょう。

一つ目として、景気動向による需要の変化が挙げられます。原油はエネルギー消費の構成において高いウェイトを占めています。景気が良くなれば原油需要が増加し原油価格が上昇する一方、景気が停滞すれば需要が減退することから原油価格は低下する傾向にあります。

今年4月に原油価格が初めてマイナスとなった背景には、新型ウイルスの流行による世界的な景気減速に伴い、原油需要が低迷するとの懸念の高まりがありました。

二つ目として、再生可能エネルギーへのシフトがあります。原油などエネルギー資源は限りあるものであるため、枯渇する懸念があることに加え、原油が環境に与える影響が注目されていることが挙げられます。原油をはじめとした化石燃料により発生する二酸化炭素に起因する地球温暖化への対応や原油を原料とするプラスチックごみ減少への取り組みなど、原油を使ったエネルギー消費や製品への依存を軽減しようという動きが世界的に広がっています。こうした動きは中長期的に原油への需要を抑制する要因となります。

原油価格が変動する要因 ~供給サイド~

次に供給要因をみてみましょう。

一つ目として、OPECプラスの原油生産動向が挙げられます。OPECプラスとは、サウジアラビアやイランなどが加盟するOPEC(石油輸出国機構)に、ロシアなど非加盟国を加えた主要産油国の枠組みであす。これらの国々は世界の需給動向や在庫状況などを勘案し、原油の産出量を会合で決定しています。原油の産出量は全世界の4割を占めていることから、OPECプラスの会合の結果によって原油価格は大きく左右します。

二つ目は米国のシェールオイルの産出状況です。原油産出国というと、サウジアラビアやイランといった中東の国々を思い浮かべることが多いかもしれませんが、現在世界最大の原油産出国は米国です。米国では2010年頃からシェールオイル(岩盤に含まれる原油)の掘削が盛んになり、18年に原油産出量世界首位となりました。中東諸国では主に国有企業が原油の生産・販売を行なっていますが、米国で原油生産を行なっているのは民間企業であり、中小企業も多くなっています。

今回の新型ウイルスの影響により、米国ではこうしたシェールオイル関連企業の倒産や経営悪化が相次いでおり、米国の原油産出状況も注目していく必要があります。

三つめは地政学リスクです。過去の原油急騰局面をみてみると、原油産出国での政情不安や内戦・戦争といった地政学的な問題による原油の供給不安が高まった時期が多くなっています。 最近では米国とイランとの関係悪化が懸念されており、地政学リスクの高まりによる原油価格の上昇の可能性も考えられます。

また、 原油価格は需給バランスのほか、自然災害などによる原油供給の停滞や原油への投機マネーの動向などによっても大きく変動します。

原油価格の変動が日本経済に与える影響は?

原油価格の下落はガソリン価格などの下落に繋がることから、私たちの生活にとってプラスの面が大きいように思えます。それでは、日本経済全体でみると、原油価格の下落はどのような影響を与えるのでしょうか。

日本は原油を輸入に頼っており、原油は輸入品目のなかでもトップとなっています。そのため、原油価格が下落すれば輸入コストが少なく抑えられ、貿易収支は改善します。

また、企業部門をみると、多くの企業が原油を燃料として使用していたり、原油を素材とする製品を原材料や副資材として利用したりしています。したがって、原油価格の下落は仕入価格の低下などに繋がり、収益が改善する傾向にあります。

当センターが年2回、県内企業に実施しているアンケート調査をみると、水準の違いはあるもの、 仕入価格BSI(前期と比べて「上昇」-「低下」)と原油価格とは概ね同じ方向の動きとなっています。原油価格の動向が企業の仕入価格、ひいては採算に大きく影響することがうかがえます。

仕入価格BSIとWTIの推移

(資料)当センター「企業動向調査」

一方、商社や石油元売り会社といった原油の生産開発に携わる企業にとって、原油価格の下落は販売価格の低下に繋がることから、業績悪化の要因となりマイナスの影響が大きいといえます。

また、原油価格の動向は株式市場など、金融市場に大きな影響を与えます。先ほど述べたように、米国における主な原油生産者は民間企業なので、原油価格の急落によって生産者である企業の業績が悪化すれば、株価やそれらの企業が発行している社債価格が下落することが想定されます。さらに、中東の産油国は原油の販売によって巨額の富を築き、世界各国の市場に投資しています(いわゆるオイルマネー)。原油価格が下落すると、オイルマネーが市場から資金を引き揚げるとの懸念から株式市場などが急落することもあります。

まとめ

ガソリン価格や灯油価格が安くなれば、私たちの生活の負担が小さくなるので、原油価格の下落は良い面が多いように思えます。

ただ、原油価格が動く背景には景気動向や政治的な情勢など、様々な事情が絡み合っておりその影響も多岐にわたることから、原油価格の動向が世界経済に与える影響は一概に良い、悪いと言い切ることができません。

同時に原油価格の動向は、世界の情勢が今どのように動いているかを映し出す指標ともいえることから、原油価格について注目してみてはいかがでしょうか。