新潟経済社会リサーチセンターの江口知章です。
先日、木曽崇氏著『「夜遊び」の経済学 世界が注目する「ナイトタイムエコノミー」』 (光文社新書)という書籍を読みました。観光振興に携わる人にとって、とても参考となる書籍でしたので、今日はその一部をご紹介いたします。
『「夜遊び」の経済学 世界が注目する「ナイトタイムエコノミー」』の感想
本書はナイトタイムエコノミーを振興する理由、国内外の事例、振興する際の注意点などを説明した書籍です。
さて、そもそもナイトタイムエコノミーとは何を指すのでしょうか。あまり聞き慣れない言葉ですが、本書によれば、
ナイトタイムエコノミーは、日が落ちた以降夕刻から翌朝までの間に行われる、様々な経済活動の総称である。
木曽崇(2017)『「夜遊び」の経済学 世界が注目する「ナイトタイムエコノミー」』 光文社新書
とされています。このうち本書ではアフターファイブにおこなわれるハロウィンや飲食店、演劇・スポーツなどのエンターテイメント分野、さらにはカジノなど、様々なナイトタイムエコノミーの事例が紹介されています。
こうした中で、ナイトタイムエコノミーを振興する理由について述べられている以下の2箇所がとても参考になりました。
実は我が国の観光政策として「稼ぐこと」を明確に目標として掲げたのは、この安倍政権が初めてである。
我が国の観光政策は元々、旧運輸省が所管する交通政策の一環として実施されてきたものである。交通政策においては伝統的に需要の増減は消費額ではなく、交流人口、すなわち乗降客数で測られることが多く、その一環として行われてきた観光政策においても「客数」が政策評価の主たる指標として使用されることが常であった。
木曽崇(2017)『「夜遊び」の経済学 世界が注目する「ナイトタイムエコノミー」』 光文社新書
「稼ぐこと」を目的とするならば、当然ながら「客数」を追っていくだけでは足りません。「観光消費額」、すなわち「客単価」も視野に入れる必要があります。そして、ナイトタイムエコノミーの振興が「客単価」の向上に寄与すると述べられています。
観光政策におけるナイトタイムエコノミーの振興は、地域における観光消費の拡大という観点から見た場合、最も効果的な施策である。地域において行われる観光消費の総額は「観光客数/年×平均観光消費額/日×平均滞在日数」の算式で求められるが、先述のとおりこれまでの多くの既存の観光政策は、このうち観光客数を増やすことに力点を置いたものであった。
(中略)
観光政策としてのナイトタイムエコノミーの振興は、自然観光や歴史観光など消費を生みにくい我が国の主力観光資源を補完し、観光客の消費を誘発し、観光客の1日あたりの観光消費額の増大を狙う施策に他ならない。
木曽崇(2017)『「夜遊び」の経済学 世界が注目する「ナイトタイムエコノミー」』 光文社新書
つまり、観光客数だけではなく、客単価もみながらバランス良く観光振興を進めることが大切であると私は理解しました。
それでは、上記引用箇所に記載されている数式にもとづいて、全国および新潟県の①観光客数、②平均観光消費額、③平均滞在日数の推移について、せっかくの機会ですので以下のように、簡単に確認してみましょう。
観光客数の推移
観光客数については、観光庁「旅行・観光消費動向調査」により確認したいと思います。
その結果は下の図のとおりです。「日本人国内延べ旅行者数」は平成26年を底に2年連続で増加しています。なお、その年にもよりますが、「宿泊旅行」が「日帰り旅行」をやや上回って推移しています。
また、新潟県の観光客数については、新潟県「新潟県観光入込客統計調査」により確認してみます。
こちらは下の図のとおり、「延べ入込客数」は年によって違いはあるものの、平成23年を底に概ね緩やかな上昇傾向で推移しています。背景には、北陸新幹線開業による効果もあるようです。
客単価の推移
客単価についても、観光庁「旅行・観光消費動向調査」により確認したいと思います。
その結果は下の図のとおりです。「日本人国内旅行一人1回当たり旅行単価」は年によってバラツキがみられますが、近年では平成26年が底となっており、その後は一進一退となっています。なお、「宿泊旅行」の旅行単価は「日帰り旅行」の旅行単価の約2倍となっています。
以上の「観光客数」と「客単価」をもとに、観光庁「旅行・観光消費動向調査」では日本人国内観光旅行消費額が公表されています。
それによると、「日本人国内旅行消費額」は平成27年以降、2年連続で増加しています。
一方、新潟県の「客単価」については、2012年に公表された新潟県「県内観光地の経済波及効果等に関する調査結果」に、下記のような記載があります。当然ながら、県外の旅行者に宿泊していただくのが最も「1人当たりの観光消費額」(客単価)が高くなるという結果が示されています。
平均滞在日数
平均滞在日数については、観光庁「宿泊旅行統計調査」により確認してみます。
延べ宿泊者数を実宿泊者数で除した「平均滞在日数」(連泊)を平成28年単年のみで表示したのが、下の表です。
都道府県別にみると、沖縄県、東京都、京都府などが上位となっており、「なるほど」と納得できる結果となっています。一方、新潟県の「平均滞在日数」は19位となっています。全国平均を下回っていますが、私の予想よりも上位となっていました。もしかすると、数日にわたってスキーを楽しむスキーヤーによる利用などが押し上げているのかもしれません。
まとめ
ご紹介した木曽崇氏著『「夜遊び」の経済学 世界が注目する「ナイトタイムエコノミー」』 (光文社新書)に指摘されているとおり、観光振興を考える際には一般的に、「客数」に力点を置きがちであるため、以上のように「客単価」「平均滞在日数」などを確認する良い機会となりました。
なお、本書のタイトルに「夜遊び」という言葉が含まれているものの、データや事例をもとに論を進める手堅い内容となっています。こうした書籍は一般的に堅苦しく、読みにくい文章になりがちです。しかし、本書は飽きさせない、分かりやすい文章で構成されています。この点は、是非とも見習いたいと思いました。