増えゆく生活観光

新潟経済社会リサーチセンターの江口知章です。

私どもの機関誌「センター月報」では、毎月、井門観光研究所の井門隆夫先生より、地域活性化や観光振興などに役立つヒントやアイデアをご紹介いただいております。

今月の「センター月報12月号」では、生活観光について、ご寄稿いただきました。本日はその原稿の一部をご紹介いたします。

 

生活観光とは

 

生活観光とは…

「生活観光」というワードをよく耳にするようになった。南魚沼市で旅館「里山十帖」を経営する雑誌『自遊人』編集長・クリエイティブディレクターの岩佐十良さんは、「これからは、その地域の日常の風景や町のあり方を楽しみに行く生活観光の時代」といわれている。これまでの観光には、地元の生活圏との間に「ここから先は行ってはいけないよ」という目に見えない結界があった。観光客は観光地に集まり、観光客向けの土産物を買っていった。そうした土産物を地元の方が買うことはなく、観光客は、地域の生活とは明らかに違う空間に存在していた。そのため、観光客が生活空間に足を踏み入れると少なからずトラブルとなり、観光公害といわれることもあった。新型肺炎の蔓延で、その結界は一層強固なものとなり、越境観光がバッシングされ、帰省者までが制約を受けて、いまだにおそるおそる移動している。

しかし、これからの観光を考えると、観光客と生活者の融合がより大きな課題となってくるだろう。なぜなら、ソーシャルメディアの普及から、人々の観光情報はスマホの中の限られた情報だけで選択されるようになり、自ずと有名観光地や特定の地域へ観光客は集中するようになると想定されるからだ。すでにGo Toトラベルキャンペーンでその傾向が表れている。そのとき、もしその特定地域が生活者の生活圏であったとき、あっという間に観光は悪者となり、生活者と観光客の分断が激しくなっていくおそれをはらんでいる。そのため、いかに生活観光を普及させ、コントロールしていくかが、これからの観光政策の大きな課題になってくる。

生活観光のひとつの成功例として、高崎市の「絶メシ」プロジェクトがある。後継者がなく、今の代限りで廃業のおそれのある地域に愛される小さな飲食店を応援しようというプロジェクトで市が音頭を取って実施している。昔ながらの洋食店、学生に愛されるラーメン店、後継者が現れず惜しまれながら閉店してしまったジャズ喫茶など、多くの店が家族経営の店だ。このプロジェクトにより、市民だけではなく、遠く東京からもお客様が来た。こうした店はどこにでもあるが、市がプロモーションをすることにより「アーリーアダプター」と呼ばれる最初に気づいて行動を起こす人々がソーシャルメディアで発信し、多くの「フォロワー」が店を訪れるようになり、行列までできた。日常の生活圏にある生活者のための店が観光コンテンツになる生活観光の一例だ。

(中略)

生活観光を考えるうえでは「エコミュージアム」の概念が参考になる。エコミュージアムとは1960年代にフランスで発祥したエコロジーとミュージアムを合体させた言葉だ。一般的な博物館のように、モノを集めて館内に展示するのではなく、その地域の自然や文化、歴史など独自の資源そのものを保全し、体験してもらおうという地域まるごと博物館のことを表す。日本のエコミュージアムの先駆けは、1992年に岩手県三陸町等が始めた「三陸ふるさとまるごと博物館」構想で、飲食店の店主や猟師など様々な市民が学芸員の立場で地域の案内人を務めた。

(中略)

生活観光の最初の観光客は市民であり、市民による市民のための観光がその成功への第一歩となる。もし、生活観光が失敗するとすれば、市民に受け入れ意識がないままに遠方から多くの観光客がやってきてしまうことだ。そのため、生活観光の初期の段階では市民を対象とすることが肝要である。そして、新型肺炎禍にある現在は生活観光を設計するのにまさによいタイミングなのである。

そうした生活観光を具現化するうえでお勧めしたい「逆転の発想」がある。

それは、地域の家や店を宿にしてしまうという発想だ。既に古民家を改築して一棟貸しの宿にするような事例が全国で増えているし、そもそも自宅の一室を宿にしてしまう民泊も住宅宿泊事業法で制度化されたこともある。

一方で、前述の自遊人の岩佐さんは、大津市で商店街の一角の商店を宿にリノベーションしてしまったり、箱根にある出版取次会社の企業保養所を図書館のような宿(箱根本箱)にしてしまったり、宿と他の要素の融合をすることにより生活観光の需要を生み出している。



井門隆夫(2020)「観光イノベーションで地域を元気に 第44回」『センター月報』2020年12月号

感想

「生活観光の初期の段階では市民を対象とすることが肝要である 」との言葉が印象に残りました。

「住んでよし、訪れてよし」 の地域を目指そうと度々指摘されますが、実際には観光客と生活者の融合が大きな課題となっています。その解決方法の一つとして「生活観光」が地域で根付いていくことが大切なのだと実感しました。