新潟経済社会リサーチセンターの小林です。
最近、働き方改革が叫ばれるなか、同時に進めるべきこととして「生産性向上」にも注目が集まっています。それでは企業における生産性(労働生産性)は、どのように推移してきているのでしょうか?
労働生産性は上昇基調
中小企業庁「2018年版小規模企業白書」をみると、1980年代以降、企業の労働生産性(付加価値額/従業者数)は上昇基調にあります。企業規模別にみても、大・中規模・小規模とも、直近の2016年には1980年代前半の水準を上回っています。しかし、1983年の各規模の労働生産性を100として2016年の各規模の労働生産性をみると、大企業が157、中規模企業が147、小規模事業者が122と規模によって差があり、少しずつですが規模間の差が拡大しているようです。特に、小規模事業者で大企業や中規模企業との差が鮮明になってきている様子がうかがえます。以上は製造業についてですが、非製造業についても同様の傾向となっています。
資本生産性が低迷
労働生産性は、資本装備率(有形固定資産/従業者数:機械や設備への投資をどの程度実施しているかを表す指標)と資本生産性(付加価値額/有形固定資産:保有している機械や設備がどの程度成果を産み出しているかを表す指標)の二つの指標に分解することができます。そこで、上述の労働生産性の企業規模間格差の背景を、二つの指標をもとに確認してみます。なお、製造業・非製造業とも概ね同傾向となっていますので、以下では製造業を例にしてみていくこととします。
まず、資本装備率をみていきます。資本装備率とは、企業にある設備(有形固定資産)の装備状況を従業者一人あたりで表したものです。下の図をみると、製造業の資本装備率をみると、1980年代以降、上昇していることが分かります。また、上述の労働生産性同様、1983年を100とした指数でみると、大企業が218、中規模企業が205、小規模事業者が154となっており、大企業と中規模企業の最近の資本装備率は1983年の2倍になっているのに対し、小規模事業者は1.5倍にとどまっています。つまり、小規模事業者においては、大企業や中規模企業に比べて設備投資が十分に行なえていないことが推察されます。同時に、機械設備等の老朽化も進んでいるものとみられます。
次に、資本生産性をみてみます。資本生産性とは、設備(有形固定資産)が付加価値額を産出している状況を設備一単位あたりで表したものです。下の図をみると、1980年代以降の製造業の資本生産性は低下していることが分かります。また、企業規模別にみても、大・中規模・小規模とも低下傾向となっています。
具体的な数字をみると、83年の資本生産性は大企業が1.22、中規模企業が1.29、小規模事業者が1.91となっていましたが、2016年には大企業が0.88、中規模企業が0.87、小規模事業者が1.00となっています。つまり、かつては小規模事業者の資本生産性は大・中規模に比べて非常に高かったのに対し、近年はほぼ同水準にまで低迷していることが分かります。
まとめ
小規模事業者の労働生産性低迷の背景には、資本装備率が大・中規模に比べて伸びていないことと、資本生産性が大きく低下していることが挙げられます。特に、資本生産性の低下については、上述のとおり、機械設備等の老朽化などが第一に考えられます。
もう一つ考えられることとして、機械設備を動かす人材のスキルの低下が挙げられるような気がします。かつての小規模事業者においては、技能を有する人材が、限られた機械設備を効率的に活用することで、資本生産性を高めていたものとみられます。それが、技能を有する人材の退職等により、技能の承継が途切れることで、資本生産性の低下につながっているのかもしれません。
人材・人員不足の一端が垣間見える指標であり、企業においては、新たな人材の確保と同時に、現有人材の一層のスキルアップや技能継承を進める必要があるとみられます。