新潟経済社会リサーチセンターの江口です。
「予算に余裕があれば、もっと大々的に宣伝できるのに…」と思ったこのとのある営業職の方は多いと思います。そこで今回は、経費をかけずにプロモーション活動をするための工夫・ヒントをご紹介いたします。
執筆は私どもの機関誌「センター月報」の連載をお願いしているビシネス心理学講師 酒井とし夫氏です。
積み重ねが困難を乗り越える打開の光を生む
暑い毎日が続く8月だからこそ、「センター月報8月号」で酒井先生は寒い冬の八戸駅で体験した事例をもとにしながら、お金をかけずに宣伝する方法を考える際のヒントをご紹介しています。
私は八戸駅東口の下りのエスカレーターに乗りました。エスカレーターを降りたその目の前に一人の女性がほっぺを真っ赤にして立っていました。彼女は寒さの中、立ちながら両手を差し出してエレベーターから降りてくる人たちを待っていました。
「あれ?彼女は何をしているのだろう?こんな寒風の中で」
彼女の前を通り過ぎるときに、私は彼女が両手で抱えている小さな器に何かのかけらのようなものが入っているのが見えました。
「えっ?何だろう?」
っと私は思いました。
次の瞬間、彼女は私に両手を伸ばしてこう言いました。
「よかったらどうぞ」
(中略)
私は思わず差し出された彼女の両手から、かけらのような食べ物を数枚取りました。そして口に入れました。ひとくち食べてみるとこれがとても美味しい。それは割れたせんべいだったのです。
「いつもここでおせんべいを持って、人を待ってるの?」
と私が聞くと
「はい。お店があそこにあるんです。よかったら寄ってください」
との答え。彼女の指差す方向を見ると20mほど先に一軒のおせんべい屋がありました。
八戸駅に降り立つまで私は一度もせんべいを買おうとは思っていませんでした。
でも、その時にふと頭に浮かんだのです。
「明日、東京からやってきて八戸で一緒に打ち合わせをする予定のN課長にお土産でせんべいを買っていこうかしら?」
私は彼女と一緒にお店に入りました。
(中略)
結局、私はそのお店で3袋のおせんべいを買いました。
聞けば、彼女は新幹線の到着時刻に合わせて寒風の中、いつも、こうやって八戸駅のエスカレーターの下で待っているとのこと。新幹線が新青森駅まで延長されたため、八戸駅での乗降客数がぐんと減っているそうです。そのため来店するお客様も減りました。
彼女はなんとか売り上げを戻そうとして、「今」の「自分」で「できること」を「考え」て、それを「実行」していたわけです。もし、彼女があの場所に立っていなかったら、間違いなく私はそのお店に入っていなかったでしょう。
(中略)
彼女に
「割れたせんべいを食べた人のだいたい何割がお店にくるの?」
と聞くと、日によっては割れたせんべいを食べた人のほとんどがお店に立ち寄ってくれることもあるそうです。素晴らしい営業、販促活動だと思います。
彼女の商売に対する姿勢はきっと他の面でも生かされていて、これ以外にもいろいろと工夫して、考えて、実行しているはずです。彼女のような100分の1の積み重ねが困難を乗り越える打開の光を生むのだ…、彼女の真っ赤な手を見て私はそう思いました。気がつくと私は寒さを忘れていたのでした。
酒井とし夫(2016)「街でみつけた商売繁盛心理学 今すぐできる選りすぐりのアイデア 第5回」『センター月報』2016年8月号
感想
商売には良い時も悪い時もあります。
調子が上がらない時には、「交通アクセスが悪い」「天候が悪い」「景気が悪い」とついつい外部環境に原因を求め、できない理由を探し始めがちです。
しかし、酒井先生がご紹介したお店のように、「できない理由を探すよりも、できる方法を探して、継続的に行動する」ことが大切なのだと改めて感じました。