ポスト・新型肺炎禍を考える

新潟経済社会リサーチセンターの江口知章です。

私どもの機関誌「センター月報」では、毎月、井門観光研究所の井門隆夫先生より、地域活性化や観光振興などに役立つヒントやアイデアをご紹介いただいております。

今月の「センター月報5月号」では、ポスト・新型肺炎禍を見据えた際のDMOや地域おこし協力隊のあり方について、ご寄稿いただきました。本日はその原稿の一部をご紹介いたします。

 

ポスト新型ウイルス

「前例(先例)がない」。「上からの指示がない」。
 
全く新しいことを始めるとき、上司からこう答えられるという笑い話が日本では尽きない。そのとき、「なぜ、新しいことを始めるべきなのか」。できるだけデータをもとに、提案していくしか方法はない。そのデータと提案、その先にある地域の事業構想がないために、上司に打ち勝つことができない。
 
それを事業者に置き換えたとき、今まで通りのやり方に固執する先代とのやり取りにも似たような状況がある。「そんなことしてもだめだよ」。過去の経験をもとにそういわれたとき、必要なのは、データと提案、その先にある「人口減少時代にも地域や事業が発展し続けるための事業構想」と、一緒に戦ってくれる仲間や味方である。それさえあれば、バランスシートの改善を含めて、現状を解決する手法が創造されてくると思う。
 
もし、その構想に少しエッセンスが足りないとすれば「人口減少時代に持続的に事業が発展する」という点であり、その命題の答えに値する論理を考えておく必要がある。そもそも人口減少時代に客数を伸ばすためには、旅行実施率を高めるか、他の地域から客を奪ってくるしか方法はない。単価を上げるには景気が好転しなくては難しい。しかし、先月号で示したように賃金は下がり続けているため、旅行実施率は低下を続けている。景気は、リーマン・ショックの際でさえ回復に4年かかった。
 
もちろん、新型肺炎禍からの回復の兆しを期待したい夏以後に、国を挙げて一大観光キャンペーンを行ない、一時的に旅行実施率を高めることは可能だし、そうしていかないとまずいと思う。ただそれは、あくまで国民全員を巣ごもりから解放するための一過性の対策だ。おそらく、キャンペーン終了後、消費者は半・巣ごもりに戻っていくだろう。中期的には、訪問回数や滞在日数、推奨人数、地域での総消費額を増やすにはどうしたらよいか、その論理と観光消費の抜本的な構造改革と、そのために必要な受け入れ側の整備を考えていくことで現状に風穴が開いてくると思う。

(中略)
 
こうした構想を議論、構築できない大きな理由に、日本の組織はメンバーシップ型が多く、ジョブ型ではないという事情がある。就職は一括採用、その代わり生涯の雇用が確約されるというメンバーシップ型組織は、人口が自動的に増えていく「自動的経済成長期」には有効だったが、現在のように外的要因だけでは経済は成長せず、一人ひとりの勇気と創造力が需要を生む時代には不向きである。こうしたメンバーシップ型は、企業等の組織だけではなく、地域の観光をリードするべき、DMO、観光協会、旅館組合、といった組織団体の多くでも同様であるため、なかなか本格的な議論にならない。メンバーシップ型組織は、メンバーシップの維持を目標とするため、なるべく波風を立てない「過去のやり方をなぞる」という帰納的発想をとりやすいためである。また、階層的組織が成立しているため、上司や年配者の意見は絶対になりやすい。
 
一方、ジョブ型とは、演繹的発想で業務目標が決められ、業務メンバーの一人ひとりの役割や業務範囲が明確にされたうえで、目標達成に向けた活動を通じて、自らの能力やステイタスを高めていく組織である。評価や報酬は達成度に基づき、組織は階層的ではなく平等主義だ。そうすると、一人ひとりが自分(自社)のためにも新たな発想や活動に踏み出しやすい。ただし、意見は多様化するので、それを是とする組織風土も必要である。リーダーは責任者というよりファシリテーターとしての盛り上げ役が似合う。
 
一例を挙げれば、DMOには民間企業や行政からの出向者が少なくないが、DMOはそうした派遣元組織に、欧米のDMOのように組織としての目標とジョブ(片づけてもらいたい業務)をジョブディスクリプション(職務記述書)として示しているだろうか。お願いする地域側が予算措置をして、人件費を負担しているだろうか。そうではなく、人件費も人材選考も派遣元負担である限り、出向社員はメンバーである自社のミッションを優先させるだろう。
 
あるいは、地域おこし協力隊とは、赴任期間終了後の本人のステイタスを共有し、明確かつ具体的なジョブを担ってもらっているだろうか。そうではなく、単なる行政のメンバーとなり、手足となって動いているだけでは、お互いに不幸である。
 
ポスト・新型肺炎禍を考えるにあたり、これまでの延長線上に答えはないことを皆が自覚することが大切だと思う。そのために、「演繹型発想」と「ジョブ型組織」の構築を意識してみて欲しい。おそらく、メンバーシップ型組織の帰納的発想では、新しい策は出てこない。


井門隆夫(2020)「観光イノベーションで地域を元気に 第37回」『センター月報』2020年5月号

感想

「ポスト・新型肺炎禍を考えるにあたり、これまでの延長線上に答えはないことを皆が自覚することが大切だと思う」という言葉が特に響きました。観光地だけでなく、個々の企業にも当てはまると思われます。