温泉地でのインターンシップ

新潟経済社会リサーチセンターの江口知章です。

私どもの機関誌「センター月報」では、毎月、井門観光研究所の井門隆夫先生より、地域活性化や観光振興などに役立つヒントやアイデアをご紹介いただいております。

今月の「センター月報10月号」では、感染拡大の予防を徹底しながら、全国各地の旅館で大学生によるインターンシップを実施することで、地域活性化と教育の両面を目指した取り組みについて、ご寄稿いただきました。本日はその原稿の一部をご紹介いたします。

 

温泉地でのインターンシップ

学生インターンシップ

一部の例であるが、30人の学生が全国各地の旅館でインターンシップを行なったのでその様子をお伝えしたい。

(中略)

マスクはもちろん、体温計やアルコール除菌スプレーを全員持参し、体調・衛生管理を徹底した。

(中略)

アプリ式の日報では活動や体調、周囲の状況等の報告を日々刻々と受け、日報の数はひと夏で600通を数えた。そうした緊張感もあり、誰ひとり体調を崩すこともなく、もちろん新型肺炎の影響を受けることもなく、のべ600泊のインターンシップを終えた。

(中略)

島根県の西部に小さな温泉地がある。かつて30軒あった温泉宿は3軒にまで減り、新型肺炎が広がってから、自治会が外来客の共同湯への入浴を禁止したこともあり、1軒が廃業を決めて2軒となり、温泉文化はまさに風前の灯となりかけていた。この温泉地でただ1人後継者として残る若女将を応援し、温泉地は観光客とともにあることを認めてもらおうと3人のインターン生が、町内の方々に向けた「スーパーナノツーリズム」を提案・実践しに赴いた(ナノはマイクロより小さな単位)。それは、近隣県を対象とするマイクロツーリズムよりもさらに商圏を狭め、ご近所さんに温泉へ一杯飲みに来て欲しいと、温泉街を使った1週間の縁日イベント企画だった。学生たちは、地域の方々が新型肺炎への感染を心配してはいけないと、2週間、県内の他の地域に滞在してから出向き、自治会長へ挨拶に向かった。学生たちは、温泉文化を絶やしてはいけないという思いを町の人たちと共有できると思っていたが、甘くはなかった。

(中略)

町内会にイベント実施の賛否を聞くアンケートを取ることを求め、60世帯にアンケートを取ったところ、6対4で反対が上回り、若女将と学生の思いは一瞬にして消えた。

しかし、若女将は、それならと規模を小さくして旅館のロビーを使った3日間のミニ縁日イベントを学生たちと企画し、町内の方々へも自由参加を促した。初日こそ、数組の参加だったものが、賑やかそうな飾りつけや音楽につられたのか、徐々に参加者が増え、3日目には町内の高齢者はもとより、どこから聞きつけたのか市内の多くの老若男女が温泉街を訪れ、夏の一夜を楽しんだ。おそらく、若女将を応援したいという皆の思いが集まったのだと思う。

そして、学生が帰った後、驚くことが起きた。こうした取り組みなら歓迎と、自治会が毎月実施して欲しいと若女将に要請したのだ。今後、毎月、市内の若者を交えて、温泉イベントを続けることになった。建前と本音は違う。学生たちが身をもって学んだインターンシップだった。

(中略)

愛知県では、人手不足で休館状態になっていた旅館の7室の別邸を学生たちだけで運営をした。最初、前年比倍増となる600万円の高い売上目標を設定され、学生たちも戸惑ったが、OTAを駆使した集客や館内消費に努め、後輩たちにお盆のヘルプを要請したりした結果、なんと550万円の売り上げを上げることができ、学生たちも営業利益の半分を受け取ることができた。建前として難しい目標設定をしたが、まさかここまで達成できるとは思わなかったというのが経営者の本音だったと思う。

(中略)

学生なんて、何も知らない素人だと思われているが、しっかりと周囲がフォローすれば、想像以上に活躍する。お金を目的としないインターンシップは、本音ベースでの交流が図れるので学生の達成感も大きい。教室で教育が完結するという建前的な教育を早く改め、もっと社会にふれ、社会人基礎力を伸ばす教育があってもいいとも思っている。



井門隆夫(2020)「観光イノベーションで地域を元気に 第42回」『センター月報』2020年10月号


感想

今回は学生による取組事例でしたが、入社間もない社会人であっても、周囲のフォーローや仕事の任せ方を工夫すれば、同じようにしっかりとした実績を残すのではないか…と感じました。自分の職場をみわたし、依頼する業務内容や必要な支援策などについて、再度、見直してみたいと思います。