激動の時代を乗り越える方法とは?

新潟経済社会リサーチセンターの江口知章です。

私どもの機関誌「センター月報」では、毎月、ビシネス心理学講師 酒井とし夫氏より、商売に役立つ心理学的なヒントやアイデアなどをご紹介いただいております。

なお、今月の「センター月報3月号」で酒井とし夫氏の連載は最後となります。締めくくりとなる最終回は、変化に対応する際の心構えについて、ご寄稿いただきました。本日はその原稿の一部をご紹介いたします。

 

商売繁盛心理学

変化に対応する際の心構え

以前、夜中に父の具合が悪くなり救急車で総合病院の緊急外来に向かったことがあります。そのときに担当してくださった先生はまだ若い女性の方でした。
 
その先生は血液検査の結果を見ながら何かをつぶやいていました。
 
よく聞いていると「うん、うん、大丈夫」と何度もリズミカルに小さな声で言っているのが分かりました。私はその言葉は父に向けた言葉というよりは自分自身に対して無意識に発している言葉のように感じました。
 
先生は父とも話しながら「うん、うん、なるほど、大丈夫」とやはりリズミカルに小さな声で言っているのが聞こえました。その言葉は付き添っている私にも安心感を与える言葉でした。
私はその言葉を聴きながらこの先生は父の身体のことをちゃんと理解している、という気持ちを感じることができたのです。診断の結果、父は気管支炎で熱が出たらしく薬を処方してもらいました。
 
私は診察の様子を見ながらその先生の歩んできた人生を垣間見た気がしました。きっと先生は小さな頃から「うん、うん、大丈夫」と口ずさんでいたはずです。
 
何十年にもわたってとても難しい勉強を続け、高度な技術を学び、厳しい訓練や甘えの許されない自己鍛錬の日々を過ごして医者になったはずです。
 
へこたれることも、めげることも、悔しいことも、きびしいことも、つらいことも、悲しいことも、どうにもならないことも、たくさんあったはずです。
 
でも、きっとそのたびに「うん、うん、大丈夫」と自分に言ってきたのではないかなと感じました。そして幾多の壁を乗り越えて医師になったのではないかと思いました。
 
「うん、うん、大丈夫」と言いながら生きてきた人の人生と、「だめ、むり、できない」と言いながら生きてきた人の人生ではきっと5年、10年経つと大きな差が出るはずです。
 
私は診察後に先生に言いました。
「私は先生のうん、うん、なるほど、大丈夫という言葉がとても良いと感じました。家族にも安心感を与える言葉です」
 
すると驚いた表情で先生が言いました。
「えっ!私、そんなこと言っていましたか?」
やはり無意識にプラスの言葉が口から出ていたようです。
 
(中略)
 
20世紀の初め、ヨーロッパでは「1マイル走」という陸上競技が人気でした。現在の1500m走のようなものです。その当時は1マイルを4分以内で走ることのできる選手はおらず、それはエベレスト登頂よりも難しいとさえいわれていました。
 
ところが、1954年にロジャー・バニスター選手が1マイルを3分59秒4で走ることに成功しました。この時点では大勢の人が「バニスター選手は特別な人だからできたのだ」と思っていました。しかし、そのわずか46日後に別の選手が3分58秒0で1マイルを走りきったのです。
 
それまで「無理」「できない」と思われていたことが実は「可能」だと分かった時点から壁を超える選手が現れたわけです。心理的な壁が無くなったら実現できることはあんがい多い。
 
私はこの心理的な壁のテストとして研修中に参加者にテニスボールを2個渡して「この2個のボールをテープも接着剤も何も使わずに縦にして積み重ねて床に立ててください」とお願いすることがあります。たいていの場合、多くの人がチャレンジしますが数分で「無理」「できない」と諦めます。
 
もし、あなたのご自宅や職場にテニスボールが2個あったらあなたもその2個のボールを床に縦に積み重ねてみてください。もちろんテープも接着剤も何も使わずに純粋にテニスボールを2個重ねて縦に立ててみてください。
 
最初は「無理」「できない」と思うかもしれませんが、心からできるのだと納得すればちゃんとボールは2個重なって立ちます。実現を止めているのはあなたの心理的な壁です。
 
(中略)
 
昨年から日本のみならず世界中で変化が起きています。とても大きな変化です。まさに激動の時代真っ最中です。この荒波に飲み込まれて辛い厳しい環境にいる方も少なくないかもしれません。
 
予期せぬ時代の大変化を個人の力でコントロールすることはできません。しかしどんな状況も「うん、うん、大丈夫」(中略)と決めれば「心理的な壁」も壊れて希望の光が見えることもあります。
 
今までだってあなたも私も多くの変化に対応してきました。今回も大丈夫です。きっと乗り越えることができます。「うん、うん、大丈夫」と口にして、(中略)自らの力で壁を越えていきましょう。


酒井とし夫(2021)「街でみつけた商売繁盛心理学 今すぐできる選りすぐりのアイデア 第60回」『センター月報』2021年3月号

感想

新型ウイルスの影響もあり、先行きの不透明感が高まり、不安にかられる時があるかもしれません。そのような時には、酒井氏のおっしゃる通り、「うん、うん、大丈夫」と口にしながら心の壁を壊していましょう。

なお、10年間にわたって連載をお願いしてまいりました酒井とし夫氏には、この場を借りて感謝申し上げます。本当にありがとうございました。