新潟経済社会リサーチセンターの江口です。
ちょっとした工夫をするかしないかで売上が大きく変わってしまう…そんな体験をしたことはあるでしょうか。特に営業・販売職に就いたことのある方ならば、実感されたことのある人が結構、多いのではないでしょうか。今回は、お土産を買うまでの過程を振り返りながら、お客様に商品を購入してもらうためのちょっとした工夫・ヒントをご紹介いたします。
執筆は私どもの機関誌「センター月報」の連載をお願いしているビシネス心理学講師 酒井とし夫氏です。
買う気のなかったお土産を2個購入した心理とは?
「センター月報7月号」で酒井先生はご自身の体験と心理学をもとにしながら、効果的な販売方法を考える際のヒントをご紹介しています。
先日、岡山市に講演に行った時のこと。開演まで少し時間があったので岡山城に行き、そこから後楽園を散策しました。言うまでもなく日本3名園の一つです が、その日は雲一つない快晴でとても気持ち良く散策 ができました。
園内を一周すると「きび団子」の幟(のぼり)がはためく小さ な一軒のお店を見つけました。
私はさっそくお店に入り、近くにいた年配の女性店員さんに「きび団子はここで食べることができるのですか?」と訊ねました。
すると、「きび団子とお茶が一緒になったこちらの セットで召しあがって頂けます」との返事。
その店員さんが指差したメニューを見るとそこには 「お抹茶と団子セット 300円」と書かれていました。
安い!と思った私はそのセットを注文しました。
しばらくして店の奥からさきほどの店員さんが小ぶりなきび団子を3つと、お抹茶を持ってきてくれました。
一口、パクっと口に運ぶとこれが美味い。
(中略)
私がお団子を食べていたら、店員さんがまたやってきてこう言いました。
「はい、これサービス!」そして、きび団子2つを 小皿に置いてくれました。
「ありがとう!」と素直に喜ぶ私。すると、店員さんがこう言ったのです。
「よかったらお土産、買って行ってね!」
私が訊きます。「どれくらい日持ちするの?」
「2週間は大丈夫だよ。ウチのきび団子は○○賞を 受賞した団子なんだよ」と、彼女が指差した店の奥には大きな賞状が何枚も掲げられていました。
正直に言うと、その瞬間まで私はきび団子を買う気持ちは全くありませんでした。
でも、その店員さんとやり取りをしているうちにふとこう思ったのです。
「今日の講演主催の担当のN課長は甘いものが好きだから買っていこうか。」
(中略)
…結局、私はこのお店できび団子のお土産を2箱も買いました。
(中略)
買う気の全くなかった私がお土産を買うに至った心理はいったいどのようなものだったのでしょう。
まず、景色と気候。岡山は晴れの国と呼ばれるほど快晴の日が多い地域。
青空の後楽園はとても気持ちが良かったのです。「人は天候に影響を受ける生き物」です。その時の私は気持ちがゆったりとしてオープンになっていたはずです。
そして、最初は300円のお抹茶セットからスタートして、結局、私は数千円のお土産を買っています。小さなものを提供してから大きなものへ誘導するという セールスの流れができているわけです。
これはフット・イン・ザ・ドアと呼ばれる心理学の原理です(最初に小さな承諾を得た後に大きな依頼につなげる)。
さらに、最初は小ぶりの団子がお皿に3個のっていましたが、後で「サービスだよ」と言いながら2個追加してもらったのでお得感が出ています。
これはザッツ・ノット・オールと呼ばれます。
オマケやサービス、特典は「商品の後」に提供した方が人はお得感を感じるのです(だから、TV通販では商品説明の後に数多くのオマケが紹介されているわけです)。
私がきび団子を買うことになった心理的影響はまだあります。それは権威効果。
店員さんは「ウチのきび団子は○○賞を受賞した団子なんだよ」と言いました。確かに、その味は本当に美味しかった。
大切な担当者に贈るお土産は受賞歴のあるお団子の方が喜ばれると私は思ったのです。
(中略)
…おそらく私はこういった心理が重なって購入に至ったわけですね。
酒井とし夫(2016)「街でみつけた商売繁盛心理学 今すぐできる選りすぐりのアイデア 第4回」『センター月報』2016年7月号
感想
「のぼり→お得なセットニューの紹介→予想外のプレゼント提供→商品の紹介→権威の説明」といった流れ・シナリオがよく練られているなぁと思いました。まさにサラサラと流れるように購入まで至る感じです。恐らく、偶然ではなく体験をもとにじっくりと考えられた販売の仕組みだと考えられます。
このように人は複数の要因に影響を受けながら商品を購入するケースがあります。したがって、「この売り方だけをしていれば安心」と考えるのでなく、幾つかの販売方法を組み合わせながらお客様と接する方が良いようです。