「仕事は楽しいですか?」と尋ねられれば、「辛い時もありますが、楽しい時もあります」と回答する、新潟経済社会リサーチセンターの江口知章です。皆様はいかがでしょうか。
中には、「楽しいです」という人もいらっしゃれば、「仕事は辛いのが当たり前!」という人もいらっしゃると思います。
いずれにしても仕事が辛い時は誰しも苦しいものです。こうした辛い時、苦しい時、落ち込んでいる時に、多少なりとも前向きに仕事と向き合えるようになるための工夫・ヒントを今回はご紹介いたします。
執筆は私どもの機関誌「センター月報」の連載をお願いしているビシネス心理学講師 酒井とし夫氏です。
積み重ねが困難を乗り越える打開の光を生む
「センター月報9月号」で酒井先生は、ある人物を紹介しながら、仕事に対して前向きに取り組むための考え方をご提示されています。
私の人生の師の1人に(中略)高林巌さんという方がいます。高林さんは現役時代に20万円、30万円もする靴をお客様に販売していたカリスマ販売員です。
私は、高林さんからいろいろなことを教えて頂いたのですが、次の言葉は私の心に特に強く刻まれています。
「人間は好きなことをやるか、今やっていることを好きになるしかないんだよ」
高林さんは靴磨きが生きがいであるというほど靴を磨くことに情熱を持っています。
高林さんが磨いた靴は本当にピッカピッカに輝きます。その輝きを目の当たりにした人は全員が感動します。
高林さんはバブル全盛期、百貨店業界が隆盛を極めている頃に、花形部門の広告宣伝部で活躍をしていました。当時の名だたるコピーライターやデザイナー、アーティスト、プロデューサーと一緒に仕事をしていました。
しかし、50歳を過ぎていきなり高林さんに紳士靴売場への転属の辞令が下りました。それまで華やかな広告業界にいた高林さんはショックを受けました。辞表を出そうかと真剣に考えました。
でも、結局、高林さんが会社を辞めなかったのは仕事への情熱があったから。高林さんは配属先の靴売場で猛烈に靴のことを勉強したそうです。そして、ある時、お客様の目の前で靴をピカピカに磨いてあげたら、お客様が涙を流すほどに感動してくれたそうです。
その時、高林さんはこう思いました。
「靴を磨いただけで、お客様はこんなに喜んでくださるのか。もっと、もっと靴磨きについてクオリティを高めよう」
それから、高林さんは休みのたびに靴の専門家に会いに行き、新橋駅で40年間毎日靴を磨いている有名な靴磨き職人に会いに行き、評判の良い靴磨き店や修理店のことを耳にすると、すぐにそこへ通い続けて靴磨きの技術を学びました。
そして、靴売場では心を込めてお客様の靴を毎日毎日磨きました。汚れた靴をピカピカに輝くまで磨きました。何年も何年も磨き続けました。ついに高林さんの右手の指には指紋がなくなりました。靴を磨きすぎて指先がツルツルです。
やがて、高林さんの知識、技術そして人間性に惚れ込んだお客様がどんどん増え始めました。高林さんの名刺ホルダーには一流企業の経営者や幹部、著名人、文化人の名前が並ぶようになりました。
退職された高林さんは、今は池袋でシューズ・バーを営んでいらっしゃいます。靴を磨きながらお酒が飲めるお店です。お酒を飲みながら靴を磨けるお店です。先日、そのお店で高林さんと会ってお話を伺いました。
「私ね、辛かったこともたくさんあったけど、今は幸せだと思うんですよ。人間は好きなことをやるか、今やっていることを好きになるしかないですね」
高林さんはそう教えてくださいました。
そういえば、東大教授にして、一代で巨額の財産を築いた故・本多静六博士は次のような言葉を残しています。
「人生の最大幸福はその職業の道楽化にある」
また、孔子は次のように言っています。
「これを知る者はこれを好む者に如かず。これを好む者はこれを楽しむ者に如かず」
(中略)
高林さんが嬉々として仕事に向かう姿に接し、私は「自分は本当に好きで好きでたまらないことを毎日しているだろうか」
と問うたのでありました。好きこそ仕事の上手なれ。
酒井とし夫(2016)「街でみつけた商売繁盛心理学 今すぐできる選りすぐりのアイデア 第6回」『センター月報』2016年9月号
感想
「私ね、辛かったこともたくさんあったけど、今は幸せだと思うんですよ。人間は好きなことをやるか、今やっていることを好きになるしかないですね」という言葉が印象的でした。
仕事をしていて、辛い時はこの言葉を思い出そうと思います。