人口減少時代の観光地の方向性

新潟経済社会リサーチセンターの江口知章です。

私どもの機関誌「センター月報」では、毎月、井門観光研究所の井門隆夫先生より、地域活性化や観光振興などに役立つヒントやアイデアをご紹介いただいております。

今月の「センター月報3月号」のご寄稿で井門隆夫先生の連載は最後となります。締めくくりとなる最終回は、これからの観光地が目指すべき方向性について、ご寄稿いただきました。本日はその原稿の一部をご紹介いたします。

 

観光イノベーションで地域を元気に

令和時代の持続可能な観光とは?

「1.人口減少時代の考え方」

私たちが地域の将来を考えるとき、令和時代が、経済成長に沸いた昭和や、長期デフレの対策を打てなかった平成と180度違う世界であることを認識して中長期計画を立てていく必要がある。その際に目指すべき方向性は「ローコスト」「減収増益」「ポジティブインパクト」である。
 
時代を考えるうえでの前提として、人口減少による客数の減少がある。インバウンドの復活を期待しても、アフリカとインドを除く全世界で人口減少が始まった時代に、単純に客数の増加を目標とするほうが不自然だ。キャンペーンという名の地域間での客の奪い合いもパンデミックのような非常時まで。新しい需要を創造しながら、「量から質」へのマネジメントに転換していくことが不可欠になっている。
 
客数が減少に転じるとなると、客単価を上げていかねばと誰もが考える。しかし、社会では格差が拡大し、「自分で自分の時間と費用をコントロールできる層」と「自分だけでは決められない層」に分化している。圧倒的に多い後者は、生活費と貯金が優先のため、割引などの「言い訳」がないと旅には出にくくなっていく。そして、このどちらの層を対象とするかで客単価は変わってくる。後者に関しては、むしろ単価を下げていく必要があり、そのためにもローコストオペレーションが必須となる。
 
地域としての平均単価は、高低が分散するが、中間を取りイーブン(横ばい)と考えるのが妥当だろう。しかし、客数が減少するのに単価が横ばいだと売り上げは減少してしまう。ローコスト策で増益ができることを前提に「減収増益」と申し上げているが、できれば減収にせず、売り上げもイーブンで済ませたい。そのためにも客数の内訳をカウントする必要がある。具体的には「客一人あたり年間(または生涯)滞在日数」という概念が必要になってくる。それは、「正味客数×滞在日数×訪問回数」で表される。この数値を増加させるためには、滞在需要を創造していくことが必要条件となり、いかに滞在する観光地を設計するかが最重要事項になってくる。1泊型や周遊型で設計する時代は終わり、1カ所に滞在しながら周辺観光をするハブ&スポーク型の観光へとシフトすることにより新たな需要が生まれていく。そのためには、1泊しかしないことを前提として作られた「1泊2食付き」という昭和な宿泊料金制度や仕組みをやめ、全て室料と食事料を分ける「泊食分離」型料金や実現のための仕掛けを作っていくことなどが必要になってくる。
 
「2.持続可能な地域へ」

近年「持続可能(sustainable)」という言葉が各所で使われている。
 
(中略)
 
観光を通じた地域の持続可能性については、観光庁とUNWTO(注)駐日事務所が共同で作成した「日本版持続可能な観光ガイドライン」にその概念と取り組みの方向性が載っているので参考にしてほしい。
 
ガイドラインには先進事例も多く紹介されているが、具体的な最初の一歩として何をすべきか。私は「DMC(まちづくり合同会社)」の設立と「HUB(ハブ:多機能な町の中心施設)」の設置を提案したい。行政が主体となって導くのもよいのだが、民間事業者が動かなければ地域は動かない。そうした意味で、地域の人たちが協働できる組織と場所を作ることが滞在型需要を生み出していくための最初の一歩だと思っている。
 
(注)国連世界観光機関
 
「3.ハブアンド呉越同舟」

HUBは地域で使われていない建物を居抜きで使うのが現実的だ。その機能としては、滞在者へのアクティビティを提案するゲストセンター機能をはじめ、飲食機能や滞在者のワークスペース機能、副業やインターンシップ等一時的労働者を含めて滞在できるシェアハウス機能等があるとよい。まさに、車輪の中心部を意味するハブとして、宿だけでは提供できない多機能なサービスを提供していく。
 
飲食機能は、増えていくであろう素泊まり型の宿泊者に対する食事提供機能を想定している。3連泊して毎日旅館料理では誰もが喜ばない。また、アクティビティとしての郷土料理のクッキングクラスや、テイクアウトや通販用の加工品製造という機能も考えられる。可能な限りHUBの消費電力は自家消費型再生エネルギーでまかない、コストをかけず、かつ資源循環のPRの場としても機能させていきたい。
 
HUBは地域の事業者が出資をして設立したDMCが運営する。おそらく現状では、DMCへ出資する余裕のある事業者は多くないかもしれない。しかし、例えば、今後資本のあり方を変え、地域の資本を集約すれば、資本を大きくすることができる。具体的には、地域の有力事業者が中心となってホールディングスを作り、出資規制が緩和された地元銀行が出資をして支援する。
 
ホールディングスを持ち株会社として、地域の他の事業者も参加し、グループ会社化する。これまでは、こんな呉越同舟は非現実的だったと思うが、このくらい構想して、地域で利益もリスクも共有していかないと、時代の端境期を乗り越えていくのは難しいような気がする。そして、細分化されるマーケットごとに特徴あるコンセプトの宿を地域内に作っていく。そのうち一部は「2030年まで限定」など時限的な事業にしてもよい。その間の
収益には施設の解体や再生費用も盛り込んでおく。
 
今後、人手を含め、コストのかかる調理や送迎サービス等を極力効率化、一元化していくことも時代が要請するだろう。そのためにも資本集約は効果があるはずだ。どの旅館も同じような料理を作り、それぞれが送迎をすることの非効率さは平成までにしておきたい。同じような素材なら地域内のセントラルキッチンで仕込み、二次交通はDMCがコントロールすれば済む。コストを減らし、利益を増やすためには呉越同舟が有効な時代になってきている。そのためにも、過去を知らない世代がマネジメントを担うことも重要なポイントになってくる。
 
(中略)
 
観光とは「移動を通じた自己実現の支援」ビジネスである。そう少し広く定義することで、温泉に1泊する客に部屋と料理を提供する以外の様々な演出方法が思いつくと思う。それらを実現するために、そして人口減少時代に持続可能とするためにも、必要な要素を盛り込んだ新しい地域のエコシステム(ビジネスの生態系)を構想することが今求められている。


井門隆夫(2021)「観光イノベーションで地域を元気に 第47回」『センター月報』2021年3月号

感想

人口減少に加えて、新型ウイルスの影響で観光地を取り巻く環境は極めて厳しい状況にあります。したがって、短期的な生き残り策に軸足を置くのは当然のことです。その一方で、時代が変わる節目の時期と捉えることもできるので、長期的な方向性――観光まちづくりについて議論を深めている地域もあります。その際、「DMC(まちづくり合同会社)」と「HUB(ハブ:多機能な町の中心施設)」を軸に、議論を始めてみるのも良いかもしれません。

なお、11年間にわたって連載をお願いしてまいりました井門隆夫先生には、この場を借りて感謝申し上げます。本当にありがとうございました。