旅館の労働生産性向上に向けて~大切な地域DMOの役割~

私どもの機関誌「センター月報」では、毎月、井門観光研究所の井門隆夫先生より、地域活性化や観光振興などに役立つヒントやアイデアをご紹介いただいております。

今月の「センター月報11月号」では、地域DMOが目指すべき方向性についてご紹介していただきました。本日はその原稿の一部をご紹介いたします。

 

館業の労働生産性向上に向けて

地域のイノベーションに向けて

労働生産性に関しては、近年、十分に語られてきた。しかし、その改善はまだ不十分で、特定企業に関しては進んでいても、地域全体としては停滞しているような気がする。

真の改善に向けては、時間をかけ、商工会議所や商工会、あるいは金融機関が事業者支援を行なっていくことが望ましい。もちろん、それ以前に、事業者が自らの生産性について立ち位置を把握することが必須ではあるが。

ある地域では、労働生産性は「資本装備率×資本生産性」で表されることから、資本装備率(1人あたり総資本、総資本の多くは負債)と、資本生産性(総資本あたり付加価値、付加価値の多くは人件費)を算出して、地域内で宿泊事業者をポジショニングし、支援を行なっている。図1はそれを表したものだが、左上(X・Y社)には従業員数の割に負債が大きな事業者があてはまる。ちなみにX社は過剰負債で売却が検討されている。一方、Y社は複数の違った宿泊業態を持ち、マルチタスクと素泊まり化等による省人化を徹底した。近くにプロットされたとしても、財務諸表次第では解釈が変わってくるので注意が必要だが、この図である程度の自社の立ち位置がわかる。

生産性のポジショニング

右下(Z社)には、付加価値の割に資本が少ない事業者があてはまる。Z社については、付加価値(人件費)が過大であり、経営状況は芳しくない。

この図において、理想は右上(高労働生産性)に移行することだ。そのために中間ゾーンの宿泊事業者について、それぞれ経営の方向性や課題を定め、支援を行なっている。また、このゾーンの事業者(支援対象旅館①)には地域をけん引してもらいたいと願われている。

(中略)

例えば、図1においてやや右下に位置するA社は、広大な敷地を所有することもあり、投資ファンド等の支援も得て、地域に誘客・滞在するための開発

(中略)

を目指そうとしている。新しいコンテンツが地域の魅力を作り、少しでも長く宿泊してもらおうというモデルを追求する。A社は利益を生む力はあるが、投資をしていないがために、資本装備率が低い。この弱点を改善することにより、労働生産性を高めていく。

また、複数の旅館や事業を所有するD社は、現在価値が低い今のうちにホールディングス化を目指して事業承継を進めていく。あるいは、従業員を育てる能力のある地域一番館のC社には、人材養成機関の役割を担ってもらう。

そして、こうした地域デザインを設計し、進めていく役割を担うのが、地域DMOだ。地域DMOは有料職業紹介業も持ち、地域人材を採用し、宿泊業にも紹介予定派遣も行なう。これにより、地域として人材を育て、プールしていくことを期待している。

また、地域DMOは滞在する旅行者向けの飲食業を運営し、周辺の小規模民宿が負担軽減のために素泊まり化にも対応ができるようにしている。また、地域の若手経営者が日々ひざを突き合わせて議論する場(たまりBAR)も運営している。つまり、地域が持続可能となるように、地域の調整役(潤滑油)となる計画である。

現在、地域DMOの役割があいまいになっている地域も少なくないが、単なるプロモーションの役割だけではなく、こうした地域デザインを設計し、地域を巻き込み、推進していく役割が本来期待されているのではないだろうか。

今、中小企業法や中小企業政策が大きく転換しようとしている。しかし、地域は中小企業が支えている。すなわち、地域のあり方をどう転換し持続可能としていくか。タブーを超えて議論することが待ったなしとなっている。

井門隆夫(2019)「観光イノベーションで地域を元気に 第31回」『センター月報』2019年11月号

感想

DMOについては、イベントやプロモーションの役割が優先されがちです。ただし、今回の原稿を読むと、社員研修、有料職業紹介、紹介予定派遣、インターンシップ、飲食店経営、素泊まり宿の経営といった役割も視野に入ってきそうです。

地域内で共同化できるもの、地域内にあったら良いものなどを議論していくと、ヒントが見つかりそうな気がします。

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※図2も省略させていただきました。