大変革を企図する時─2020年の厳しさを乗り越えて─

新潟経済社会リサーチセンターの江口知章です。

感染拡の拡大により、観光地は大きな影響を受けています。こうした中、今、何に取り組んだら良いのでしょうか。

今日は、私どもの機関誌「センター月報」で連載いただいている井門隆夫先生の原稿の一部をもとに、観光地をとりまく環境と今後の方向性のヒントをご紹介いたします。

 

2020年の厳しさを乗り越えて

これまで50年間の観光を支えてくれた70代の団塊の世代がまもなく最多人口の座を、現在の40代である団塊ジュニア世代に譲り渡す。マス・マーケティングの世界では、最多人口世代がターゲットになりやすいため、その世代に市場が引っ張られるといわれる。そのため、2~3年後を境に観光市場は大きく変わっていくだろうと予測していたが、それは少し早まり、今年から始まりそうだ。
 
40代といえば、社会に出たときにはすでに一人一台パソコンがあり、Yahoo!やGoogle等の検索エンジンに慣れ親しんだデジタル世代だ。また、金融ビッグバンや消費税5%化による長期不況時代に社会に出たため就職氷河期世代と呼ばれ、賃金が伸びなかったデフレ 時代に生きてきた。独身比率も高く、共働きが多い。
 
彼らが、観光消費をリードすることになったとき、「できるだけ安く」「有名観光地に」というムードになるのはおかしくない流れだと思う。かつて団塊の世代は、新聞やパンフレットで知った「知らない観光地」に興味をもったかもしれない。しかし、多くのジュニア世代は、パソコンやスマホで検索した結果をもとにcookie(検索情報データ)が自分の検索結果に近い情報を示すようになるので、アナログ世代に比べて情報の参照範囲がどんどん狭くなっていくことに気づいていない。自分の検索結果が自分の世界になっていってしまい、検索をしていない言葉から広がる世界を知ることがないという、マーケティング4.0のトラップにはまっていく。また、SNSでつぶやかれた言葉ばかりが頭にすり込まれていく。そのため、観光地に関する知識は団塊の世代に比べて乏しく、「有名観光地」にばかり向かってしまう。
 
こうした時代に、彼らに向け、知らない観光地名を発信し続けるというプロモーションは効率的ではない。また、その価値は高くとも「地域資源を磨き上げる」ことが集客に効果的とも思えない。そもそも知らないからだ。いくらストーリーに落としても、そのストーリーが自分の経験や興味にあてはまらない限り、目に触れただけで終わってしまうだろう。そうした地域資源は、いざきて、知ればその価値に惚れ込む性質のものであり、最初から集客のネタになるものではない。団塊の世代まではよかったのだが、これからの世代は手ごわい。
 
(中略)
 
これからの観光を考える際に重要なキーワードは、深層心理に眠る「自分ごと」だ。つまり、旅が自分の「悩みや願いを解決する」目的へとシフトしていく。「癒されたい」とか、「友人や家族と仲良くなりたい」だけなら、旅に出なくとも身近なところで十分に思いは叶えられる。そうした「不要不急」と呼ばれる需要は減り続けていくだろうし、不要不急な需要に頼る限り、疫病や天災など、ますます増えていくリスクの度に観光地は疲弊し続けなくてはならない。
 
今世紀最初で最後の最多人口世代の交代が実現し、市場が大きく変わる今が、こうした発想を180度転換するときだと思う。
 
参考になるのは、現代と同じく人口が増えなかった江戸時代だ。温泉に通ったのは「病気の治癒」が目的だったし、街道を歩いたのは社寺での「祈願」のためだった。
 
おそらく、これからも人口が減れば減るほど、一人あたりの「悩みや願い」は増えていく。そうした「旅をすることにより、悩みや願いの解決につながる」コンテンツをいかに作っていくかが、今後の観光地の発展を左右することになるだろう。
 
(中略)
 
また、「自分ごとイベント企画」ニーズも増えてくるだろう。不要となったひな人形を集め、神社に並べて大きなイベントとなった千葉県の「勝浦ビッグひな祭り」が一例だが、ひな人形は「お客様のもの」であるかどうかが重要だ。地元のひな人形を並べても意味がない。あくまで、自分のひな人形が並んだ「自分ごと」のためにくるのである。
 
お客様が一日スナックのママになるレンタルスナックのアイディアを以前紹介したが、同様に、お客様に宿泊プランを作ってもらう、お客様にツアーを企画してもらう、という
ように、地域はあくまでプラットフォームになり、お客様に集客までお任せするという発想が必要になってくるだろう。
 
こうした「自分ごと」需要は、筆者の陳腐な発想だけではなく、とりわけ悩み多き女性たちに声をあげてもらえば、山ほど創造されるはずだ。
 
(中略)
 
観光宿泊旅行実施率は前年の実質賃金指数に比例する。
 
厚生労働省発表による数値で、2019年の実質賃金指数は下落した。その結果、2020年の観光旅行需要も下落し、シニア世代に至っては過去最低値も予想される。そうしたタイミングで新型(中略)禍が加わった。
 
2020年は、これから10年先を考える年にしていかなくてはならない。10年後に、日本はどう変わっているか。地域をどうすべきか。(中略)禍で生まれた時間に考えていきたい。


井門隆夫(2020)「観光イノベーションで地域を元気に 第36回」『センター月報』2020年4月号

感想

感染症が収束したとしても、需要側の世代交代が進んでいることから、従来の誘客方法を変えていく必要があるようです。その方策の一つが「旅をすることにより、悩みや願いの解決につながる」コンテンツなのかもしれません。経済活動が停滞している時期だからこそ、収束後を見据えて、将来の一手を考えておきたいものです。