一人旅のすすめ

 

新潟経済社会リサーチセンターの江口知章です。

私どもの機関誌「センター月報」では、毎月、井門観光研究所の井門隆夫先生より、観光振興や地域活性化などに役立つヒントやアイデアなどをご紹介していただいています。今月の「センター月報12月号」では、最近増えている「一人旅」の背景と今後の受入体制についてご説明いただきました。本日はその原稿の一部をご紹介いたします。

 

一人旅

 

増え続ける一人旅

 

一人旅といえば、かつては「何か事情のある客」だとか「面倒なだけで儲からない」とか、評価が低かった。しかし、今では旅行会社の一人旅専用ツアーが満席になるほか、どのOTA(オンライン宿泊旅行予約サイト)でも「一人旅特集ページ」で多くの宿が掲載され、宿にとっても当たり前になりつつあるように 思う。

じゃらん宿泊旅行調査(2016)によると、この10年で一人旅は大幅に増加している(図表1、2)。その 比率は旅行全体の17.5%にまで達し、ついに「子連れ家族旅行」の比率を抜いた。

 

同行者別の宿泊旅行比率

一人旅の増加

 

一人旅が増える背景としては、「晩婚化」や「一人世帯の増加」「休日が合わない」等の社会的事情もあるだろう。しかし、同調査によると一人旅の最大の理由は「ひとりの方が自由で気楽に旅ができるから(全の67%)」というものだ。これは独身層だけではなく、夫婦やファミリー層でも同じで、「一緒に行く人がいなかったから(同20%)」や「旅行したい人とスケジュールが合わなかったから(同16%)」と比べても圧倒的な差をつけている。

つまり、独身世帯の増加や休日の分散化が一人旅の理由になっているのではなく、「自分だけの自由時間を確保したい」という思いの高まりが一人旅を増やしているといえる。むしろ、こうした自意識の高まりが晩婚化や独身世帯の増加を誘引しているといってもよいかもしれない。これはスマホの普及や情報過多により、自分だけで過ごせる時間が少なくなっているためとも想定できる。

最も一人旅をしているのは「20〜34歳の男性」。宿泊旅行全体の29%が一人旅で、10年前のちょうど2倍 にまで増加している。念のためだが、この調査での一人旅には出張や帰省は含んでいない。50〜79歳でも男性の19%、女性の12%が一人旅を経験している。

(中略)

一人旅が増加している背景として、こうした「消費者側の変化」もあるだろうが、筆者は「提供者側の変化」も大きいと感じている。つまり、一人旅を受け入れる宿側の変化だ。

これまで一人旅ツアーの受入れは、週末に部屋が空くビジネスホテルの利用が多かったと思う。しかし、 最近では、温泉宿でも平日を中心として抵抗なく一人旅を受け入れる、いや、むしろ「歓迎する」宿が増えてきているのだ。

おそらく、筆者もあと10年もすれば、一人旅だけではなく数人グループでの客室1名ずつ利用も増え、旅館の客室の半数は1人利用になっているのではないかと思っている。そう考える根拠は、旅館業務の厳しさに起因する「旅館の人手不足」にある。

群馬県草津温泉の東に、「草津の仕上げの湯」として知られる「沢渡温泉」がある。小さな温泉街の中央にある「まるほん旅館」は、一人旅を土曜日も含め常に歓迎している。

(中略)

先代の時代から続けているというその理由は、「部屋を2人客以上で満館にするとお風呂も混雑し、お客様の不満が増える」ためだ。つまり、「1人客を適度に受け入れておく」ことにより適度な収容人数となり、館内の お風呂や食堂での混雑が緩和され、全体での満足度が高まるので一人旅を歓迎するという論理だ。

この考え方の背景には、人数を無理して取らない代わり、「客室稼働率を高め、単価を落とさない経営」を目指していることがうかがえる。その裏には、「稼働と売上を安定させ、雇用を維持したい」という思いもあるのではないかと思う。

旅館の宿泊売上の方程式は「客単価×1室当り宿泊人数×客室稼働率」であり、これに年間営業日数と総室数を掛けると年間宿泊売上となる。つまり、この3要素のどれを優先しつつ、売上を確保していくかが宿泊マネジメントの根幹となる。

このうち、需要の落ちる平日にどう対応するかで、 やり方が分かれる。多いのは、客単価を犠牲にしてでも1室当たり宿泊人数と稼働率を守る「団体」思考。あるいは、稼働率を犠牲にしてでも2名客以上の客単価と一室当たり宿泊人数を守る「2名客」思考がある。そして、1室当たり宿泊人数を犠牲にしてでも、客単価と稼働率を守るのが「一人旅」思考だ。

 

井門隆夫(2016)「地域観光事業のススメ方第81回」『センター月報』2016年12月号

 

感想

割愛した後半部分で井門先生もおっしゃられているのですが、「団体」「2名客」「一人旅」思考のどれが良いというわけではなく、その宿の考え方や季節などによっても異なってくるかと思います。一方、利用者側も同じ人であっても「団体」「2名客」「一人旅」をTPOによって変えていくのだと思います。したがって、今後、双方が意図する旅のスタイルとなるように、上手くマッチングできるかどうかが重要になってくるのではないかと感じました。