産学官連携で「町おこし」に挑む~長岡市摂田屋地区の事例~

 

新潟経済社会リサーチセンターの尾島です。

本日は、清酒、味噌・醬油の蔵が集まり「醸造の町」として知られる長岡市摂田屋地区における町おこしの事例を紹介したいと思います。

NPO法人醸造の町摂田屋町おこしの会(長岡市)の平沢事務局長にお話を伺いました。なお、同法人は

会員数が29人(団体)、賛助会員5団体で構成されています。

 

サフラン酒本舗の鏝絵

 

地域の景観を残すためNPO法人を設置

長岡市の摂田屋地区は、江戸時代には幕府直轄の天領地であり、10軒ほどの蔵元があったと文献に記載されています。上杉謙信が活躍していた時代にまで遡る歴史を持つ吉乃川をはじめ、現在清酒、サフラン酒、味噌・醬油など6 つの蔵元が一地区に集まっている全国でも珍しい地域です。長岡の空襲では市街地の大半が灰燼に帰したなかで難を逃れた摂田屋は醸造の町として古くからの景観を残していました。

貴重な景観を守ろうという動きが本格化したのは、2004年に起きた中越地震によって町の景観が大きなダメージを受けたためでした。建物の多くは木造で酒蔵や味噌・醤油蔵は土蔵造り、その多くが地震により大きな被害を受け、取り壊しや建て替えの話が聞こえてきました。

「もしかしたら、この景観が無くなってしまうかもしれない」という現実を突きつけられたとき、地域とこの町の景観を残したいという思いを強くした市民が中心となり地震の翌年に「NPO法人醸造の町摂田屋町おこしの会」を設立し、町おこしの取り組みが始まりました。

なかでも、明治から昭和初期にかけて全国的に知られていた薬用酒の蔵元である機那サフラン酒本舗の鏝絵(こてえ)の蔵の修復事業がありました。

それまで、良いものだといわれていたが、蔵は私財であったため一般の人が見る機会はほとんどなかったのです。修復には震災の復興基金が使われ、この時蔵は登録有形文化財に指定されました。鏝絵の蔵が公開されるようになると、改めて「これは素晴らしい。何とかしたい」という市民の思いが深まりました。

また、大正時代末期に作られた贅を凝らした庭園と別棟の離れ座敷を含む敷地内の再生が市民ボランティア活動として取り組まれました。蔵全体はいまだ修復の途上ですが、庭掃除をはじめ施設のガイドなど50人超のボランティア市民による活動が蔵元の町おこしを支えています。

 

大学・市民参加の町おこしに発展

町おこしの取り組みと並行して、長岡市は「修景事業推進業務」による2005年の委託事業として長岡造形大学建築・環境デザイン学科の渡辺誠介研究室にマスタープランの策定を依頼し、学生、市民が加わって町の再生に向けた活動がスタートしました。摂田屋の町なかに長岡造形大学の学生がデザインした施設案内表示版を設置するなど再生に向けた産学連携による取り組みも進められました。

毎年秋(10月)には「おっここ摂田屋市」が開催されています。震災からの復興を目指し始まったこのイベントは今年で12年目を迎えます。同市(いち)では、摂田屋地区の酒造会社の敷地を借りて多くのお店が並びます。全て地元有志、事業者による出店であり、ステージも設営されて学園祭のような雰囲気をかもし出しています。

同市(いち)では、市内の高校(商業、農業、工業)三校が英語の頭文字を付したCATプロジェクトにより模擬店を出店し、自分達が生産した農産物やレーザー加工のキーホルダーなどの製品販売を授業の一貫として実施しています。学生達が市場を華やかに盛り上げることで集客を促し、地域の人達の交流の場ともなっています。地域の人達が地元にある資源に磨きをかけるとともに、「町おこし」事業を通じて地域コミュニティの絆の大切さを再発見できたことが最も大きな効果となっています。

 

長岡市摂田屋地区の醸造の町おこし

 

町おこしの今後の展望について

現在は地域の醸造家を中心に内外からの市民ボランティアを中心に町おこし事業が取り組まれていますが、さらに多くの地域住民から活動に参加してもらうことが今後の課題となっています。また長岡市では、サフラン酒の蔵を再生活用し摂田屋を醸造の町として戦略的な観光拠点と位置づけようとしています。現在行われている施設整備の作業はマスクをしながらの重労働ですが、注目されるようになって生まれてくる責任感はボランティアの皆さんの活動に新たな元気を与えているようにさえ見えます。

町おこしへの取り組みについて平沢事務局長は、「どこの土地にも良いものがあり、地元の人達がまず関心を持つことで地域はきっとよくなるはずだ」としたうえで「11月中旬までは土・日、祭日にはサフラン酒の蔵を公開しているので是非一度、摂田屋の町を見にきて欲しい」と町外の人達にも熱いメッセージを送っています。

 

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『センター月報』2017年6月号の「地方叢生の視点」を加除修正いたしました。