地域観光政策の転換を

 

新潟経済社会リサーチセンターの江口知章です。

私どもの機関誌「センター月報」では、毎月、井門観光研究所の井門隆夫先生より、地域活性化や観光振興などに役立つヒントやアイデアなどをご紹介いただいております。

今月の「センター月報5月号」では、今後の地域観光政策の方向性についてご説明いただきました。本日はその原稿の一部をご紹介いたします。

 

客数よりも所得

 

客数よりも所得を伸ばす

 

日本における観光政策としては、物理的限界のある島国で客数を増やすことを考えるよりも、観光により国民所得を上げるという方向を目指すべきだと思う。ちなみに、シェアビジネスは皆「副業」だ。効率的に所得を上げようという人々が関わっている。

しかし、まだ観光客数が増え続けることを前提とした右肩上がりの20世紀型の観光計画を目にすることが多い。総人口が減少する時代に観光客数を増やそうとする場合、他の地域の減少分を奪ってくるしかない。国民所得が増加しない経済構造の時代には、所得向上につながる「新しい旅のスタイルを創造する」以外に地域が豊かになる方法はないと思うのだが、そうした計画は少ない。

この20年間で国内旅行消費は30%も減少したが、旅館業の客室数も30%減った。そのため、残った旅館の方々は「(自分の旅館は)それほど減っていない」とおっしゃるが、それは、消えた旅館の需要を奪ってきたに過ぎないのだ。

今後、イノベーションなき右肩上がりの地域観光計画は、減りゆく観光客の奪い合いに発展し、日本の観光総需要の減退につながり、地方創生の理念とは真逆に進むおそれが高い。奪ったほうは右肩上がりになったと錯覚し続けるが、奪われた地域からは需要が消滅する。

現時点では訪日外国人が増加しているので、何とか助かっている。しかし、日本には地続きの隣接国はなく、受け入れるにも物理的な限界がある。今後、「観光客は減っていく」ことを前提に計画を作るべきだと思う。

しかし、悲観することはない。「客数」を追わなくてもよいビジネスを創造すればよいのだ。

(中略)

人は、観光資源は一度みれば十分だが、その人に会いに行くという目的であれば、何度でもその地に通う。そこで仕事があるなら、滞在もする。地球上の経済が成長しているのであれば、単価を高めていくことも理にかなう。

なかなか日本ではそうならず、逆方向に動いている気がする。旅の目的が「人に会いに行くこと」(観光の世界ではVFR:Visiting friends and relativesと呼び、旅の大きな目的のひとつ)、あるいは「人と仲良くなること」だと気づかずに、20世紀型の「客をたくさん収容できる」ハコモノ観光ばかりが未だに推進されている。数を追うために、安いホテルばかりが新設される。

将来、日本の人口に近い観光客を全て受入れようとするなら、ゆくゆくは日本各地がオーバーツーリズムの弊害に悩み、観光と定住策は対立し、地域の豊かさとは正反対に向かうことになるだろう。

 

井門隆夫(2018)「観光イノベーションで地域を元気に 第14回」『センター月報』2018年5月号

 

感想

井門先生がおっしゃるとおり、訪日外国人の動向を考慮しなければ、日本の人口は今後減少するため、観光客数も減っていく可能性があるわけです。したがって、客数ではなく単価・泊数・訪問回数の増加を通じて地域全体の「所得」を伸ばそう!というご提案には説得力を感じました。

その一方で、「所得」を伸ばす手段として、灯の消える民宿があるならば地域内の第三者へ事業承継するアイデアなども原稿の中でご説明されていますので、詳しくは、「センター月報」をお手にとっていただければ幸いです。