観光の将来とは?

 

新潟経済社会リサーチセンターの江口知章です。

私どもの機関誌「センター月報」では、毎月、井門観光研究所の井門隆夫先生より、地域活性化や観光振興などに役立つヒントやアイデアなどをご紹介いただいております。

今月の「センター月報11月号」では、観光の将来、長期的な課題、そして解決方法のヒントについてご説明いただきました。本日はその原稿の一部をご紹介いたします。

 

観光の将来は?

 

旅行需要の構造変化に備えよう

 

今、私たちは来るべき次の経済の停滞に備え、対処的ではなく、構造的な改革に目を向けなくてはいけなくなっている。そもそも、江戸後期から始まった「人口増加がもたらす経済成長」は既に終わっているにもかかわらず、同じビジネスモデルを続けていること自体が不自然なのだ。地方に目を向ければ、「需要は減っているのだが、同業者も減っている」ので、何とか残った者が需要を維持できているにすぎない。そこに人口増加に伴い自国経済を急成長させていた周辺各国からの訪日消費のボーナスがあったため、なんとか改革を先送りにできていた。

さらに、20年続く生産年齢人口の減少は、女性や高齢者の非正規雇用の増加を促し、平均賃金の低下や余暇時間の減少を招いた。その結果、旅行実施率は年々下がり続けている。この現象は構造的なものだ。正規雇用に関しては、生産性の低い業種が避けられるようになり、地方観光業の人材確保は年々至難となってきている。

売り上げは伸びず、人材も確保できない。こうした状況になったとき、いったいどうすればよいのか。未来がみえなくなると地方の観光業界からは後継者が消え、事業承継も難しくなっていく。私たちは何から改革していけばよいのか。しかし、その先がみえてくれば、これまで「観光」と呼んでいたビジネスに代わる、大きなブルーオーシャンが広がっている。

 

2.発想の転換を

まず、私たちが行なうことは、違う意見でも認め合う風土をつくることだ。これまで長きにわたり、意見が違うと陰口を叩かれたり、ひどければ仲間はずれになったりというのが日本のコミュニティにおける悪しき慣習だった。意見がまとまらなければ補助金や交付金が出ないという仕組みも今の時代に合わない。もう皆でまとまって大量販売、大量消費を求める時代は終わりつつある。同じ地域でもそれぞれが別の発想、別の手法、別の顧客層を追うことで地域を守っていく時代になったと思う。違う意見でも、同じ地域に住む住人としてのつとめを果たす限り、安心して地域で事業を営んでいける心理的安全性を担保することが一番重要なことではないだろうか。

そうした点をふまえ、自由な論点で議論ができるならば、例えば、ファミリービジネスなら、これ以上規模を大きくするのではなく、家族だけで運営できるまで事業をダウンサイズすることもありだと思う。それが宿泊業なら、料理も調理師を雇わずに家族だけで作る。一方で、調理師も独立して、地域にケータリング業を開業し、真空・冷凍技術を活用して料理の一品一品をそうした宿泊業に配達するのだ。あるいは、接客担当係なら自らが個人事業主となり、季節や曜日により必要な業種・会社の接客業務を請け負うという方法も合理的だと思う。すなわち、地域の全員が起業家となり、小さくともそれぞれが独自の強みを活かした小さなビジネスを営む方向を向くのだ。そうすることにより、「人件費が膨れ上がる未来」を避けることができる。個人事業では生活費の一部を経費計上でき、報酬が少なくなっても生きていける。そうした生き方を一人ひとりが目指す地域が生き残る気がするのだ。

もちろん、家族だけであれば365日の営業はできないので、年間の3分の1は休業となり、売り上げは減少するだろう。しかし、人手不足で走り回り、頭を抱えるよりはよいのではないかと思うし、既にこのスタイルを採る温泉地もでてきている。

 

3.観光から人流へ

さらに、売り上げ確保面では、「客数」だけを追う時代はすでに終わった。例えば、宿泊業において、人口減少時代には「客数×回数×泊数」の積を追わなくては売り上げの確保ができない。そう考えたとき、事業のあり方を再定義していく必要がある。

観光面では、人口増加の始まった江戸後期以後、100年以上にわたり、常に「ハレの日需要」をメインターゲットとしてきた。いい換えると「人間関係を維持・強化させる機会として『他者を喜ばせたり、つながる』ための旅」であり、夫婦旅行、家族旅行、友人旅行、同窓会、職場旅行、冠婚葬祭等、余暇需要における観光のほぼ全てがあてはまる。そうしたハレの日需要の旅の目的は「誰と行くか」であり、旅先や宿は演出のための手段に過ぎない。

こうしたハレの日需要は、経済が成長し始めた江戸後期に温泉地で「一夜湯治」が幕府に認められ、療養・湯治を目的としたような「ケ(日常の自分)の旅」が下火になっていくのと並行して増えていった。しかし、ハレの日需要の弱点は、回数や泊数を追えず、その場、そのとき限りで終わってしまうことだ。そのため、今後は、200年前の江戸後期に立ち戻り、ハレの日だけではなく、療養・湯治のような「日常の人間関係から離れる機会としての旅」を追う必要がある。それは、癒しや趣味を目的とした旅であったり、介護計画上のリハビリの旅だったり、サテライトオフィスでの仕事であったり、学びの旅であったり、友人訪問や、移住の視察だったりと、「自分ごとの移動(人流)」だ。そうした自分のための旅では、「宿の人に会うことや環境そのもの」が旅の目的となるので、地域や宿の代替はしにくくなる。そうした需要をインターネットで開拓、獲得していくことが、これからの売上面での改革にあたる。

(中略)

ここで紹介した宿は、いずれもワンオペ(一人で運営している)だ。原始的な事業だが、一人ひとりが自立していずれもきっちりと収益を挙げている。その客数は多くはないが、移住、仕事、友人訪問、趣味、と旅の目的は様々。そのすべてが「自分ごと」である。

今後、人間関係の演出者としての「おもてなし」は、日常での友人としての「もてなし」に変わっていく。馴染みの居酒屋に行くように、地方に旅をする。人口減少時代に「人流」需要を獲得していく地域となるために、新たな発想で議論を交わすときがきたような気がする。

 

井門隆夫(2018)「観光イノベーションで地域を元気に 第20回」『センター月報』2018年11月号

 

 

感想

人手不足が続く旅館業界では、井門先生のご提案のとおり、調理師や接客担当係の方々も個人事業主となり、季節や曜日によって必要な業種・会社の業務を請け負う方法は本人にとっても、会社にとっても、人口減少が進む地域全体にとっても合理的かもしれません。このように観光の将来を考える際には、発想をより柔軟にすることの大切さを学んだ気がしました。