滞在型観光に行きつくまで

 

新潟経済社会リサーチセンターの江口知章です。

私どもの機関誌「センター月報」では、毎月、井門観光研究所の井門隆夫先生より、地域活性化や観光振興などに役立つヒントやアイデアなどをご紹介いただいております。

今月の「センター月報12月号」では、「観光」という言葉に対する違和感と、新しい時代にあった「観光」の意味合いについて、ご説明いただきました。本日はその原稿の一部をご紹介いたします。

 

滞在型観光に行きつくまで

 

観光という言葉の違和感

 

 

 

「観光」という言葉に違和感を感じるようになってから久しい。「観光」に関する仕事をしていますといえば、概ねよい返事はない。それは「観光」といえば、これまでの大量販売を指すマス・ツーリズムを想起させるためである。「観光ですか。でも今はもうそんな時代じゃないですよね。地域の時代ですから」とか。

大学で「観光」を教えていますといえば、専門学校と何が違うのですか、と問われるのがオチだ。それほどまでに「観光」という言葉には垢がついてしまった。そのため、世間でも「ツーリズム」と言い換えたりするケースが少なくない。

地方創生の文脈でも、観光という言葉はあまり受けがよくない。DMO(自主財源を確保しながら地域観光マネジメントをおこなう組織)と観光協会の何が違うのか、という本音をぐっとこらえ、「DMOを主体として産学金官の新しい枠組みのなかで地域の関係人口の増加に資する先進的かつ横展開する取り組みを行なう」等といわねば交付金は取れない。観光という言葉をあまり使わないほうが受けがよい。

なぜか。

それは、観光産業をはじめとする接客サービス業の利益率や労働生産性は低く、事業としてみられていないためだろう。日本の労働者の賃金が上がらないのも、サービス業への労働シフトが進んだせいだという論もある。観光など、サービスオペレーションさえ理解していればできるわけで、大学でわざわざ学ぶ学問ではないという意見も少なくないだろう。観光はその程度のものなのか。そう思うと「観光」という言葉を使うことがはばかられるようになった。

しかし、あえて「観光」を使い続けている。新しい時代の「観光」をつくることでしか、観光という言葉の誤解を解けないためだ。

(中略)

このこんがらがった紐を解く方法。それが「滞在型観光」の推進だと思う。ここでいう「観光」の意味としては、これまでの「余暇を使った非日常な旅」だけを指すものではない。日常の仕事を持ち出し、リモートオフィスで仕事をすることも観光だし、大学生がインターンシップで年に数回、地方に働きに出ることも観光だ。すなわち、日常の人の移動を広く「観光」として捉え表現していくことが新しい時代の観光になる。

滞在型を実現するためには、1泊2食制の旅館業も泊食分離を導入し、食事を自由に選択できるようにしていくことも必要だ。この件に関しては、「1泊2食は旅館の伝統論」が止まないが、そういう旅館を変える必要はない。できる旅館から、宿泊業と飲食業とを管理会計上分離し、できるだけ別に営業方針を定めていくことで双方競争力がつくはずだ。利益を追求するためには、滞在型にして客室の稼働率を上げればよい。1泊2食の安売りだけは絶対に避けたい。

では、誰が「滞在」してくれるのか。どうやって客室稼働率を上げるのか。皆で考えるのはそこに尽きる。地域に滞在する観光客を創造すること。それが地方創生を考えるうえでのヒントになるだろう。「人数」を増やすことは容易ではない。「泊数」を増やすことで地方の観光業を維持できないか。この点が次世代の観光のキーワードとなるだろう。

 

井門隆夫(2017)「観光イノベーションで地域を元気に 第9回」『センター月報』2017年12月号

 

感想

先月に続き、「滞在型観光」に関するお話でした。

先月も感じたことですが、今後の観光振興は「観光客数」だけではなく、「宿泊数」や「消費額」をいかに増やしていくのか?といった視点がより一層、大切になりそうです。