IoTを活用したスマート工場で製造現場の生産性アップを目指す!

 

新潟経済社会リサーチセンターの佐藤です。今回は新潟県内の製造現場における「スマート工場」実現に向けた活動の様子をご紹介します。

2016年5 月、政府はGDP600兆円を目指す成長戦略として「日本再興戦略2016」をまとめ、IoT、ビッグデータ、人工知能、ロボットなどの新しい技術を活用して、労働力不足を克服するための生産性向上や新たな有望市場の創出を目指すとしました。

自動走行するトラックや建設機械、ドローンによる荷物搬送など、既に様々な分野において革新的な実証実験が行われていますが、製造現場においても新技術活用により生産性アップを目指す「スマート工場」実現に向けた取り組みが始まっています。

スマート工場のイメージは次のようなものです。①まず工場の機械の様々なデータをセンサなどで測定し、測定データをインターネット経由でIT企業のクラウドに送ります。②IT企業は収集した膨大なデータを分析し、③工場の管理者や技術者が望む有効なデータに加工して、④工場管理部門のパソコンなどに表示します。

工場では管理部門や製造現場の担当者が、居ながらにして、リアルタイムで工場全体の機械の稼働状況を確認できるようになります(イメージ図参照)。

 

▲ スマート工場 イメージ図

 

広大な工場を巡回して機械ごとに点検を行う作業は時間と手間を要するため、担当者が管理事務所などに居ながらにして機械の稼働状況を把握できる効果は大きいです。巡回に要する時間や手間を軽減することで、担当者の貴重な時間をより重要な仕事に向けることが可能となるわけです。

また、工場の生産性を向上させるには機械が停止している時間を極力減らすことが肝腎です。これまでは不具合が生じて機械が停止しても、担当者がしばらく気づかないケースもありました。機械停止により特定の工程に遅れが生じると、後工程にも影響が及び工場全体で多大な無駄が発生してしまいます。IoTの活用により機械の稼働状況を常時モニタリングすることで、機械の停止を即座に把握し、監視モニターにアラームを表示するなどにより担当者に早期復旧を促すことが可能となります。

さらに、従来は、現場に行って停止した機械を点検するまで不具合の内容は把握できませんでした。IoTで監視することにより異常が発生した時点で不具合箇所や状況を把握できるため、復旧までの時間を短縮できる点も大きなポイントです。

一歩進めて、機械が停止する直前の多量のデータを分析することで、どのような予兆が発生すると機械停止につながるのか、傾向を把握することも考えられます。予兆発生と同時に予防警報を発信し、機械停止を未然に防ぐことができれば、工場の生産性が大きく改善することが期待できるわけです。

このように、スマート工場の実現により製造現場の生産性が大きく改善することが期待されるなか、新潟県(産業労働観光部)においても、製造現場をはじめとする様々な現場におけいて人工知能(AI)やIoTの活用を促進し、新たなビジネスモデルへの転換をリードする県内企業を育成する取り組みが進められています。
2016年度の新潟県事業である「新潟県AI・IoT活用ビジネス創出事業」を受託したのは村上市に本社または工場がある3 社からなる企業グループです(注)。

受託事業を統括するイーアールエス株式会社(以下「ERS」)の石月斗志宏氏にお話をうかがいました。今般の受託事業の目的は、IoT活用により工場の機械の稼働状況を常時監視する仕組みを構築し、工場管理者の負担軽減や機械停止の防止による生産ラインの稼働率改善などの効果を検証することです。

実証実験では、まず工場内のアーム型作業ロボットや部品搬送ラインにセンサや監視カメラを設置し、機械の稼働状況や部品の残量などを測定、監視します。測定したデータを収集・分析し、管理者や担当者が必要とする有用な情報に加工したうえで、工場の事務所のパソコンなどに表示するものです。

 

アーム型ロボットの周囲にセンサ等を設置してデータを計測(ERS提供 以下同じ)

 

実証実験に取り組んでいる工場の現場では、以下の監視業務が人の手を介さずに行われていました。

・ 加工する部品の残量をカメラで監視:この監視カメラは画像識別能力を備えており、「十分」、「残量僅か」など、部品残量を大まかに測定できます。部品がなく
なると機械が停止してしまうので、残量が少なくなった時点で管理部署のモニターに警告を表示します。

・ 機械に流れる電流を測定:異常発生などで機械が停止すると電流が変化するので、これを検知して管理部署のモニターに警告を表示します。

担当者が事務所に居ながらにして工場内の機械の稼働状況を把握できる効果は大きいです。従来は複数の工場棟を巡回して機械の稼働状況を点検するのに30分程度かかっていましたが、所要時間の短縮につながっています。担当者が少ない夜間は、この巡回点検の負担軽減は特に有効とのことです。また、従来は部品の補充遅れで工作機械が停止し、1 日に合計30分程度のロスを発生させていたこともありましたが、実証実験期間中は部品切れによる機械停止はほぼゼロとなっています。

実証実験の結果をまとめるのは先になるが、現在のところ、期待した効果は概ね確認できているとのことです。

ERSグループが目指す取り組みで特筆される点は、画像識別能力を持つ監視カメラを機械の周辺に設置したり、機械へ流れる電流の変化をコンセント付近で測定するなどの方法により、IoTによる監視の仕組みを簡易に後付けする点です。既存の機械について大掛かりな改造やプログラム変更を行う必要がないため、比較的容易に取り組みを始めることができるのです。また、加工したデータを工場の事務所のパソコンや担当者のスマートフォンに表示する仕組みについても、オープンシステムを活用することで簡易で迅速な対応を図っています。
IoT活用のためにセンサ機能を備えた最新鋭の工作機械を新たに購入するのでは取り組みに二の足を踏んでしまいますが、ERSが実証実験で取り組んでいる仕組みであれば小規模の工場でも導入しやすいと思われます。

 

タブレット端末の画面。機械の稼働状況が一目で確認できます。

 

石月氏によると、IoT導入を検討する際は、まず目的を明確にすることが何よりも重要とのことです。例えば、異常状況の予兆を捉えて機械の停止を予防する、不注意による機械停止の回数をゼロにするなど、IoTを活用して何をしたいのかを明確にする必要があります。目的を明確に定めたうえで、サービス提供者とともに、データの測定方法、加工したデータの表示の仕方、警報発信の基準などの打ち合わせを行い、センサや通信機器のレイアウトなどの検討も行いながら徐々にIoT活用の仕組み作りを進めていくわけです。また、最初から工場内のすべての生産ラインにIoTを張り巡らす必要もなく、優先度を設けて生産工程の重要過程から取り組んでいけば、時間やコストを抑えながら相応の効果が期待できます。

IoTや人工知能を活用した仕組みを自社工場に導入、と聞くとハードルが高そうですが、取り組み内容や範囲を十分に検討することで比較的容易に導入できそうです。
IoT活用により貴重な担当者の負担が軽減され、さらに生産ラインの稼働率の改善、保守監視体制の効率化などにより、県内の、特に中小ものづくり企業の生産性が改善することを期待したいものです。
(センター月報2017年4 月号に掲載された記事を加除修正しました。)