宿泊業の離職率が高い理由とは?

 

こんにちは。新潟経済社会リサーチセンターの江口です。

さて、先月、総理大臣官邸で第2回「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」が開催されました。その席で安倍首相は次のように述べられたようです。

 

訪日外国人旅行者数について、2020年に4,000万人、2030年に6,000万人を目標とします。
また、地方と消費をキーワードに、質の高さも求め、訪日外国人旅行者の消費額について、2020年に8兆円、そして、地方部の外国人の宿泊者数について、2020年に7,000万人泊、などの目標も設定し、観光を基幹産業へと成長させていきます。

首相官邸のホームページ「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議
http://www.kantei.go.jp/jp/
97_abe/actions/201603/
30kanko_vision_kaigi.html
(2016年4月4日アクセス)

 

このように観光を基幹産業あるいは成長産業へと育成しようとする取り組みが最近、目立っています。

その一方で、観光産業の主要業種の一つである「宿泊業」の現状をみると、離職率の高さが問題として指摘されています。

こうした中、私どもの機関誌「センター月報3月号」では、宿泊業で離職率が高い背景とその解決策について提案しています。執筆は毎月、連載をお願いしている井門観光研究所の井門隆夫先生です。

 

井門隆夫 宿泊業 離職率

 

 

トランザクティブ・メモリーを高めよう!

井門先生は、宿泊業で離職率が高い理由とのその対応策について、次のように解説されています。

 

他の業界に比べ、不規則な労働時間・休日などの職場環境が関係しているのは間違いない。
(中略)
宿泊業は、働く時間も場所も人によって違う。経営者等の責任者の目につかない、狭い人間関係の職場で働く分、「現場の人間関係次第」となってしまうことが多く、それが離職につながってしまっているのだ。
(中略)
経営学の専門用語に「トランザクティブ・メモリー」という言葉がある。これは、「組織が情報共有をするために、全員が同じことを覚えているのではなく、誰が何を知っているかを全員が知っている状態」のことを指し、トランザクティブ・メモリーが効いている組織ほど生産性が高いという結果が学術的に示されている。

つまり、「全員が同じことを知っている」強いつながりの状態でいることは、組織の生産性上よろしくないのだ。全員が全てを知っている(トランザクティブ・メモリーが不要の)状態では、情報を持たないメンバーが外されやすい。それを回避するためには転勤や異動が有効だが、専門職化しやすい宿泊業では強いつながりの職場になりやすく、情報を持たない若者の離職が止まらないと推察できる。

では、どうすれば組織全体でのトランザクティブ・メモリーを高めることができるのか。それも「働く時間や場所がばらばら」の宿泊業でだ。

経営学の様々な調査や実験で明らかになったことは、トランザクティブ・メモリーを高めるために必要なのは、電話でもメールでもなく、「直接対話での情報共有」だという。
(中略)
経営学者で早稲田大学ビジネススクール准教授の入山章栄氏は、「タバコ部屋にその機能があった」と指摘する。もちろん、タバコを推奨する意味ではないが、偶然そこで始まった目的もない会話こそに(誰が何を知っているかという情報共有が生まれ)人脈も広がり、生産性向上につながる秘訣があるのだ。

入山先生は、「部署を超えた同僚との飲み会も同じ機能を果たす」と言う。大企業のなかには、新入社員は社員寮への入寮を義務付ける企業も増えたが、それもトランザクティブ・メモリーを作り出す素地を計画的に作り出す効果を期待しているために他ならない。
(中略)
離職率を下げるためには、狭い部署ごとの強いつながりを改め、情報をオープンにすると同時に、部署を超えた直接会話を復活させることが必要で、そのためにもぜひ「定休日」を設けることも検討していただきたいと思う。

井門隆夫(2016)「地域観光事業のススメ方第72回」『センター月報』2016年3月号

 

感想

「トランザクティブ・メモリー」の概念は、興味深かったです。誰もが全ての業務分野に精通する必要はなく、専門性のある人を普段から知っていて、何かあればその人に相談すれば良いわけです。一見、当たり前のような話です。

しかしながら、日々、真面目に仕事をすればするほど、その当たり前のことが忘れ去られ、組織の全員が全てを知っていなければならないとの思い違いをしがちです。この点は気を付けたいものです。

なお、トランザクティブ・メモリーについて興味のある人は、次の参考文献等に目を通してみると、より深い知見が得られると思います。

 


 

【参考文献】

入山 章栄 (2012)『世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア』英治出版

 

入山 章栄「組織の知を高めるには、「タバコ部屋」が欠かせない「トランザクティブ・メモリー」の有用性『日経ビジネスオンライン』2013年10月1日,日経BP社
http://business.nikkeibp.co.jp/
article/opinion/20130925/253852/

(2016年4月4日アクセス)