井門隆夫氏著『地域観光事業のススメ方』のご紹介

 

新潟経済社会リサーチセンターの江口知章です。

私どもの機関誌「センター月報」では、毎月、井門観光研究所の井門隆夫先生より、地域活性化や観光振興などに役立つヒントやアイデアなどをご紹介いただいております。

お陰さまでご高評をいただいており、井門先生には7年以上も連載をお願いしています。

その連載を再編集し、一冊の書籍として井門先生がまとめられましたので、今日はその内容をご紹介したいと思います。

 

井門隆夫先生 地域観光事業のススメ方

▲第1回連載スタート時のタイトル

 

観光立国に実現に向けた処方箋

書籍のタイトルは、「地域観光事業のススメ方‐観光立国実現に向けた処方箋‐」(大学教育出版)です。これまでの連載をもとに、旅館経営の現状と問題点、地域活性化の具体的な事例とそのポイント、国や地方自治体による観光振興の目指すべき方向性などがまとめられています。

そのため、旅館経営者のほか、地域を活性化しようと奮闘している社会人や、自治体の観光振興担当者、大学等で観光を学んでいる学生の方々が読者の対象となるでしょう。こうした方々であれば、自分の考えや行動を見直すヒントに出会えるはずです。

例えば、次のような最近の旅館業界のトレンドについて触れられています。これらは旅館経営者がおさえておいても損はないポイントでしょう。

 

これまで、北海道から沖縄まで様々な宿に泊まり、多くの経営者と話をしてきた。そのなかでつくづく感じているのが、需要が完全に二極化しているという点だ。単に格差社会が消費に露呈しているというだけではない。旅の目的に応じて、消費者が使い分けをしているというのが実感だ。箱根や熱海では、4万円超の露天風呂付きの客室ばかり売れる。一方で1万円未満のバイキング旅館やゲストハウスが活気を呈している。そのなかで、どちらを志向するかが、旅館の課題となっている。言い換えれば、前者は「誰かを喜ばせるための旅行」が目的であり、後者は「自分たちが楽しむための旅行」が目的であり、機会としては、徐々に後者が増えているのに従い、単価が下がっているというのが現状であろう。そして、その中間帯は苦戦を強いられている。

 

井門隆夫(2017)『地域観光事業のススメ方 観光立国実現に向けた処方箋』大学教育出版 p.179

 

もちろん、トレンドだけではなく、今後、注目しておくべきキーワードも提示さています。具体的には、「新・湯治宿モデル」が登場すると予測していらっしゃいます。

 

次に来るモデルは「新・湯治宿モデル」であり、(中略)それは、二極分化した「小規模高級旅館」と「格安バイキング料理」のいずれでもなく、その中間帯の旅館が生き残る唯一のモデルであると思っている。

新・湯治宿モデルは、(中略)インバウンドやサテライトオフィスに通う滞在客が泊まるようになる。大量販売用の旅館料理からも脱却していく。もちろん、木賃宿のように素泊まりも増える。滞在客にやさしい、連泊しやすい料金形態を持つ。大量一律の旅館料理ではなく、地産地消の旅館ごとの定食式の創作膳や、ベジタリアン向けの精進料理が中心となろう。創作膳には会席料理のように手のかかる「後出し料理」はない。「自分たちが楽しみたい時のなじみ宿」がコンセプトだ。

宿の予約・決済をはじめ、部屋の出入りはスマホで行うのが当たり前の時代になる。フロントはなく、バーカウンターがフロントデスクを兼ねている。

連泊もあれば、近郊温泉地との「転泊」もある。その昔、草津の酸性泉に入浴し、体をよく殺菌した後、近隣の沢渡温泉の単純温泉に入り肌を整えたという「廻り湯治(渡り湯治)」が多くみられた。すなわち、この頃には、あらためて温泉の効能がもっと知られるようになり、温泉を「転泊」する外国人も目立つようになっていることだろう。

新・湯治宿モデルは「滞在」「インバウンド」「サテライトオフィス」「連泊・転泊」「泊食分離」「定食や精進料理」「スマートキー」等がキーワードとなる。

 

井門,2017,p.181

 

まとめ

毎月、熟読してきた原稿ですが、あらためて編集された書籍を読むと、原稿同士のつながりがみえるとともに、忘れていた点が思い起こされたり、以前はさほど重要でないと感じていた事柄が時を経て、今になってその大切を実感したりして、頭がスッキリと整理された気がします。

年末に観光の現状を振り返ってみるには、とても良い書籍であると思いました。

併せて、毎月の積み重ねが一冊の書籍となった事実を目の当たりにして、継続性の重要さを実感しました。

 

 

本書は井門隆夫先生からご恵贈いただきました。ありがとうございます。