旅館の労働生産性向上に向けて

 

新潟経済社会リサーチセンターの江口知章です。

私どもの機関誌「センター月報」では、毎月、井門観光研究所の井門隆夫先生より、地域活性化や観光振興などに役立つヒントやアイデアなどをご紹介いただいております。

今月の「センター月報4月号」では、ある商工会議所でおこなわれた「旅館の労働生産性」に関する調査結果について、ご説明いただきました。本日はその原稿の一部をご紹介いたします。

 

新潟 旅館 生産性向上

 

労働生産性向上に向けて

 

旅館業は、サービス業のなかでも特に労働生産性が低いといわれ、その改善が観光地活性化に必須と指摘されている。そのため、様々な生産性向上セミナーが開催され、一人が複数業務を担当するマルチタスクや、データを活用したマーケティングなどが求められている。

しかし、そもそも「本当に労働生産性が低いのか」という疑問も残る。なぜなら「低い」といわれる宿泊・飲食業は、パート比率が高く、常勤の正社員が少ない割に、様々な調査票の従業員数欄では「パートも1名」として記入している旅館がほとんどだからだ。1日2時間働くパートも1名、週に2日だけ働くパートも1名と数えて労働生産性を計算すれば、従業員1人あたりの付加価値である生産性の数値は当然低くなる。

(中略)

もっとも、旅館業の雇用状況は相当複雑であり、経営者も把握できていない正確な従業員数を割り出すには給与台帳や勤務シフト表を洗い出すしかなく、客室稼働率を正確に把握するためには、予約台帳を日ごとにめくっていくしかないこともわかった。そうした作業は今後の課題となってはいるが、経営者へのインタビューや決算書の書き写しにより、まず市内宿泊業の約4分の1、39軒の労働生産性の算出と業務内容の把握を行なった。すると、生産性の高い旅館にある共通点がうっすらとあぶりだされてきた。

 

3.平均値より格差が問題

旅館業を知る諸兄には想像通りかもしれないが、共通点その1は、インターネット販売比率の高さだ。楽天トラベルやじゃらんネット、最近ではブッキングコム等のOTA(オンライン予約サイト)をフル活用し、いかに自社ホームぺージへ誘導するかの知恵を巡らす姿がまずは共通だった。高生産性旅館でのネット販売比率は70%を超えていた。ネットを駆使するのに年代は関係なく、40代から60代まで、むしろ「もう若くはない」経営者層が携わっている。逆に、リアル旅行会社へ客室を提供したり、自社で客室管理を行なわず、5%の手数料を支払う代わりにプラン作り等を行なってくれるコンサル会社に頼っている事業者の生産性は低めだった。米国では、予約のオンライン化が進み、航空会社のように旅行会社のコミッションカットを実現するホテルチェーンも出てきている。規模にもよるので一概には語れないが、ITを活用したマーケティングセンスの有無が生産性を左右している。

共通点その2は、オペレーションを効率化していることだ。最大の効率化は経営者自ら調理を手掛けることだ。調理師を雇っている旅館でも、調理師の休日には経営者が厨房に立つ。2人とも休みのときは、素泊まり専用で予約を取る。調理場の効率化は、旅館業共通の課題だ。

あるいは、経理の効率化。月末に領収書を集め、仕訳をして税理士に送るのではなく、クラウド型の会計ソフトを導入し、領収書はスキャナーで読み取り自動仕訳をして税理士とデータを共有するということは、月末の締め業務を効率化するうえで今後あたり前になってくるだろう。

生産性の高い宿と会話をしていると、ルームキーを廃止してスマホで開閉錠するスマートキーの導入や、お客様の氏名や属性情報を予約時だけではなく滞在時にも全員で共有でき、会話につなげるような顧客管理について話が弾む。

商工会議所では、こうした生産性高い事業者のノウハウをまとめ、地域内の他の事業者に対して具体的かつ実践的なセミナーやハンズオン支援を計画している。こうした取り組みこそが「地域力」を上げることにつながるのだろう。

 

井門隆夫(2018)「観光イノベーションで地域を元気に 第12回」『センター月報』2018年4月号

 

 

感想

旅館だけではなく、サービス業全般に当てはまるご指摘が多かったように思います。特に、情報機器の活用が生産性向上には欠かせないのだと改めて実感しました。