着地型観光の成功のために

 

新潟経済社会リサーチセンターの江口知章です。

私どもの機関誌「センター月報」では、毎月、井門観光研究所の井門隆夫先生より、地域活性化や観光振興などに役立つヒントやアイデアなどをご紹介いただいております。

今月の「センター月報10月号」では、着地型観光を進める際のヒントについてご説明いただきました。本日はその原稿の一部をご紹介いたします。

 

観光と地域の共生

 

観光と地域の共生を考える

 

1.ベトナムのリゾートに学ぶ

ベトナムの首都ハノイからバスで6時間。冬には雪をいただく標高3,143mの同国最高峰ファンシーパンを望む山岳都市「サパ」を新潟県の旅館経営者の皆様と視察で訪ねた。最終目的地はサパからさらに車で2時間走った絶壁の上に建つ天空のホテル「トパス・エコロッジ」だ。周囲は一面の棚田。少数山岳民族が米作を営みながら暮らす山の中に、デンマークの企業が同国のODAを活用して地域と共生するホテルとして2005年に開業した。

企業収益を上げながら地域と共生する持続可能な新たなリゾートはこれからの日本の地域にとっても参考になるのではないかというのが視察の目的である。利用客のほとんどがヨーロッパからのお客様で、観光地では1泊の利用が多い日本人はいない。1泊では訪ねる価値があっても片道8時間もかけてまで宿泊する意味を持てないのは無理もない。裏を返せば、滞在する欧米人に関しては、そこが意味のある目的地となれば、どんなに時間をかけても滞在しにやってくるということである。

トパス・エコロッジの特徴は、第一に、デザインの最先進国デンマークらしいランドスケープデザインである。尾根の突端でさえぎるもののない空間にベトナム風のシュロで葺かれた屋根をいただくコテージが30数棟。周囲の棚田と山々を望めるように建っている。棚田の間を行くとインフィニティプールとスパ。ラウンジ棟ではビジネスツールを取り出し、ワークに励む人もいれば、プールサイドでワインを傾ける人もいる。一種ここだけの特別な空間を醸し出している。第二には、周辺に住む少数民族「赤ザオ族」と共生している点である。毎日地元ガイドが「赤ザオ族」の集落を案内するトレッキングツアーを催しているほか、ロッジ前には赤い伝統的な帽子をかぶる女性たちが伝統的刺繍の入った工芸品を販売するマーケットが出るのだが、そこでの買い物用代金の一部は宿泊代金に含まれている。

ロッジはいわゆるDMC(デスティネーション・マネジメント・カンパニー)となり、地域全体の緩やかな経済成長に寄与している。大規模開発や施設への囲い込み等、従来型観光でありがちな「開発者の総取り」を目指さず、地元住民が自発的に(工芸品やランチ需要等の)生産に関わり、新たな就労機会を生むことを目指している。

宿泊代金は日本の温泉旅館と同程度だが、ベトナム国内では高い部類に入る。しかし、ロッジの存在意義が明確であるがゆえに意識の高い顧客層が滞在をしている。インバウンドが増えゆく日本でも、今後こうした地域共生型リゾートが増えていってもおかしくはないだろう。

 

2.着地型観光成功のために

この原稿は、トパス・エコロッジのテラスで日本の山々や棚田を彷彿させる景色を眺めながら書いている。さきほどまで参加をしていた半日5,000円のトレッキングツアーで里山を歩きながら、あることにふと考えをめぐらしていた。「そういえば、日本で一時もてはやされた『着地型観光』という言葉をあまり聞かなくなった気がする」。

そもそも、現地発着の着地型観光は価格を高めに設定しないと採算が取れない。そのため、自国より物価の高い国々からの旅行者をメインターゲットとすることで採算を成り立たせるのが一般的だ。デフレが長期化し、円安の進んだ日本でも外国人向けの現地発着ツアーは増える要素は大きい。しかし、日本人をターゲットにしてしまうがゆえに、なかなか適正価格の設定ができず、採算が取れずに下火になってしまった地域が多いのではないだろうか。

加えて、宿泊業がからんでいないがために、その地での滞在ニーズが引き出されていないのではないだろうか。着地型ツアーを宿泊業が主体となって運営したり、宿泊客に販売したりするのが一般的だが、それ単体で集客しようとして無理が生じているような気がするのだ。

着地型ツアーを成功させるためには、宿泊業をからめない限りなかなかうまくいかないというのが、歩きながら考えていた感想だ。

(中略)

宿泊業にとっても地域にとっても、利用者にとっても三方よし。こうしたスタイルこそ、日本で今後考えていくべき着地型観光のあり方のひとつではないだろうか。

視察ツアーでは、明日ベトナム中部の世界遺産の街ホイアンに向かう。ここでは、多くの民家がクッキングクラス(市場を巡って食材を買い、伝統料理をともに作る料理教室)をはじめ、多くの民家が滞在する観光客に向けてアクティビティを用意している。

まだまだ日本でできていないことは多い。観光による地域活性化にはブルーオーシャンが広がっていると思っている。

 

井門隆夫(2018)「観光イノベーションで地域を元気に 第19回」『センター月報』2018年10月号

 

 

感想

「そういえば、日本で一時もてはやされた『着地型観光』という言葉をあまり聞かなくなった気がする」という井門先生の言葉がとても心に響きました。

着地型観光に取り組んでいる地域では、着地型観光に対する旅行者のニーズが本当にないのか?それとも、着地型観光の魅力を旅行者に上手く伝えられていないのか?さらには、そもそも着地型観光の存在そのものが旅行者に伝わっていないのか?など、一度、整理した方が良いのかもしれません。