「泊食分離」が注目される理由とは?

 

新潟経済社会リサーチセンターの江口知章です。

私どもの機関誌「センター月報」では、毎月、井門観光研究所の井門隆夫先生より、地域活性化や観光振興などに役立つヒントやアイデアなどをご紹介いただいております。

今月の「センター月報10月号」では、旅館業での「泊食分離」の意義と背景、そして地域に及ぼす影響について、ご説明いただきました。本日はその原稿の一部をご紹介いたします。

 

泊食分離

 

泊食分離の意義と背景

 

観光庁は8月、旅館業界に向けて部屋料金と食事料金を分けて表示する「泊食分離」の導入を促していく方針を明らかにした。泊食分離とは、1泊2食付き料金が主流の旅館業で、ホテルのように「食事なしの素泊まり」でも泊まれるようにすることだ。

しかし、1泊2食付きで事業を行なっている旅館に泊食分離を導入したら、食事なし顧客が増える分、売り上げが下がるのは自明である。あくまで、泊食分離は、現時点で客室稼働率が低く、食事なし顧客を取ることにより稼働率が上がり、収益改善のできる旅館や地域に限られる。専業で旅館業を営んでいる事業者は、一定の稼働率を確保しつつ経営しているので、泊食分離に賛成するわけがない。そのため、地域の有力な旅館事業者は泊食分離には積極的ではない。

それなのに、観光庁はなぜ泊食分離の導入を促進しようとしているのだろうか。おそらく、それは将来的にこれまでの1泊2食市場は徐々にすたれ、代替する新しい市場を創造していかなければ、次の世代には地域が成り立たなくなると想定しているからだろう。

1泊2食市場とは、江戸後期から明治にかけて産業革命が起こり、日本の人口が急増し、経済が成長して、右肩上がりに賃金が上昇した豊かな時代の名残とも考えられるためである。

1泊2食は、高度経済成長期を背負った「団塊の世代」が中堅サラリーマンだった1970年代に花開き、家族旅行や職場旅行などの「余暇市場」で隆盛を極めた。その後、今までこの世代が顧客として観光地や旅館業を支え続けてきた。現在でも、定年後の余暇を満喫するこの世代がまだ地域の観光市場を支えている。つまり、現代の観光地や旅館は団塊の世代とともに生き続けてきているのである。

しかし、団塊の世代はいつまで旅をしてくれるのだろう。既に全員が70歳を超えた。最近10年間の宿泊旅行実施率は下がる一方。年齢にはかなわず、いよいよ観光市場の主役から下りようという時代になった。そして、団塊の世代より下の世代は減少し続けるのみである。そして、定年は65歳に延び、定年後の余暇時間も縮小しようとしている。

今後、これまでと同じ客層を取り続ける限り、客数は減少していくことが明らかだ。もし、同じ客層で旅館が生きながらえていくためには、同業者が減っていくことによるおこぼれに与るしかない。じつは、そうした状況が20年間続いてきた。同業者が減ることは、宿泊業経営者にとって悪いことではない。

しかし、地方の雇用は減り、地元の需要は徐々に失われていく。そうしたことも、地方創生が叫ばれている背景ではないだろうか。DMOができて「マーケティングをすべき」といわれているのも、こうした状況を改め、新たな市場を開拓していかねばいけないと考えられているためだ。

 

井門隆夫(2017)「観光イノベーションで地域を元気に 第7回」『センター月報』2017年10月号

 

感想

旅館業界では今後、新たな市場開拓が鍵となりそうですが、それは具体的にどのような市場なのでしょうか。井門先生は「法人需要」「健康維持」「自己実現」に関する市場開拓の可能性について触れられています。興味のある方は「センター月報10月号」をご覧下さい。