インターンシップを地域活性化に活かす方法とは?

 

新潟経済社会リサーチセンターの江口知章です。

私どもの機関誌「センター月報」では、毎月、井門観光研究所の井門隆夫先生より、地域活性化や観光振興などに役立つヒントやアイデアなどをご紹介いただいております。

今月の「センター月報9月号」では、インターンシップを地域活性化に活かす方法についてご説明いただきました。本日はその原稿の一部をご紹介いたします。

 

成功するインターンシップ

 

成功するインターンシップ─地方で働く潜在需要を作る─

 

1.日本型インターンシップ

大学で私のゼミに所属する36名の学生は、毎年8月から9月に地方の旅館での3週間のインターンシップ(就労体験)に行く。

(中略)

井門ゼミでは、2年生の7月にゼミ所属が決まると、かつて後鳥羽上皇が流された隠岐諸島などの旅館に向かう。ちょうど夏はかき入れ時なので、旅館としても有難い。報酬はなし。その代わり、住居とまかない食が提供される。彼ら、彼女たちは、地方や旅館への就職を目指しているのかといえば、そうではない。そういうと旅館の方から叱られそうだが、旅館に就職したいという学生は多くはない。学生がインターンシップに行く第一の目的は「社会人基礎力の養成」だ。鍛える場として地方旅館(特に島の旅館)はとても適しているのだ。

 

2.フォローが最重要

「無償のバイトと何が違うのでしょうか」「おもてなしの現場とは私の想像と全く違うものでした」、1週間ほど経ち、仕事に慣れてくると、こういう「泣き」が入るようになる。アルバイトはあくまでもお金が目的。いつでもアルバイト側が辞められる優位な立場で働くことができる。これまでそうした「自己中心の環境」でしか生きてきたことのない若者が、「他者優先の世界」で、それも「お金に換算できない経験を目的」として働くことは生まれて初めてなので仕方がない。新入社員になると経験する思いを今のうちに体験しておくことで免疫を作るのが目的だ。旅館が厳しいのではない。自分自身が未熟なのだ。

若者は、「対人基礎力」はそこそこ高いのだが、感情制御力や主体的行動力、柔軟性といった「対自己基礎力」は著しく低い、つまり「自分に甘い」のが特徴だ。インターンシップに行く前に社会人基礎力テストを受験すると、概ね低い点数が出る。そうしたことを思い出し、少しずつ内省ができるようになっていく。そして3週目になると、仕事に慣れ、仕事以外での人間関係も築き始め、少しずつ達成感を得るようになっていく。そして、最終日のお別れの日は、駅や空港などで見送られる。とりわけ船で島を離れる時、紙テープを渡されて一緒に働いた人たちに見送られると、感極まり、涙が止まらない。その思いこそが地方や旅館業にとって大切なのである。

私の役割は、旅館の方と連携しながら、上がったり下がったりのモチベーションを最後にピークに持っていくことだ。そのために、スマホアプリで日報を毎日提出させ、業務内容やモチベーションをチェックし、遠隔でアドバイスを送る。モチベーションが下がり気味になった時にはバーベキュー等を企画してもらうこともある。厳しかった体験も、最後がよければ、第二の故郷となり、いつか「次」につながっていくからだ。

そして、このフォローがなければ、おそらく途中で挫折し、旅館が嫌いになって帰っていくだろう。現地では直接語れない悩みがたくさんある。そうしたことを逐一解決していかないと、モチベーションが下がってしまうからだ。この点を理解していない多くの大学ではこうしたことを現地任せにしてしまう。これがこれまでインターンシップが成功しない理由だ。3年生になると手慣れたもので、有償インターンシップで旅館の戦力となる。そして4年生は、実際に旅館の決算書を読み込んだうえで、年次事業計画達成に向けて経営者とともに自ら企画・営業にトライする。

一方、この間、就職活動も行なっている。そして彼ら、彼女たちの多くは、ゼミ活動とは裏腹に、こうした経験を胸に都会の有名企業に就職していく。「なんだ、話が違うじゃないか」、地方の方からはそういわれそうだが、いったん都会に就職する流れは就活が事実上の親孝行である限り、そう簡単には変えられない。しかも、インターンシップを経験していると、社会人基礎力もつくのでそう簡単には辞めない。

しかし、いつか転機が訪れた時、家族ができて地方で働きたいと思った時、その最大候補として学生時代に働いた経験が活きてくる。そうした潜在需要を今のうちに作っておくことが、地方にとってのインターンシップの意義ではないだろうか。

 

3.受入れ事務局を作る

そのために、地方ができることは何か。それは観光協会なりDMOといった中間組織に「インターンシップ事務局」を設置することである。その事務局が大学に依頼するなり、ホームページを作るなりして学生を公募し、窓口となる。繁忙期に手が欲しい事業者、将来の移住を含む第二の故郷となってもらいたい地方自治体、就活のためにも社会人基礎力を高めたい学生の三者の間に入りコーディネートをする。大学に代わり、日報アプリを使い、モチベーション管理とコントロールも行なう。こうすることで、実施体制が確立する。

ポイントは、くれぐれも働く現場に指導やフォローを任せきりにしないことだ。新潟県なら、例えば、佐渡あたりが実施体制を作り推進できれば「インターンシップの聖地」になるくらいの可能性を秘めている。できれば、インターン生が帰る時は紙テープでの見送りをしてあげて欲しい。それがどれだけの効果があるか!

インターン生がその後、地域おこし協力隊で戻ってきてくれるかもしれない。あるいは、家族で移住してくるかもしれない。実際に、旅館を第三者承継したいと再び働く若者が生まれるかもしれない。これらは全て、隠岐をはじめ、インターンシップを推進している地域で始まっている動きである。

すぐに辞めてしまう新卒を狙うばかりではなく、将来地域に戻ってきてくれるかもしれない潜在需要を育てる役割を果たす。地方産業の人材のあり方も見直すタイミングに来ているのではないだろうか。

 

井門隆夫(2018)「観光イノベーションで地域を元気に 第18回」『センター月報』2018年9月号

 

 

感想

「将来地域に戻ってきてくれるかもしれない潜在需要を育てる」という言葉が印象的でした。実績・数字が重視される傾向にあるなか、すぐに移住してれくれそうな人を誘致しがちですが、同時に、いつか移住してくれるかもしれない地域のファンを増やしていく、つまり潜在需要を育てることも大切なのだと改めて実感しました。