今後の地域経済産業政策のあり方~ 大庫 直樹氏著「地域金融のあしたの探り方」の感想~

 

新潟経済社会リサーチセンターの江口知章です。

経済産業省「地方創生と地域経済産業政策について」(2016年3月)によると、地域経済が抱える課題として、①人口減少と②生産性が低いことがあげられています。

これら2つの課題は、当然ながら相互に関係し合っています。例えば、人口を増やしていくには生産性が高く、魅力的な産業や働き口がある地域の方が有利となります。一方、生産性を上げていくには人口規模が大きく、人口が集積している市場が近くにあったり、優秀な人材がたくさん集まったりする地域の方が有利です。つまり、地域を活性化させていくには人口減少への対策に加えて、地域産業を振興していくための対策も合わせて一緒に取り組んでいかなればならないと思われます。

ただし、特に地域経済を元気にしてくための振興策については、地域内に様々な産業があり、またそのための対策も幅広くある上、公平性も考慮しなければならない面もあることから、総花的な色彩が強くなりがちなのではないでしょうか。

 

地域活性化

 

こうした中、地域内で強化・支援する分野を明確にしたメリハリのある産業支援策の大切さを実感させる書籍――大庫 直樹氏著(2016年)『地域金融のあしたの探り方―人口減少下での地方創生と地域金融システムのリ・デザインに向けて」(金融財政事情研究会) ――を読みましたので、今回はその内容を一部、ご紹介いたします。

 

地方創生のゴールとは?

内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局「地方人口ビジョン及び地方版総合戦略の策定状況」(2016年4月19日)によると、全ての都道府県と、99.8%の市区町村で、2015年度中に「地方版総合戦略」が策定されています。

こうした中、大庫 直樹氏著(2016年)『地域金融のあしたの探り方―人口減少下での地方創生と地域金融システムのリ・デザインに向けて」金融財政事情研究会 では、策定された「地方版総合戦略」について、次のような指摘をされています。

 

多くの地方版総合戦略は、人口ビジョンが中心となり、子育てや子づくりなどの社会政策が中心である。自治体にとって経済分野は不得意分野であることもあって、経済政策への展望が拓けていない。

 

大庫 直樹氏著(2016年)『地域金融のあしたの探り方―人口減少下での地方創生と地域金融システムのリ・デザインに向けて」金融財政事情研究会

その上で、地方創生の目標について、次のような考えを表明されています。

 

仕事があって、経済動向が活発になる。その結果、域内で創出される付加価値が増大し、域内の人口を養うこと、(中略)他地域からも人口を呼び寄せることが、地方創生が成功していることの基本的なゴールのはずである。経済問題と人口問題が結びつき、一挙に解決できることである。

そこで、まず域内の付加価値額の増大を、地方創生の目標として置いてみることにしたい。

 

大庫(2016)

それでは、付加価値を増やしていくためには、具体的に何から着手すれば良いのでしょうか。この点については、以下のような提案をされています。

 

域内の付加価値額を増大させるためには、どうすればよいのか。それには就業者数を増やし、就業者当りの付加価値額を伸ばしていくという、2つのKPIで考えていくのがわかりやすい

(中略)

もし就業者数を増やすことができるのなら、就業者当りの付加価値が大きい産業で就業者を増やすのがいちばんよいことである。そのため、産業ごとに就業者数と就業者当りの付加価値額をみていくことが、目標達成のための基本的な視座となる。

 

大庫(2016)

なお、付加価値については、分かりやすく端的に説明されています。

 

付加価値額とは何か。企業活動では、売上げから原材料費などを控除したものである。考え方としては、売上げから外部に支払ったコストを差し引いたものは、企業内部で積み上げた付加価値であるという考え方である。

 

大庫(2016)

地域経済産業の現状を把握し、目指すべき目標を掲げるに当たっては、様々な考え方や多くの統計指標があります。そのため、どのような立ち位置から地域経済を見て、どのようなゴールを目指していけば良いのか?といった点で、悩んでしまう時があります。

これに対して、本書では地域活性化に取り組む際の基本的な姿勢を「就業者数を増やし、就業者当たりの付加価値額を伸ばしていく」こととシンプルに捉えています。単純明快ですが、納得性があります。実際、この考え方に沿った分析が本書には詳細に掲載されています。その分析結果を読み進めてみると、「まずは一度、自分の住む地域の就業者数と就業者当たりの付加価値額を確認してみよう」と思わずにはいられません。

そこで、私たちが住む「新潟県」の就業者数と就業者当たりの付加価値額を試験的に調べてみました。

 

新潟県の就業者数と就業者当たりの付加価値額

就業者数と就業者当たりの付加価値額については、簡便に入手できる総務省『平成24年経済センサス‐活動調査』をもとに探ってみました。

就業者数

まずは、新潟県全体でみた際の就業者数¹を業種別に確認してみます。

 

新潟県の事業従事者数

 

産業中分類でみると、コンビニエンスストア 、パン小売業(製造小売)、酒小売業 などが含まれる「飲食料品小売業」と、特別養護老人ホーム 、介護老人保健施設などが含まれる 「社会保険・社会福祉・介護事業」が5万5,000人程度で最も多くなっています。以下「総合工事業」「飲食店」、そして一般病院、歯科診療所などが含まれる「医療業」などが続き、非製造業が上位にランクされています。

一方、製造業では米菓、水産練製品、切餅、包装餅などの「食料品製造業」が第7位、県央地域を中心とした「金属製品製造業」が第10位となっています。

 

就業者1人当たり付加価値額

続いて、就業者1人当たり付加価値額²を業種別に確認してみました。

 

1人当たり付加価値額 新潟 競争力

 

産業中分類でみると、第1位は「鉱業,採石業,砂利採取業」です。なお、「鉱業,採石業,砂利採取業」の付加価値額の97%は産業小分類の「原油・天然ガス鉱業」で占められています³。

第2位は「インターネット付随サービス業」です。これら上位2業種の就業者1人当たり付加価値額は他の業種に比べてやや突出しています。なお、「インターネット付随サービス業」とは、ポータルサイト・サーバ運営業、アプリケーション・サービス・コンテンツ・プロバイダ(主としてインターネットを通じて,音楽,映像等を配信する事業)、インターネット利用サポート業が含まれます。

その他でやや分かりにくい業種について説明を加えると、「補助的金融業」とは信用保証協会、信用保証会社、農業信用基金協会など、「電気業」とは発電所、変電所など、「協同組織金融業」とは信用金庫、信用組合など、「学術・開発研究機関」とは工学研究所、農学研究所など、「その他サービス業」とは文化会館、と畜場、卸売市場などが含まれています。

全体的にみると、装置産業や金融関連産業が多くなっている印象です。

 

就業者数と就業者1人当たり付加価値額を組み合わせたグラフ(産業大分類)

ここまで調べてきた「就業者数」と「就業者1人当たり付加価値額」を組み合わせてグラフを作成すると、以下のようになります。なお、産業中分類では業種の数が多くて見にくいため、ここでは産業大分類で作成してみました。

 

就業者数と1人当たり付加価値額

 

こうした図をもとに、地域として強化・支援していく産業を絞り込んでいくこととなります。具体的には、産業ごとの対象顧客を軸にさらに細かく分類していくわけですが、大きな方向性としては、上に紹介したとおり、

 

もし就業者数を増やすことができるのなら、就業者当りの付加価値が大きい産業で就業者を増やすのがいちばんよいことである。

 

大庫(2016)

といった点がポイントになると思われます。すなわち、縦軸で示されている「就業者1人当たり付加価値額」が高い産業を中心に、「就業者数」を横軸へと広げられる余地のある産業、いわば伸びしろのある産業(例:情報通信業)を探していくこととなります。そのためには、当該産業に属する個々の主要企業の取組状況なども加味する必要もありますので、今回はここまでで分析を終えたいと思います。

なお、産業大分類では細かな違いが分かりにくいので、グラフを幾つかのカテゴリに分類した上で、産業中分類で表示した方がより分かりやすいようです。また、県レベルでは大きな括りとなっているため、自治体ごとに作成してみると、なお良さそうです。

 

感想

今回、ご紹介した書籍は前半部分が地域金融を対象とした分析、後半部分が地域経済全体を対象とした分析となっています。したがって、金融機関や自治体の関係者などが主な読者対象となると思いますが、その他にも地域活性化に興味・関心のある方であれば、貴重な示唆が得られると思います。

特に、統計資料を使いながら地域経済の現状と課題を明らかにしていく際の分析の進め方は、本当に参考となりました。地銀系シンクタンクに勤務する者のお手本となる書籍です。

なお本日、ご紹介したポイント以外にも、多くの有益な指摘・分析手法が記載されていたので、日を改めて後日、ご紹介したいと思っています。

 

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¹

1人当たり付加価値額を算出する観点から、「事業従事者」を使用しています。

総務省「平成24年経済センサス‐活動調査 用語の解説」によると、「事業従事者」とは

 

当該事業所で実際に働いている人をいう。
「従業者」から「他への出向・派遣従業者数」を除き、「他からの出向・派遣従業者数」を含めて「事業従事者」とする

総務省「平成24年経済センサス‐活動調査 用語の解説」
http://www.stat.go.jp/data/e-census/2012/kakuho/yougo.htm#e05

とされています。

²

就業者1人当たり付加価値額は、「事業従事者1人当たり付加価値額」を使用しています。

³

新潟県「平成24年経済センサス-活動調査(確報)」<http://www.pref.niigata.lg.jp/tokei/1356780793591.html>(2018年1月31日アクセス)をもとにしています。なお、産業中分類の細かな業種についても、本資料を参考にしています。