「なるほど~」旅館業における自社商品の開発・販売の意義

 

新潟経済社会リサーチセンターの江口知章です。

私どもの機関誌「センター月報」では、毎月、井門観光研究所の井門隆夫先生より、地域活性化や観光振興などに役立つヒントやアイデアなどをご紹介いただいております。

今月の「センター月報6月号」では、自社商品の開発による地域活性化に取り組みについてご説明いただきました。本日はその原稿の一部をご紹介いたします。

 

観光の日常化

 

観光の「日常」化に向けて

 

逆説的かもしれないが、私は、これからの時代には宿泊業のような観光業も「消費者とつながるための商品」を持つ必要があると思う。客がくるのを待つだけではなく、商品のオンライン販売で商圏を広げ、自社の個性と特徴をピンポイントで知ってもらうことである。その商品とは「消費者が本当にほしいもの」である必要があるが。

 

2.川島旅館の湯上がり温泉プリン

北海道の豊富温泉。稚内にほど近い、牧場に囲まれた日本最北の温泉街だ。温泉街といってもポツポツと小さな宿が点在する開拓時代の雰囲気を残すいかにも北海道らしい風情である。石油掘削時に天然ガスとともに湧き、油分が温泉に含まれるために湯の表面に油膜が張るとても珍しい「天然オイルバス」だ。温泉は保湿効果が高く、アトピーや乾かん癬せん等の慢性皮膚炎に効能があるということから、多くの湯治客も滞在している。この温泉に、昭和2年から営業を続ける川島旅館がある。祖母から経営を継いだ松本さんご夫妻は3代目にあたる。

2017年に全面リニューアルした15室のうち8室がシングルルーム。旅館にしては珍しい部屋構成だが、長逗留して静かに湯治をしたい方々の多くは一人旅。まさに現代を象徴する部屋構成だと思う。建築ではホルムアルデヒドを使わず、寝具にも天然素材を使う。それは、アレルギーを持つ湯治客だけのためだけではない。現代を生きる全ての日本人にやさしい配慮だと思う。

(中略)

川島旅館にもかつてから多くの湯治客の悩みに対応してきた。なかでもアトピーを患う方は、卵アレルギー等に悩む方が多い。そんな方々にも食べていただこうと、平成22年に川島旅館を法人化して始めたのがプリンの製造・販売だ。旅館に隣接する小屋を改造して工場とし、札幌の料亭で修業を積んだ若主人が考案したのが、防腐剤はもちろん、卵を一切使わず、豊富町のミネラル豊富な牧草で育ったストレス知らずの牛から採れる牛乳で作った「湯上がり温泉プリン」。濃厚な味のプリンは、当初宿泊客向けに提供していたが、同じ悩みを持つ方々の間で評判を呼び、オンラインショップや全国の百貨店の北海道名産展にも出店

(中略)

その後、地元の牛乳を使った「ごはんに載せるバター製品」や療養中の方や妊婦でも安心して食べられる「生乳で作った無添加アイスクリーム」等、松本さんの挑戦は続いている。

(中略)

観光が「不要不急な非日常な体験」であるうちは、人口減少や観光経験率の低下にともない、市場はどんどん縮小していくような気がする。多くの店や宿と一緒くたにされ、単に場所や価格だけで選ばれる商品になっている限り、事業の未来はないとも思う。

いかに観光が「日常化」し、個々の消費者との「つながり」を持てるかにかかっている。そのためにも、自社の「商品」があるとベターだ。そして、自社のプラットフォームを持つ必要もある。現在ある大手企業の作るプラットフォームに載るだけでは伝わらない。どうしても、よい写真がない。物語もみえない。だから、伝わらない。

例えば、宿泊業では、宿泊業以外に「消費者が本当にほしいもの」の製品の製造・販売事業等があれば、オフシーズンや休業期間中のキャッシュ確保もできる。

石川県白山に湧く中宮温泉の一軒宿「にしやま旅館」では、かねてから胃腸に効く湯で炊く「おかゆ」が名物で、自宅で炊くために湯を持ち帰る方々が多かった。そこに目を付け、冬の休業期間を活用しておかゆのレトルトパックを製造・販売するようになり、次世代に承継するまでに「泊まれるお粥屋さん」として複業化と事業コンセプトの明確化を図りつつある。

「どこにある」といわれて非日常を期待する旅行者を受けるだけではなく、この商品を作っている「そこ」に行きたいと思われ、日常の延長で訪ねてくる方々を待つ地域にもなっていきたい。

 

井門隆夫(2018)「観光イノベーションで地域を元気に 第15回」『センター月報』2018年6月号

 

 

感想

観光地や旅館をアピールする場合、温泉、自然景観、食材などで独自性を打ち出せず、他との違いが説明しにくい時があります。そのような際に自社商品があれば、当該商品を開発した理由、工夫した点などを伝えることで、その観光地や旅館の特徴を分かりやすく説明できるかもしれないと感じました。

無論、一社のみで自社商品を開発するのが難しいならば、観光地全体として取り組むほか、他の異業種と連携するなど、様々な方法が考えられそうですので、独自性を打ち出したいと悩んでいる観光地や旅館の方々は、一度、検討してみてはいかがでしょうか。