旅館業の現状と課題

 

新潟経済社会リサーチセンターの江口知章です。

私どもの機関誌「センター月報」では、毎月、井門観光研究所の井門隆夫先生より、観光振興や地域活性化などに役立つヒントやアイデアなどをご紹介いただいております。

今月の「センター月報3月号」では、旅館業が抱える問題点と今後について、ご説明いただきました。本日はその原稿の一部をご紹介いたします。

 

旅館業の現状と課題

 

旅館業が抱える問題点と今後の動向

 

旅館は3K職場と揶揄され、後継者もいない産業に成り下がってしまった感がある。後継者不在は資本力不足を呼び、改装もできずに老朽化し廃業をする旅館が後を絶たない。

その根源的な要因として「品質に比べて単価が低すぎる」という事情がある。これは今に始まったことではなく、業界全体を覆う「罠」のように存在してきた。

労働生産性が低いといわれる最大の理由でもある。

何が低いかというと「室料」だ。室料が低いために食事料を上乗せし、1泊2食で販売している。単価を上げるために旅館は食事の質・量を増すので、そのため旅館の料理は「1泊いただけば十分」の「食べきれない」ものになってしまった。

本来は、室料を正常化させる必要がある。現在の旅館料金は1室1~2名で入ったときの1名あたり単価が低すぎ、4~5名が高くなるように設計されている。

そのため、合宿のような低単価で1室に詰め込める団体が儲かる仕組みになっており、1~2名客が中心の今になっても全く改善されていないのだ。おそらく旅館の料金を設定する際、室料をベースに算出せず、単に1泊2食料金を競合旅館と比較して設定したためにどの旅館も同じ罠にはまってしまったのだろう。

現在の旅館料金は室料と食事料の割合は概ね半々で、仮に1泊2食12,000円の宿があるとすれば、それぞれ6,000円といったところである。食事料の6,000円のうち2,500円程度が食事の原価だ。もし、私がこの旅館を再生するとすれば、同じ12,000円でも、室料を9,000円とし、3,000円のミールクーポンを付けて外に食べにいってもらう。室料を高くし、食事の原価をなくすなり、減らすなりする。

現在の旅館の料金制度では、お客様も1泊が多いことから客室稼働率を稼げず、年々増える1人旅を排除して団体ばかり追うために単価も下がる一方で、食事の原価ばかりかかり、利益が出ない仕組みになっているのだ。

室料の正常化ができない理由として、1泊2食制が旅館に客を囲い込み、食べに行く町の食堂まで潰してしまったこともあるが、旅館業のこの悪しき商慣習に地域全体で気づき、改善(リセット)することが地域再生の第一歩だと誰にも気付いてほしいと願っている。

(中略)

まずは、「宿が減れば観光客は減る」ことを、全ての地域観光に関わる皆が共有することから始まる。日帰り観光ツアーばかり作っても観光消費額は増えず、経済効果は少ない。後継者がいないなかで「宿の灯をいかに守るか」が地域に課された最大の課題なのだ。

観光協会やDMO(観光地域づくりの舵取りを担う法人)の役割は、宿を支えることで販売だけではない。

清掃や送迎等の宿の運営者だけではやり切れないオぺレーションの支援もそうした方々の役割だ(と思うのだが、全くそう思われていないので危機感が高まっている)。

旅館も人手不足を嘆く前に、自らの労働環境を見直したほうがいい。報酬よりもまずは休日の確約だ。いつ休めるかわからないような職場に人手を集めるのは難しい。そのためには定休日を設けよう。お客様や旅行会社の声よりも、働く人の声を大切にしたほうがいい。そして「将来ののれん分けも前提」として、人材を集めよう。旅館業で採用ができないのは「将来のキャリアが描けない」ためだ。一生同じ旅館で働こうなんていう人材はそうそういない。人材を育て、運営規模を広げていくのだ。血縁の後継者に代わる新たな事業承継者の姿がみえたとき、旅館業の資本不足解消が始まっていく。

地域観光を活性化するために唯一必要なもの。それは、これまでの発想の延長にはない様々な観光の「イノベーション(破壊的創造)」なのだ。

 

井門隆夫(2017)「地域観光事業のススメ方第84回」『センター月報』2017年3月号

 

最後に

井門先生のご指摘のとおり、旅館業は料金設定や、清掃・送迎等の共同化、働き方改革、後継者育成など、様々な課題を抱えているかもしれません。しかしながら、現状打破に挑戦している経営者もたくさんおられます。一つひとつの課題を解決していくことで、魅力あふれる旅館業界へと成長していくことに期待したいと思います。