「高圧」を活用した食品加工~旨み成分増加、無菌化実現など効果大~

 

新潟経済社会リサーチセンターの佐藤です。

本日は「高圧」を活用した食品加工についてお伝えいたします。

 

高圧処理

 

生卵に1,000気圧(海底10,000mの状態)以上の高い水圧をかけるとどうなるか?先般参加した高圧技術活用セミナーでの冒頭の一言です。当然グシャッとつぶれると思ったのですが、そうではありませんでした。上記の写真をご覧ください。見た目はゆで卵のようです。ゆで卵のように見えるのですが、加熱していないのでゆで卵のような硫黄臭はなく、食べると生卵と同じ味がするとのことです。

また、水は0℃で凍結し100℃で沸騰しますが、それは「1気圧」下の現象であり、圧力をかけると、例えば2,000気圧では▲20℃でも水のまま、23,000気圧では100℃の「熱い氷」ができるなど、日常とは全く違う状態が生じるとの解説でした。

このような不思議な現象を引き起こす「圧力」を、食品加工、医療などの様々な分野に活用する研究が進められています。新潟県においては越後製菓株式会社(以下 当社 )が約30年にわたり高圧活用技術の研究開発に取り組み、この分野をリードしています。

高圧活用技術の研究の歴史や食品加工分野での活用状況、さらに今後の可能性などについて、当社の小林篤取締役総合研究所所長と大原絵里新規事業室長にお聞きしました。

 

高圧による食品加工とは

火(熱)と圧力は、固体、液体、気体など物質の状態を変化させることができる2つだけの要因です。火が古来より利用されてきたのに対し、圧力については、加圧のために相応の機械設備が必要なこともあり、20世紀以後ようやく研究が進んできたところです。

高圧は既に一度、人類を食糧危機から救っています。20世紀初め、加圧により窒素と水からアンモニアを合成する方法が発見されました。これにより安価な化学肥料が大量に製造され、食糧生産量が劇的に改善して数十億人の世界人類を支えることが可能となりました。

日本において高圧技術を食品産業へ応用する動きは20世紀後半から本格化しました。1987年、京都大学の林力丸教授が高圧食品加工の実用化を呼びかけ、新潟県においても89年に新潟大学の小笠原長宏教授らが中心となり新潟県高圧応用食品研究会が発足しました。新潟県における研究会発足の動きは全国トップクラスの早さでした。当社も、小笠原教授を研究顧問として迎え、これを機に高圧の研究を加速したとのことです。

高圧による食品加工の特色としてまず挙げられるのは、「加熱しない」ため、熱による栄養素の破壊や異常物質の生成が少ないことです。高圧処理の野菜や果物の色合いは生の状態に近く、加熱処理したものと比べると新鮮な感じを受けます。生の風味を尊ぶ食品の加工法として適しているところです。

また、加熱と同等の殺菌効果、あるいはビタミンやアミノ酸など有用成分の増加などの効果を得ることができるのも高圧処理の大きな特徴です。

 

高圧処理による微生物制御(殺菌効果)

4,000気圧、10分の高圧処理は、85℃、20分の加熱処理とほぼ同等の殺菌効果をもたします。高圧により微生物の細胞壁が壊れる、あるいは加圧時の圧縮と減圧時の膨張により微生物の組織が歪んでキズが生じるなどにより、微生物が死滅して低菌化、無菌化を実現するものです。

さらに、微生物ごとの耐圧性の差を利用して不要な菌のみを殺菌することも可能です。たとえばヨーグルトやキムチなどの発酵食品は酵母と乳酸菌を含んでいます。酵母は発酵過程で二酸化炭素を発生するため、流通過程で容器が膨張し破裂するなどの問題をもたらします。加熱処理を行えば酵母は殺菌できるのですが、食感も悪くなってしまい、商品価値を損なってしまいます。このようなケースで高圧処理を行うと、耐圧性が比較的強い乳酸菌は生かしたまま、耐圧性が低い酵母のみを殺菌できます。これによりヨーグルトやキムチなどの発酵食品を、非加熱のまま、発酵を抑制しながら流通させることが可能となります。

最近では圧力と熱を組み合わせることで耐熱性菌を効果的に殺菌するなど、更に効果的な方法が用いられています。耐熱性菌は丈夫な殻に覆われており、中心部は脱水状態であるために熱に強いです。また、この殻のため、高圧処理でも単独では殺菌効果があがりません。この難敵に対し、高圧により殻にキズをつけて内部を浸水させ、その後に加熱を行うことで効果的な低菌化・無菌化が可能となります。また、従来よりも低温による処理でも十分な殺菌効果を出すことができます。

 

高圧処理 イメージ

 

高圧処理による有用成分の増加

高圧処理を行うと、その後短時間でビタミンやアミノ酸などの有用成分が増加する現象がみられます。高圧により穀物や野菜などの細胞壁が破壊されることで、細胞壁でさえぎられていた酵素と細胞組織内の基質が接触できるようになり、酵素の働きが促されて有用成分の生成が短時間で増強されることによります。

高圧処理によるこれらの特徴は食品加工過程に大きな効果をもたらします。例えば、従来は腐敗防止のために多量の食塩を添加し、長期間かけて熟成させていた食品では、以下の効果を得ることができます。

① 腐敗を起こす微生物を殺菌することで、食塩添加が不要となる

② 細胞壁を破壊して酵素の働きを促すことで、短期間での熟成が可能となる

一般的に、添加物の減量・削減、短期間での有用成分の増加、低菌化・無菌化による製品の長期保存など、様々な効果が期待できます。

 

高圧を活用した取り組み

前回、ご紹介した特徴以外にも、高圧を利用した食品加工方法は様々な特徴を有します。高圧加工とは、増圧ポンプで水を加圧し、その加圧水で食材の加工を行う方法です。圧力は、瞬時に、偏りなく容器内の隅々まで伝わるため、食材全体に均一の質的変化をもたらします。また、熱の場合は一定の温度を保つために膨大なエネルギーを要しますが、圧力容器内の加圧水は加圧状態を保つため、熱と比べて製造過程のエネルギー消費が極めて少ないなど、高圧を活用することで効果的・効率的な食品加工が可能となります。

1999年、高圧処理に係わる新技術の活用を目指し、H・P未来産業創業研究会(以下 研究会)(注:H・P = ハイ・プレッシャー、高圧)が発足しました。高圧を活用して食品、機械、農業、医療分野において新たなイノベーションを起こし、国際市場を見据えた研究・開発に取り組むことで、企業の事業高度化や新産業を創造することを目指すものです。

現在、研究会は、越後製菓の山崎彬会長が会長を勤め、食品製造業者や高圧加工用の機械製造業者など約85社の会員が参加しています。また会員の他、新潟県工業技術総合研究所や、長岡技術科学大学、新潟大学、新潟薬科大学などの研究機関がオブザーバーや顧問となっています。

研究会では「圧力の利用」により独創的な商品や研究成果を生み出すことを目指して、企業と研究機関による共同研究が積極的に行われています。高圧を活用するうえで必要な高圧処理装置を借用して実験を行ったり、実用化するためのノウハウや設備導入の指導を受けることも可能です。自社の食品加工に高圧技術を活用してみたい、または興味がある会社などは、ぜひ一度研究会を訪ねてみてはどうでしょうか。

これまで、高圧に関する研究は、食品に対して圧力が関与する様々な効果を明らかにしてきました。さらに今後は、健康、高齢者、環境などに配慮した「質の高い生活」の実現に寄与するものと期待されています。アレルギーを起こす特定のタンパク質を破壊することで低アレルゲン食品を開発する、穀物などの細胞壁を破壊し、柔らかく消化しやすい高齢者向けの食品を開発する、栄養素や見た目を保持しながら徹底した無菌化を行い、おいしくて見栄えのする宇宙食を開発するなど、従来は実現困難であった課題への取り組みが進められています。さらに、高圧処理により血液中のウィルスを不活性化できないか、非加熱製剤を製造できないか、圧力下の水の不凍領域を利用して臓器等の生体材料を保存できないかなど、医療分野への活用も期待されるところです。

越後製菓を始め県内外の意欲的な企業、大学、行政機関が参加するH・P未来産業創業研究会において、新潟発の高圧活用の画期的な新技術が生まれることを期待したいと思います。

 

=

 

『センター月報』2016年11月号の「潮流 県内最新トピックス 第8回」を加除修正いたしました。