創業支援と新事業に取り組む覚悟

 

新潟経済社会リサーチセンターの尾島です。

新潟県では、事業経営者の高齢化が進み後継者の不在から廃業率が上昇しています。平成8〜11年以降、開業率は常に廃業率を下回り事業所数の減少が続いています。このため、産業の新陳代謝を促し新規ビジネスが生まれるような創業の支援が必要とされています。産業におけるイノベーションや新規事業による高付加価値分野での事業展開、そして新しい産業の創造が課題となっています。

本県の新規開業は、以前は小売業・飲食店、理容業やクリーニングなどサービス業が中心でしたが、近年は、介護・福祉サービス、情報サービスなど高齢化やIT技術の発達に関連する開業も増えています。加えて、農業分野では地域農水産品を活用した地域ブランドへの取り組みなどの新規事業に対する期待が高まっています。

こうした地域の取り組みを支援するためには、未だ知名度の低い新製品、新事業の情報発信が求められます。優れた地域の新規ビジネスの周知を目的として経済団体、金融機関、行政などによる新事業の表彰制度がみられます。県内では(株)第四銀行が2016年度から、地域企業による斬新な新規事業の取り組みを表彰する『だいし創業アワード』を毎年実施しており、県内におけるユニークな新規事業の取り組みが紹介されています。

そこで、2017年度だいし創業アワードにおいて最優秀賞を受賞した新分野進出の取り組み事例を
紹介したいと思います。

 

新潟県の開業率・廃業率

 

事例 地域資源を活用し新分野に進出

環境ビジネスへの参入

胎内市で建築業を営む株式会社 皆建(かいけん)をご紹介いたします。

同社は胎内市で建築工事、内装工事を手掛ける事業者です。新規事業として地元胎内市内に自生するスナゴケの特徴を活かして、施設の屋上や道路の防草・緑化用の製品開発に取り組んでいます。

直射日光に強く自然降雨のみで育ち乾燥に強いという特徴を持つスナゴケを栽培し、始めは屋上緑化用のマットとして使用し、その後道路緑地帯の雑草防止、緑化用の「防草緑化一体化シート」として行政向けに販売しました。

このシートは道路緑地帯の防草と緑化を同時にかなえる商品です。交通量の多い道路の縁石に囲われかつては花や木が植栽されていた緑地帯に本商品を敷くと、シートの苔の成長により緑化が進むとともに、行政が年間に数回実施していた雑草処理が不要となる国内でも先例のない取り組みとのことです。

 

新規事業の取り組み経緯

県内の造園業者から庭園用に苔の入手先の相談を受け、仲介したことが同社の苔を栽培する契機となりました。始めは胎内市の工業団地内に群生するスナゴケを購入し、日射にも強いという特性に着目し、皆川社長がスナゴケの緑化への利用を思いついたそうです。当地域は、海岸線沿いにたばこの葉の栽培が行われてきましたが、近年はたばこの減産により休耕地が増加し雑草処理が問題となっていたため、農家の休耕地を利用して苔を公共施設の屋上などの緑化用として栽培し、製品として販売するようになりました。やがて、休耕地の有効活用として提供を申し出る農家が増え、現在では約1町歩(約1万㎡)にまで栽培面積を増やしています。

事業の転機

新規事業に取り組むためには、まず製品の周知が課題でした。そこで、新潟県が新規事業を紹介する制度「Made in新潟」への登録を実施しました。そこで知り合った登録建設業者から「施設の緑化用では面積は知れている。道路の防草・緑化事業にすれば面積が違う」という助言を受け新たに道路用の製品開発に取り組んだことが転機となりました。

完成した商品は、雑草の生育防止とともに、水遣りや肥料が不要なメンテナンスフリーの防草緑化シートとして、従来の防草シートにはない環境緑化の付加価値をつけた製品として優位性を高めました。

公共事業分野では、仕様書で製品機能や用途が指定される既存の実績が重要となります。ところが、新規商品には実績がないことから新製品を行政に知ってもらうために「Made in新潟」の登録制度を利用しました。さらに、当初は行政に公共道路での無償の実証実験を提案し、その性能を実証することで行政への周知を進めました。

事業モデルとしては、地域の施工事業者に製品を提供し、敷設のノウハウを指導するが、施工自体は建設事業者に任せることによりウィン・ウィンの関係で事業を進めています。栽培に2年間、製品化して、受注を受けるまでを考慮すると苔の栽培から製品になるまで3年間もかかることから、事業規模は急拡大するのではなく、徐々に対象を広げ決して無理はしないそうです。今後は、さらに国が公共事業分野における新規事業を支援する新技術情報提供システム(NETIS:ネティス)への登録を進めており、現在は新製品の周知を進めるため、各種見本市展示会等に積極的に出展しています。

 

道路緑地・防草緑化シート

 

本業と副業について

同社においての新規事業はあくまで副業ですが、皆川社長によると「副業」も「本業」でなければいけないとのことです。副業は本来余暇でやるもので、失敗してもしかたないという考えになりやすいのですが、副業も分野が異なる本業と考えなければ事業として失敗するため、経営者自身の新規事業に対する真剣さが必要不可欠だとおっしゃいます。

フリーメンテナンスで道路環境と自然環境に優しい製品として、地域で増加している休耕地の有効活用にも寄与し、新たな雇用を生んでいるという社長の言葉には新分野への自信と覚悟が窺えました。

 

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『センター月報』2018年4月号の「地方叢生の視点」を加除修正いたしました。