旅館や観光地のリピーター(既存客)比率を向上させる方法とは?

 

こんにちは。新潟経済社会リサーチセンターの江口です。

さて、観光振興の仕事に携わっていると、よく聞かれる質問に「旅館業のリピーター(既存客)比率はどのくらいなのでしょうか?」というものがあります。

これは規模・地域・旅館によって様々であるため、ひとまとめにしにくいことから、いつも返答に困っていました。

そこで、今日は旅館業のリピーター比率に関する統計データを整理するとともに、リピーター比率を向上させるための対応策なども併せてご紹介したいと思います。

 

旅館 既存客比率

 

なぜ注目されるのか?

そもそも、なぜ旅館業のリピーター比率を尋ねられる機会が多いのかというと、当たり前ですが「何度も訪れたくなる」観光地を目指している地域が多いからです。

例えば、神奈川県の『観光振興計画』(平成25年4月)をみても、神奈川の観光の3つの将来像の1つとして「何度も訪れたくなる神奈川」(p.10)が掲げられています。また、大分県観光・地域局『日本一のおんせん県おおいたツーリズム戦略2015』をみても、「何度も訪れたくなるおんせん県おおいたに向けて、大分県全体が一つの宿になるようなおもてなしの向上が重要」(p.9)と明記されています。人口が減少していく中では、新規の来訪者だけではなく、一度、訪れた旅行者に再来訪していただこうとするのは自然な流れです。

ただし、自分たちの地域を訪れた旅行者のリピーター比率を把握するデータ・方法は限られているため、推測する方法の一つとして、旅館業のリピーター比率を確認したい人が多いのだと思います。

 

日本政策金融公庫のアンケート調査結果

旅館業のリピーター比率については、金融機関によるアンケート調査が幾つか公表されていますので、ご紹介していきたいと思います。

最近では、日本政策金融公庫から「国内宿泊施設の利用に関する消費者意識と旅館業の経営実態調査」(2013年)が発表されています。この調査は同公庫(国民生活事業)が全国の支店を通じて融資した宿泊施設を対象にしたものです。

調査名は「旅館業」となっていますが業種別にみると、「旅館」が65.6%、「ホテル」が17.2%、「簡易宿所」が16.8%、「下宿」が0.5%となっています。

旅館の既存客比率1

 

また、客室数としては、「5室以下」が13.2%、「6~10室」が33.6%となっており、これを合わせた「10室以下」の宿泊施設が46.8%と半数近くを占めています。したがって比較的、小規模な施設が多い調査となっています。

旅館の既存客比率2

 

こうした調査対象のリピーター比率をみると、下の図のようになります。

旅館の既存客比率3

一言でまとめると「バラバラ」な状況です。

既存客を主体に営業している宿泊施設もあれば、新規客を主体に経営している宿泊施設もあり、その施設によって異なっています(なお、実際の質問は新規客の割合を尋ねる質問でしたので、便宜的に新規客以外は既存客と理解し、新規客の割合を反転させて既存客の割合を算出しています。)。

 

日本政策投資銀行のアンケート調査

続いて、日本政策投資銀行の「地域を挙げたホスピタリティ向上戦略-リピーターの維持・増加による観光地域の活性化-」(2007年)をご紹介します。

こちらの調査は2005年に実施され、やや古い調査です。調査対象は当時の国際観光旅館連盟(日本観光旅館連盟と統合し、現在は日本旅館協会)の宿泊施設などとなっています。

対象となった宿泊施設を業種別にみると、「温泉観光旅館」が61.2%と最も高い割合となっており、以下「観光・リゾート旅館」が17.6%、「観光・リゾートホテル」が7.0%などと続いています。

旅館の既存客比率4

 

施設の規模をみると、「100室以上」が25.6%、「80~99室」が9.3%、「60~79室」が12.6%となり、これらを合わせた「60室以上」の割合は47.5%を占めるなど、比較的、規模の大きな宿泊施設が多い調査となっています。

旅館の既存客比率5

この調査のリピーター比率をみると、下の図のようになります。

旅館の既存客比率6

一言でまとめると「リピーター比率は低い」状況です。リピーター比率が「10%未満」の割合は21.1%、「10~30%未満」の割合は52.0%となっており、これを合わせた「30%未満」の割合は73.1%を占めています。

規模が大きくなると、商圏も拡がりますので、その分、当然ながら新規客の割合が高くなる傾向にあります。先ほど、ご紹介した日本政策金融公庫の調査と比べて、客室数の大きい宿泊施設が多く含まれていたため、リピーター比率が低くなったと思われます。

 

第30回全日本DM大賞 グランプリ

それでは、リピーター比率を引き上げるためには、どうすれば良いでしょうか。各々の観光地、各々の宿泊施設で対応策は異なるとは思いますが、おすすめしたいのは一度、来訪していただいたお客様にダイレクトメールを送付することです。

「えっ、そんなこと…」と思われるかもしれません。ただし、こうした目新しさのない、ありふれた方法を見つめ直すことがとても大切だと思っています。

実際、私どもでは宿泊施設を対象とした研修会に、ダイレクトメールを作成・送付する講座を組み込んだ経験があり、その効果についても手応えを感じています。

こうしたなか以前、研修会の講師をお願いした、山代温泉 加賀の宿 宝生亭 専務取締役 帽子山 宗さんが日本郵便「第30回全日本DM大賞」のグランプリを受賞されました。受賞されたダイレクトメールの現物は全日本DM大賞のウェブサイトや、特別協賛されている宣伝会議の「AdverTimes」でご覧いただけます。

具体的な内容としては…

 

山代温泉宝生亭は、石川県加賀市にある温泉旅館。今回、グランプリを受賞したDMは常連客の中から厳選した100人に対して、特注で名入れした「金のバッジ」を感謝の印として送付したもの。この DMにより、自分がVIPとして扱ってもらっているという特別感を伝えることに成功。送付した 100 通のうち 84 組が宿泊プランを予約するという成果を収めた。

日本郵便のプレスリリース「『第 30 回全日本 DM 大賞』入賞作品発表」
http://www.post.japanpost.jp/
notification/pressrelease/
2016/00_honsha/0224_01_01.pdf

となっています。

今回のダイレクトメールの内容と、以前に研修会でお話された内容を踏まえ、帽子山さんの取り組みで参考になる点をまとめると、次の3点となります。

1.顧客名簿がしっかりしている

帽子山さんの旅館では、顧客名簿をひじょうに大切にされています。単に整備しているだけでなく、ダイレクトメールを定期的に送付しているため、名簿を起点にお客様と良好な関係が築かれています。

2.数値化されている

どのようなお客様に、ダイレクトメールを何通発送し、何件の宿泊予約をいただいたのか、という点が数値化されています。また、より精度の高い名簿と、より効果の高いダイレクメールの内容となるように、絶えず見直しをされています。

3.お客様のことをよく知っている

どのようなダイレクトメールを送付したら、お客様が喜んでくれるのか?が十分に練られています。今回、受賞された「金バッジ」の送付はまさにその典型です。

 

まとめ

どの観光地も、どの宿泊施設も、一度、来訪されたお客様に何度も訪れてもらうために、地域や施設の魅力を高める工夫に力が入れられています。

こうした観光資源や施設の磨き上げも大切ですが、同時に一人ひとりのお客様に継続的にコンタクトし、既存客と良好な関係を築いていく姿勢も大切なんだと改めて認識しました。

もちろん、「ダイレクトメールを送付しよう」との提案に対しては、「反応が少ない」「手間がかかる」「送付を希望しない人に送ってしまうとトラブルになる」といった理由から反対されるケースもあります。したがって、全ての観光地や宿泊施設で取り組めるわけではないのですが、もし、興味があれば、一度、チャレンジしてみることをおすすめしたいと思います。きっと確かな手応えを感じられるはずです。

最後になりますが、帽子山さん、おめでとうございました。

 


 

資料:

神奈川県『神奈川県観光振興計画』(平成25年4月)
http://www.pref.kanagawa.jp/
uploaded/attachment/603745.pdf

大分県観光・地域局『日本一のおんせん県おおいたツーリズム戦略2015
http://www.pref.oita.jp/uploaded/
life/1017158_1115524_misc.pdf

日本政策金融公庫(2013年)「国内宿泊施設の利用に関する消費者意識と旅館業の経営実態調査
https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/
ryokan25_0208.pdf

日本政策投資銀行(2007年)「地域を挙げたホスピタリティ向上戦略-リピーターの維持・増加による観光地域の活性化-」『地域レポート』VOL.23
http://www.dbj.jp/reportshift/report/
local_research/pdf_all/23_all.pdf

日本郵便のプレスリリース「『第 30 回全日本 DM 大賞』入賞作品発表
http://www.post.japanpost.jp/
notification/pressrelease/2016/
00_honsha/0224_01_01.pdf