コト消費から進化する消費行動

新潟経済社会リサーチセンターの江口知章です。

私どもの機関誌「センター月報」では、毎月、井門観光研究所の井門隆夫先生より、地域活性化や観光振興などに役立つヒントやアイデアをご紹介いただいています。

今月の「センター月報8月号」では、観光地のマーケティングについて考える際のヒントについてご紹介していただきました。本日はその原稿の一部をご紹介いたします。

 

コト消費

 

コト消費からトキ消費へ

経済の成熟に伴い、観光消費行動は「モノ(所有)」から「コト(体験)」へとシフトしたといわれている。訪日外国人旅行でも一時の爆買いは下火となり、日本の文化体験や様々なアクティビティが人気となっている。旅行者を受け入れる地域としてもインドアやアウトドアの商品づくりに余念がなく、各地でのディスティネーションキャンペーン(DC)でもコト消費メニューの充実が求められるようになった。

モノからコトへのシフトを促進した背景にはSNSの普及がある。SNSの動画やストーリーで体験を拡散し、発信者の「承認欲求」が満たされることにより、モノでは味わえなかった満足感が得られるようになった。同じ体験でも、自分たちだけの体験で終わるのと他人まで巻き込んで体験を共有できるのでは、まるで意味が違う。モノ(所有)を自慢するのは気が引けるけれど、「コト(体験)の共有」は共感を呼ぶ。そして、提供者サイドとしても、SNSがよいPRメディアとなり、体験を商品として販売しやすくなった。

しかし、「コト消費」はまた次の消費ステージへと移りつつある。

マーケティングの大家、P・コトラーは現在のステージをマーケティング4.0と呼んでいる。製品や商品を売ることを主眼とした頃が1.0。この頃は「4P」モデルがもてはやされ、一方向で全ての人にモノを売る「プロモーション」という言葉が生まれた。続いて2.0の頃に生まれたのが「STP」。もう少し細かく市場をセグメントし、ターゲットを決め、市場におけるポジショニングづくりを目指した。そして21世紀に入り、3.0の時代にはインターネットが登場し、個人の嗜好を通じた検索行動をテクノロジーで読み取り、個人ごとに広告を打つ時代になった。そして、4.0の時代には、SNSを通じた拡散行動が販売を左右する。消費者一人ひとりが推奨者になるステージになっているのが現在である。

マーケティング4.0のステージは進化し、近年はコト消費から「トキ消費」へと移行している。トキ消費という言葉は博報堂生活総研が使い始めた。コト消費の中でも、タイミングが限定的で「今だけ消費」ともいえるだろうか。例えば、ハロウィンやフェスなどがあてはまる。コト消費は「身内同士での消費」だったのに対し、トキ消費はその「共有する時間と場」を参加者全員で消費する。受け身的に体験をするだけではなく、その場に「参加」することによる「一体感を伴った周囲とのつながり」が消費目的になっている。

トキ消費を生んだ背景には、そんじょそこらの体験では「いいね!」が取れなくなったこともあるだろうし、SNSでの見えないつながりではなく、リアルな他者とのつながりが欲しいという人間性の復活とも読み取れる。これは観光にとってはよいことである。そうした時限的かつリアルな機会をいかに作るかという発想に徹すれば、新たなコンテンツを生み出すことができるからだ。「その季節になったね」をいかに推奨し、拡散していくかだ。

例えば、アウトドアメーカーのスノーピークは、高級グランピングを長野県白馬村の山の上で時限的に展開している。あるいは松之山温泉では、地元にゆかりのあるシェフを呼び、美人林を高級レストランに仕立てる「松之山ダイニング」を折々の季節に開催している。今だけという「時限性」と、山の上あるいは森の中という「場違い感」、そしてその場を共有する人たち同士の「一体感」が人気を呼んでいる。時間はかかるが回数を重ねるごとに拡散効果も享受できることだろう。

(中略)

ただし、トキ消費にも課題は残る。それは、拡散された頃にはすでに体験できず、次の機会を待たなくてはならないことだ。

(中略)

その弱点を補いつつあるのが「エモ消費」だ。トキ消費以後、意識しなくてはいけないのが「つながり」、特にSNSでつながったネットワークをいかに マーケティングで活用するかであるが、エモ消費は、トキ消費を日常的に再現させることに成功した。観光の側面から表現すると「いつでも帰ることができる場所」を創り出した。つまり、これからの観光を設計する時、非日常な消費を追うばかりではなく、観光消費を日常に組み込んでいくことが必要で、それは「日常はオンライン上に成立しているコミュニティをオフラインに落とし込む」ことで具現化できる。


井門隆夫(2019)「観光イノベーションで地域を元気に 第28回」『センター月報』2019年8月号

感想

これからの観光地のマーケティングを考えていく際には、人やコミュニティとの「つながり」、そしてその「再現性」の2つを意識した方が良さそうです。なお、エモ消費の詳しい説明については今回、割愛していおりますので、興味のある方は本誌をお読みいただければ幸いです。