観光立国に必要な消費者教育

 

新潟経済社会リサーチセンターの江口知章です。

まだ若く、駆け出しの研究員だった頃を思い返してみると、観光振興の取り組む地域は今ほど多くなかった印象があります。その後、人口減少が囁かれ始め、交流人口の増加が必要だとの認識が広まったこともあり、観光による地域活性化に取り組む事例が多く見受けられるようになりました。実際、仕事として携わる機会が格段に増えました。

特に、2003年1月に小泉純一郎総理(当時)が「観光立国懇談会」を主宰した頃から、政府による観光立国の実現に向けた取り組みが本格化し、「観光」への注目が一段と高まったように思われます。

こうした中、私どもの機関誌「センター月報10月号」では、観光立国を目指すために必要な考え方や取り組みをご紹介しています。執筆は毎月、連載をお願いしている井門観光研究所の井門隆夫先生です。本日はその一部をご覧下さい。

なお、今月はいつにも増して、井門先生の辛口の考え方が示されています。観光産業をより良くしていきたいとの熱い思いからの問題提起の側面もあり、わざと挑発的な文章で書かれてあります。その点をお含みおきの上、お読みいただけますと助かります。

 

井門隆夫氏 観光立国

 

観光大国の国の人たちの旅のしかたは「自分を現地に合わせる」こと

 

日本が観光立国を目指すのであれば、観光大国のヨーロッパの国々(フランス、スペイン、ドイツ等)のツーリズムを学ぶべきだ。特に、サービス提供者ではなく、消費者が「どうすれば、そうした観光大国の旅人のような感性をもって旅をできるようになるか」を学ぶべきと考える。ヨーロッパの国々の旅人は、その国の文化や習慣、自然を受け容れることを旅の楽しみにしている。

日本が観光立国になるために必要なもの。それはまさに「消費者教育」だ。

(中略)

暑い国ではシャワーからお湯は出ない、どの国にもシャワートイレがあるわけでもない。トイレットペーパーだって一部の国だけだ。自然豊かな土地では、部屋にヤモリもクモも虫もいる。ヤモリやクモは虫を食べてくれるので、悪者ではない。

日本人はよく旅先でお腹をこわす。それは、皆さんが無菌状態で暮らしているためだ。無菌を旅先に強要するのではなく、自分が変わればよいのだ。一度お腹をこわすと、きっと免疫ができるのか、その後、あまりこわさなくなるから安心して欲しい。

観光大国の国の人たちの旅のしかたは「自分を現地に合わせる」ことだ。皆さんの国で「郷に入れば郷に従え」という言葉があるが、まさにそういうこと。自分が変わり、全てを受け容れることで旅は楽しくなる。地域の環境や価値を楽しめるようになることを、よく「エコ・ツーリズム」と呼ぶ。日本ではなかなか浸透せず、「エコ」は「経済的」のエコだと勘違いする人もいて、自然環境や文化的価値を楽しむ旅の価値がなかなか上がらない。

私は仕事柄、「良い宿をみつけるコツを教えて欲しい」とよく聞かれるが、答えはいつも1つだけ。「あなたが宿の個性やスタイルに合わせれば、どんな宿も良い宿になる」

そうせずに、客のわがままを記させただけのお客様アンケートで良い点を目指せば、どの宿も平均的かつ没個性になり、良い宿から遠ざかっていくというジレンマに陥る。旅行会社のアンケートやWebクチコミも重視すればするほど「ダメ旅館」ができあがる。

こんな国では、観光大国になることはできない。何が悪いのか。それは誰もなかなか言えないのだが、「消費者」だ。

甘やかさずに、意識の高い消費者を作り上げること。これが日本の観光の今後を左右すると言っても過言ではない。

 

井門隆夫(2016)「地域観光事業のススメ方第79回」『センター月報』2016年10月号

 

感想

もちろん、観光立国の実現に向けては、消費者教育だけではなく、観光産業側の取り組みも不可欠であるのは言うまでもありません。消費者、産業界、そして行政をも巻き込みながら、日本の「旅」がより一層楽しいものへと進化することに期待したいです。