建設産業、ICT活用の新技術で大幅な生産性改善にチャレンジ!

 

新潟経済社会リサーチセンターの佐藤です。

アベノミクス第2の矢による財政政策の需要に加え、老朽化するインフラ補修、相次ぐ天災の復興工事などもあり公共工事は堅調に推移しています。緩やかな景気回復を反映して民間工事も増えつつあり建設業界は徐々に忙しさを増している様子です。

一方で人手不足の状況が厳しくなっており需要を十分に取り込めない恐れも出始めています。国土交通省によると建設業就業者約500万人のうち55歳以上者の割合は34%です。全産業平均は29%なので建設業においては就業者の高齢化がやや進んでいます。特に現在340万人いる技能労働者は、高齢化などのために今後10年間で110万人もの引退が見込まれており、人手不足はますます深刻になりそうです。

各社は定年延長や継続雇用制度などを導入し、働く意欲があるシニアの活用などの対応を行っているものの、長期的な対策が望まれるところです。

 

 

生成性アップを目指して

そこで期待がかかるのがIoT、人工知能、ビッグデータなどの革新的技術を活用して生産性アップを目指す取り組みです。既に製造業を始め、運輸、医療、農業など、様々な分野において新しい技術の活用が試みられていますが、建設業においてもICTを活用する新技術の導入により生産性を向上させ、魅力ある建設現場の実現を目指す「i-Construction」の取り組みが進められています。

i-Constructionがまず目指すのは、ICTを活用する新技術を測量、設計、施工、検査の各工程に導入することです。各工程の作業の様子は次のように大きく変化します。


・ UAV(注1 )により空中から連続撮影を行い、その写真を基に、専用ソフトにより測量データや3 次元図面を作成
・ 測量データ、設計データをICT対応の建設機械に送り、ICT建機の自動制御技術や操作サポート技術で作業を遂行
・全地球測位システム(注2 )を活用して計測を実施
・3 次元データを活用して報告書を作成   など

(注1)ドローン、無人ヘリなどの無人航空機の総称
(注2)人工衛星の電波により高精度の測定を行う技術(以下「GNSS」)


人手を介して行っていた測量がUAVの空撮写真を基に行われたり、設計データがICT建機に転送されて建設機械が自動制御運転で作業を行うなどのほか、2 kmごとに50枚程度作成が必要だった報告書は3次元データを活用することで1 枚で足りるようになるなど、工事を進める各工程で大きな効率化、省力化が期待できそうです(下図 新旧手法の比較を参照)。

資料:国交省HP、植木組提供

2016年度には空撮データによる測量やGNSSによる測量など、新しい技術を活用するために15の新基準が整備され、一部の新技術を公共工事に活用する環境が整えられました。16年度は国土交通省直轄の584件の公共工事において新技術を活用した測量、土工などが行われ、新潟県においても河川の築堤や地滑り防止の切土工事などでUAVによる測量、ICT建機の活用が実践されています。

同省が公表している事例報告に施工業者の意見・感想が掲載されています。UAVのバッテリー容量が小さい、樹木などに遮られるとレーザー測定ができないなどの課題もありますが、作業日数の短縮、延人員の削減、測定精度向上、経験が浅い担当者でも対応が可能など、各工程で大きな成果が確認された様子です。

 

新潟県内の取り組み

新潟県内においても先進的な企業がi-Constructionへのチャレンジを始めています。本年5 月、株式会社植木組さん(以下「当社」)がICT技術を組み込んだブルドーザーやバックホウなどの建設機械を活用している阿賀野市の建設現場を見学させてもらいました。

ICT建機に組み込まれるシステムは「マシンガイダンス」と「マシンコントロール」の2 種類があります。「マシンガイダンス」とは、設計データと実測データとの差異を運転席のモニターに表示し、オペレーターの運転操作をサポートする技術です。一方、「マシンコントロール」とは、受信したデータをもとに建機を自動制御しながら運転操作を行うものです。

今回は「マシンガイダンス」建機を間近で見せていただきました。「マシンガイダンス」で必要となる機器は、既存の建設機械に比較的簡単に取り付けができるそうです。

 

 

ICT建機は、現場に設置したGNSS基準局からの情報をもとに自己の位置を把握します。GNSS基準局が衛星から受信した電波を各ICT建機に送り、ICT建機に備え付けられたモニターに自己の位置が表示される仕組みです。

ICT建機にはいくつものセンサーが取り付けられています。例えばバックホウではアームやバケットにセンサーが取り付けられており、バケットの位置や角度が把握できるようになっています。さらに、設計データと実測データの差異により、「あと10cmの切土が必要」といった具体的な情報がリアルタイムでモニターに表示され、オペレーターはモニターに表示される高精度の指示に従って作業をすすめることができます。

 

 

バックホウで作業をしていたオペレーターにお聞きしたところ「モニターの表示は分かりやすく、操作も簡単だ。モニターにバケットの角度や、あと何cm掘るかが表示されるので仕事がやりやすくなった」とのことです。初心者ばかりでなくベテランオペーレーターにもICT技術の恩恵は十分にあるようです。

当社現場主任によると、ICT建機のおかげで丁張りという目印を設置する作業が不要になったとのことです。丁張りのために配置されていた作業員を削減でき、丁張りのたびに建機を止める必要もなくなったので、省力化とともに作業の効率化が図られているとのことです。

さらに、「マシンガイダンス」よりも高機能で操作を自動制御する「マシンコントロール」型の建機を使えば、経験の浅いオペレーターでも熟練者並みの作業も可能になりますので、建設現場の人手不足対策として大いに期待できそうです。

さて、ICT建機を活用するには、従来の平面の測量図面、設計図面から3 次元データの図面を作成し、これをICT建機に送信する必要があります。将来的には測量業務、設計業務の段階から3 次元データで作業を進め、そのデータを基に施工段階でICT建機に転送するなどで、さらに効率化が進む見込みです。

3次元化システムの導入には4種類程度のソフトが必要で、ハイスペックPCとあわせると1 セット数百万円の投資が必要です。また、担当者が全てのシステムに習熟し、ICT施工工事の複雑な3 次元データを作成し、管理できるレベルになるには少なくとも半年を要するとのことです。

当社においても、使用機器やステップごとの手順を確認しながら、また、従来手法によるデータと比較して新技術の精度を確認しながら慎重に取り組みを進めていると聞きました。担当者の育成は特に時間を要するので早めに着手した方が良いとのことです。

国土交通省の資料「i-Construction~建設現場の生産性革命」には、大企業を対象とする工事ではICT活用施工を標準化する一方、地域企業を対象とする工事については、入札においてICT活用施工を加点評価する、あるいは契約後に施工者との協議を経て可能な範囲でICT活用施工を実施するなどで、徐々に対象工事を拡大することが記載されています。

新潟県土木部においても、これらの新しい技術を県内建設業者に普及させるため、各地で実地見学も含む研修会を精力的に開催するとしています。中小建設業者の実態をふまえればある程度時間をかけて取り組む必要があるとしながらも、i-Constructionを推進する流れは変わらないとのことです。

ICTを活用した新技術の導入については、担当者の育成を始め相応の負担は生じるものの、建設業務の生産性向上や人手不足対策に大きな効果が見込まれます。
i-Constructionが目指す「魅力ある建設現場の実現」に向け、県内の建設業者の積極的な取り組みを期待したいものです。

 

(センター月報2017年7 月号に掲載した記事を加除修正しました)