地域おこし協力隊研修から考える「地方で起業する方法」とは?

 

新潟経済社会リサーチセンターの江口知章です。

私どもの機関誌「センター月報」では、毎月、井門観光研究所の井門隆夫先生より、地域活性化や観光振興などに役立つヒントやアイデアなどをご紹介いただいております。

今月の「センター月報9月号」では、地域おこし協力隊研修から考える「地方で起業する方法」 について、ご説明いただきました。本日はその原稿の一部をご紹介いたします。

 

地方で起業する方法

 

地域おこし協力隊研修

 

今年度も地域おこし協力隊の起業・事業化研修が始まった。

(中略)

地域おこし協力隊とは、都市などに住んでいた地域外の人材を地域社会の新たな担い手として受け入れ、最長3年間自治体に所属して地域力の維持・強化を図るメンバーで、全国に約4千名の隊員がいる。任期終了後には地域で起業する隊員も少なくなく、起業したい事業の一番人気は、空き家を活用したゲストハウスやカフェ等の宿泊・飲食業だ。こうした隊員に向けて、微力ながら筆者も研修会で起業サポートを行っている。

私が起業志望の隊員に向けて事業化のアドバイスとしてお伝えしていることは、「持続可能な事業を考えること」、「客数を追わないこと」、「マルチタレントになること」、そして「セレンディピティをつかむこと」の4点。「そんな考え方では事業は大きくならない」と思われるかもしれないが、地域おこし協力隊の皆さんには、理解していただきやすい。なぜなら、これまで「そうではない考え方」を続けてきた都会の企業で一度は働いた経験があるからだ。

「これまでと同じではいけない」、そう思ったからこそ、地域の門をたたいたと思う。

最初からすべてうまくいく事業などない。手元資金も多くはないだろう。小さく始めて、周囲を巻き込み、育てていく。若いからこそできる特権を活かして欲しいと願っている。

(中略)

「持続可能」という言葉は環境保全の場面でよく使われるが、その意味は「資源を維持できる範囲で活用すること」である。同様に、経済の文脈でこの言葉を説明すれば、「需要を超えない範囲で供給すること」。いいかえれば「競争しないで商売できること」だ。需要が人口とともに自然に増加し、せっせと供給量を増やしてきたこれまでの200年間、失ってきた発想である。

供給が需要を超える供給過剰の状態になると、商品はコモディティ化し、どんなに努力して差別化しても注目されないジレンマに陥る。地域の「旅館」という商品もまさにその状態だ。そうなると、商品を売るためのコスト競争となり、押し売り営業するパワーを持った、より資本の大きな企業が勝つ。地域を売ることも同じで、どんなに素晴らしい観光資源でも、需要より供給が大きいと結局は予算の大きな自治体が勝つ仕組みになっている。

では、どうすれば、供給量より需要の大きい商品を作ることができるのか。それは「顕在需要」を追わず、徹底して「潜在需要(あったらいいな)」を開拓することしかない。

200年以上前の江戸時代、灰を売る「灰買い」、桶を修繕する「たがや」、キセルを売る「羅宇屋」と様々な職人がいた。江戸時代も人口が伸びず、自立のために人々は「あったらいいな」を生み出し、商売にしていった。人口が減る時代には持続可能な経済を創り出していくしかないのである。

研修では、潜在需要をみつけるワークとして、「需要側(消費者等)」の悩みや課題と「供給側(生産者等)」の悩みのマッチングを行う。

例えば、「運転代行業の少ない田舎では安心して飲める店がない」という消費者の悩みと、「田舎で代行業は儲からない」という生産者の悩みをつなげ、軽トラを居酒屋にする『移動屋台』というアイディアを考えていた協力隊の柴田君。移動屋台はできなかったけれど、民宿の納屋を借りてバーを造った。飲み疲れても隣ですぐ寝ることができる『泊まれるバー』というコンセプトで、夜遅くまで働く人たちに向けた潜在需要開拓を始めている。

(中略)

「偶然」を「幸運」に変えていく力を「セレンディピティ」という。ちょっとした偶然をきっかけに行動を起こせるセレンディピティを持つことができれば、雇われるがままに不満ばかりがつのる「ブラック」という言葉はこの世から消え去ることだろう。協力隊の皆さんは、その偶然をつかむプロセス上にいる。もしかしたら、もうつかんでいるのかもしれない。それはきっと後でわかることだろう。

ただし、徒手空拳・無担保・小資本でいきなり立派な宿や飲食店を専業で経営していくのは少々難しい。最初は小さく、その代わり「複業(ダブルインカム)」で始めることをすすめている。

そもそも日本には四季がある。それが強みにもなるし、季節の繁閑が弱みになることもある。そこで、夏は宿、冬は海外に出稼ぎのダブルインカムだってありだ。また、日本人は働くのが好き。休みに出かけてくるのが週末だけなら、平日は別の仕事をしていてもいい。実際、ゲストハウスはこのタイプが多い。

 

井門隆夫(2017)「観光イノベーションで地域を元気に 第6回」『センター月報』2017年9月号

 

感想

地方であれ、首都圏であれ、従来の事業であれ、起業時であれ、商売とは「お客様は何に興味・関心があり、どんなことに不満・不安・不便を抱いているのか?」を注意深く観察した上で、その悩み・問題点を「どうやって解決していくのか?」ということに尽きるのだなあと実感しました。