「コ・ワーキング」が創る滞在型観光

 

新潟経済社会リサーチセンターの江口知章です。

私どもの機関誌「センター月報」では、毎月、井門観光研究所の井門隆夫先生より、地域活性化や観光振興などに役立つヒントやアイデアなどをご紹介いただいております。

今月の「センター月報11月号」では、観光客数だけでなく、「客数×泊数」の積による「滞在型」観光地の意義や方法、そして地域に及ぼす影響について、ご説明いただきました。本日はその原稿の一部をご紹介いたします。

 

コワーキング 観光

 

泊食分離の意義と背景

 

「コ・ワーキング」とは、自己裁量で仕事のできるビジネスパーソンがリモートオフィスに集まって働くスタイルのことだ。

アジアにはこうしたリモートオフィスのアライアンスが組まれ、そこで働く数千人のコ・ワーカーたちのネットワークがいくつもある。

(中略)

日本にいると、世界の動きについていけていないと感じるときがある。コ・ワーキングの動きもまさにそのひとつ。決められた職場で決められた時間に働き、出張や研修先で休暇を取る「ブリージャー」というスタイルや、休暇先で仕事をする「ワーケーション」という働き方にはほとんど縁がなく、プレミアムフライデーになるとパソコンをもって近くのカフェで時間をつぶすのが関の山の日本のホワイトカラーたちは、すでに世界に乗り遅れつつあるのかもしれない。

(中略)

今、各地で訪日外国人旅行者をターゲットとした誘客の取り組みが行なわれているが、そのほとんどが、いわゆる「観光客」であり、その客数が目標となっている。

しかし、「客数」を追うプロモーションが行き過ぎると、一時期や一カ所に需要が集中する「観光公害」を呼ぶおそれがあり、地域一体となった持続可能な観光モデルに近づいていかない。

人口が減少していく将来にわたり、観光を持続可能なものとするためには、単純に「客数」だけを追うのではなく、「客数×泊数」の積(滞在型)を目標とすべきだ。客数が減っても、泊数を延ばすことで需要は確保され、平準化もできる。そのプロトタイプとして、観光だけでなく、仕事も旅に取り込むコ・ワーキングがひとつのモデルとなり得るのではないだろうか。

滞在型であれば、都市から離れていても問題はない。美しい田舎の景観や町の食堂、そして日帰りで楽しめるアクティビティや一泊で過ごせる温泉地が近くにあればなおよい。

役割を終えた公的宿泊施設等があれば、「Hub(ハブ)」施設としてリモートオフィスにリノベーションしてしまおう。宴会場は高速回線を引いた広々としたコ・ワーキングスペースに衣替えし、簡単な食事のできるカフェを設け、周辺の民宿でも長期滞在ができるようにする。夕食は地域の飲食店に日々出かけていくだろう。町まで少し離れているならシャトルバスを出せばよい。自転車の車輪(ハブ&スポーク)のように、ハブを起点とした地域観光を実現すれば、季節や曜日の波動を消し、地域の新たな需要や雇用を生んでいくことだろう。

少しだけ発想を変え、これまでどおりの客を追うのではなく、世界中の労働生産性向上の動きや働き方改革の進展と連動した「滞在型」観光を先取りしていくビジネスデザインも必要ではないだろうか。

 

井門隆夫(2017)「観光イノベーションで地域を元気に 第8回」『センター月報』2017年11月号

 

感想

以前、投稿した「観光振興に携わる人におすすめ~木曽崇氏著「夜遊び」の経済学~」際にご紹介した木曽氏も同様に、

 

地域において行われる観光消費の総額は「観光客数/年×平均観光消費額/日×平均滞在日数」の算式で求められるが、先述のとおりこれまでの多くの既存の観光政策は、このうち観光客数を増やすことに力点を置いたものであった。

 

木曽崇(2017)『「夜遊び」の経済学 世界が注目する「ナイトタイムエコノミー』 光文社新書)

と述べられています。

したがって今後の観光振興は、観光客数だけではなく、多様化する働き方の流れを取り込みながら、客単価も重視してバランス良く観光振興を進めていくことが重要なのだと思いました。