身近な紛争を話し合いにより円満に解決! 新潟地方裁判所、民事調停制度の普及・啓発に尽力

 

新潟経済社会リサーチセンターの佐藤です。

今回は手軽に使うことができて紛争解決に威力を発揮している便利な司法の仕組みをご紹介します。

 

握手 民事調停

 

身近な紛争を話し合いにより円満に解決することを目指す

お金の貸し借りを巡るトラブルや近隣の騒音や悪臭への苦情など、身近なところでの紛争は意外と多いものです。いったん争いとなると双方が言い分をぶつけあってなかなか解決しないのですが、そうかといって相手は知人や隣人なので訴訟を起こして徹底的に争うのもはばかられます。このような場合に、裁判ではなく双方の話し合いを通じて円満な解決を目指す「民事調停」という便利な制度があると聞きました。その仕組みや特徴、利用状況などを新潟地方裁判所にうかがいました。

まず民事調停と訴訟との違いについてお聞きしました。訴訟では原告と被告が自己の正当性を争い、判決により白黒をはっきりさせて決着を図ります。これに対し民事調停は、申立人と相手方の双方が話し合いを通じて合意点を探る点が大きな違いです。双方に「〇〇してはどうか」と調停案が示されることもあるなど、円満な解決を目指す仕組みとなっています。一般的に訴訟に比べて手続きが簡便で費用も安いうえ、解決までの期間も短いなどの特徴があるそうです。最近の新潟地方裁判所の取り扱いでは約63%が解決に至っており¹、使い勝手の良い制度だと感じます。


¹平成28年の新潟地方裁判所管内の民事調停案件について「取り下げ」を除いて算出
①調停成立、②調停に代わる決定(後述)、③調停不成立、のうち(①+②)の割合


紛争の内容により、管轄する裁判所は簡易裁判所と家庭裁判所に分かれています。

 

簡易裁判

 

調停委員会が間にはいり、双方の話し合いを丁寧に進める

申し立て手続きは簡単です。裁判所または裁判所のホームページから入手した申立書式に記入して提出します。書式はたいへんシンプルで専門知識などがなくても容易に記載できます。申し立ての費用は、訴える金額が100万円の場合は5千円、300万円の場合は10千円など、訴訟を起こす場合に比べて概ね半分となっています。双方が話し合いを通じて解決を図る仕組みなので弁護士を立てる必要もなく、この点でも利用しやすいものとなっています。

申し立てが行われると裁判所から相手方に申立内容や調停期日が記載された通知が送られ、必要があれば日程調整などのうえ双方が裁判所に出向いて調停が始まります。

民事調停では裁判官1名と調停委員2名以上(通常は2名)から成る調停委員会が間にはいり、申立人、相手方双方の言い分を十分に聴きながら解決方法を話し合います。調停委員は社会の様々な分野で幅広い経験を持つ40歳から70歳の民間人から最高裁判所が任命します。非常勤の国家公務員の扱いであり任期は2年間です。申し立て内容に応じて弁護士、医師、建築士、会計士などが調停委員に任命され、これにより当該分野の専門的な意見を聴くことができるようになっています。

訴訟が法廷で公開で行われるのに対し、民事調停は調停室で、非公開で行われます。調停室はごく一般的な会議室のような雰囲気です。非公開なので他人の目を気にする必要はなく、安心して話し合いに専念できます。双方の待合室が用意され、調停委員会が申立人、相手方を交互に呼んでそれぞれの主張を聴きながら協議を進めるなど、細部にわたり配慮がなされています。民事調停を利用した方からは、調停委員が丁寧に聴取してくれた、調停委員の説明は分かり易い、説得力があるなど、調停委員の見識や対応ぶりは高く評価されているとのことです。

さらに、話し合いがスムーズに進行するよう、事前に意見書を提出してもらうなどの工夫も行います。申立内容に関する相手方の言い分を事前に提出してもらうなどにより争点が明らかになり、ポイントを絞った話し合いが可能となります。

このように、申立内容の分野に詳しい調停委員を任命したり事前に争点を明らかにするなどの仕組みにより、多くの申し立てが2~3回以内の話し合い、3カ月以内の期間で解決しています。解決までの期間が比較的短い点は負担感が少なく、ありがたいと感じます。

双方が合意に達すると調停が成立し、合意内容は裁判の判決と同じ効果を持つ調停調書にまとめられます。話し合いがまとまらない場合は調停不成立となります。ただし、それまでの話し合いの経緯から、相当と認められる事案については、裁判所の判断が「調停に代わる決定」という形で示されることもあり、双方がこの決定に納得すれば調停成立と同じ効果となります。裁判所による客観的な判断であるうえ、これまでの話し合いを無駄にしたくないという心理も働くためか、「調停に代わる決定」により決着することも少なくないようです。

 

民事調停

 

新潟地裁、制度活用に向け普及・啓発に努める

このように簡便な手続き、安い費用、短期間で解決などたいへん使い勝手が良い制度なのですが、新潟地方裁判所管内で扱う民事調停の取り扱い件数は横ばいの状況です。過去にはサラ金の過払い金返還の調停のため件数が急増した時期もありましたが、ここ数年は年間350件前後で推移しています。

個人の権利が強く意識され紛争も増えているなかで取り扱い件数が横ばいなのは、民事調停制度が人々に十分に知られていないことも一因と思われます。優れた司法の仕組みをもっと活用してもらおうと、近年は新潟地方裁判所も普及・啓発活動に力を入れています。

民事調停の仕組みや利用方法、使い勝手の良さなどを裁判所のホームページや広報物で分かり易く説明するかたわら、イベントを通じたPRにも努めています。17年10月の「法の日」週間行事では、新潟地方裁判所を会場にして「隣人がペットにケガを負わせた」とのテーマで模擬調停を実施しました。調停申立人、相手方、調停委員会を構成する実際の裁判官や調停委員の熱演に、見学者からは「制度の存在を知らなかった」、「よい制度なのでもっとPRすべきだ」などの意見が寄せられたそうです。

 

裁判所をより身近に感じてもらうため、様々な広報活動を展開

新潟地方裁判所では、司法の仕組みや裁判所の役割などを広く知ってもらおうと、模擬裁判体験会や裁判所見学会なども随時開催しています。見学会はコンパクトにまとめられた半日コースで内容も充実しており、小中学生や高校生たちの課題学習や夏休みの自由研究にぴったりです。

18年10月開催の「高校生のための模擬裁判」に参加した高校生たちは、裁判官から刑事裁判の講義を受けた後、検察、弁護人、裁判官のグループに別れて、実際の法廷を使って模擬裁判に臨みました。グループごとの準備検討会では、「どのように無罪を主張するか(弁護人グループ)」、「妥当な判決はどの程度か(裁判官グループ)」など様々な意見が飛び交って大いに盛り上がりました。模擬裁判を終えた高校生からは「この経験は裁判員に選ばれたときに活かせそうだ」との力強い意見もあったそうです。

 

高校生の模擬裁判

 

新潟地方裁判所によるこのような普及・啓発活動により、厳格で近寄りがたい司法のイメージが「意外と身近なものだ」と和らぐことが期待されます。トラブルの円満解決のため、大勢の人たちに民事調停を始めとする優れた司法制度を上手に活用していただきたいものです。

裁判員制度の定着には、裁判員に選ばれた方のご協力とともに、その方が裁判員裁判に出席できるよう、経営者によるご理解・ご協力も必要です。新潟地方裁判所では制度のさらなる定着、啓発を目指して出前講義を行っていますので、企業や業界団体の研修の機会があれば、ぜひご活用いただきたいとのことです。

 

裁判員出前講義

 

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「センター月報」2019年1月号の「潮流 県内最新トピック第21回」を加除修正しました。