地域経済循環を生むために

 

新潟経済社会リサーチセンターの江口知章です。

私どもの機関誌「センター月報」では、毎月、井門観光研究所の井門隆夫先生より、地域活性化や観光振興などに役立つヒントやアイデアなどをご紹介いただいております。

今月の「センター月報2月号」では、地域経済を循環させる重要性とそのヒントについて、ご説明いただきました。本日はその原稿の一部をご紹介いたします。

 

地域経済循環

 

地域経済循環創造事業交付金を活用したプロジェクト

 

1.秘湯をコンテンツに

秋田県北部にある大館市の天然秋田杉林のなかに、120年にわたり湯治客に親しまれた「日景(ひかげ)温泉」という一軒宿がある。アトピー等の皮膚炎が3日で治るといわれ、温泉は「霊泉」として多くの客を集めていた。ところが、酸性度の高い硫黄泉をかけ流す宿だったせいもあり、積年の建物の老朽化から、2014年夏、多くの温泉ファンに惜しまれながら長い歴史の幕を閉じることになった。

しかし、ファンの声が届いたのか、経営者として、地元で割烹を営む飲食業者が名乗りをあげ、2017年、3年ぶりに再開を果たした。前経営者から引き継いだ新たな日景温泉は建物を全面リニューアル、単価も倍以上にアップした。従来の湯治客は日帰り温泉で受けつつも、国内外の富裕層など新たな顧客層の開拓を計画している。

(中略)

実はこのプロジェクトには、秋田の「秘湯」をコンテンツとして国内外に発信していこうという秋田県の戦略が隠されている。

(中略)

秋田県では、総務省の地域経済循環創造事業交付金(ローカル10,000プロジェクト)を申請・活用し、産学金官の連携により、事業の「初期投資」に充当する最大5千万円の経費を捻出し、事業者を支援することとした。日景温泉もそのうちの1件である。

 

2.プロジェクトが進む

新しい日景温泉のコンセプトは「地域資源のショーウインドウ」だ。「秋田杉」のテーブル、「曲げわっぱ」の食器や「比内地鶏」「とんぶり」等の地元食材を使用するほか、「秋田犬」とのふれあいもできる。このコンセプトの背景には

(中略)

地域産品の認知度向上やブランド化に向けて、アンテナショップとして温泉を活用したいという県の思惑があった。交付金を得るためには、公共的な地域課題を解決するモデルでなくてはならず、日景温泉の高級化と可処分所得の高い新顧客層開拓と、県の思惑がぴったりとはまったのだ。

このほか、八幡平山系の秘湯の一軒宿「後ごしょうがけ生掛温泉」は、温泉蒸気を建物の床下に張り巡らせた珍しい「天然オンドル」で有名な温泉宿だが、オンドル部屋を好む高齢の湯治客は減少の一途。じわじわと客の減る湯治棟をリノベーションし、一般の方々にも天然オンドルの温かさや価値を知ってもらおうと、ローカル10,000プロジェクトが進んでいる。

あるいは、白濁したにごり湯で知られる「乳頭温泉郷」の一軒では、茅葺き屋根の原風景を残したまま、現代的な室内設備やギャラリーを備えたインバウンドの拠点的温泉宿としてリノベーションを計画している。温泉郷のある仙北市には角館武家屋敷や劇団わらび座などの既存資源もあり、地域での回遊性も期待できる。国家戦略特区に指定される同市では雪道での自動運転技術の実証事業が続けられており、自動運転の自動車が温泉に滞在する旅行者を運んでくれるような時代もそう遠くないはずだ。

このほかにも県内の秘湯の宿で、リノベーション計画が進んでいる。こうしたプロジェクトの成果は2019年くらいに花開くことだろう。

 

3.様々な障壁を越えて

しかし、国の交付金の取り扱いがたいへんなのは誰もが知るところだ。高い目標設定に様々な制約、膨大な書類と、考える前に拒否反応を起こすことも少なくない。とはいえ、前向きな資金を使わないのはもったいない。それが地域の若手の新しい発想の一助になり、公共の利益に供するならば、地方創生のために関係者が連携して新しいコンテンツを生み出していく時代だと思う。

(中略)

ローカル10,000プロジェクトと銘打たれた本事業は、全国各地に1万件の事業を立ち上げることを目標としている。地域を元気にするためには、都市部に資金が流出するばかりではなく、地域の事業者による新事業が立ち上がらないと地域経済は循環しない。地方に雇用や付加価値を生み、交流・関係・定住人口を増やしていく策がどんどん立案されていくことを期待していたい。

2019年、新潟でもJRディスティネーションキャンペーンが実施される。その時、秋田県が大きなライバルとなっているかもしれない。

 

井門隆夫(2018)「観光イノベーションで地域を元気に 第11回」『センター月報』2018年2月号

 

感想

井門先生がおっしゃる通り、立場を超えて関係者が協力し合って新しい価値を生み出していく時代であると思います。なお、「地域経済循環創造事業交付金」の概要や、交付決定事業については、総務省 地域力創造グループの「地域の元気創造プラットフォームサイト」をご覧下さい。