南魚沼市のCCRC構想 首都圏などの元気なシニアを迎えて地域活性化を図る(その1)

 

新潟経済社会リサーチセンターの佐藤です。今回は行政と市民が一体となって定住人口増加に取り組む、新潟県南魚沼市の様子を紹介します。

全国的に人口が減少するなか、各自治体では子育て支援やUIターン者へのPRなど、人口増加に向けた様々な取り組みが続けられています。政府も2014年12月に閣議決定した「まち・ひと・しごと総合戦略」において、東京一極集中を是正して地方への新しいひとの流れを作るとして、移住希望者を支援したり日本版CCRCの取り組みを検討することなどを表明しました。

CCRC(注)とは米国で生まれたシニア向けのコミュニティです。都市部などの元気なシニアに自然豊かな地方に移り住んでもらい、CCRC運営組織が企画する教養、娯楽、スポーツなどの様々なプログラムに参加しながら充実したセカンドライフを楽しんでもらう仕組みです。

医療や介護など社会保障のシステムに違いはありますが、日本においてもこのような仕組みにより地方生活を望む元気なシニアに移住を勧め、その地域の豊かな自然や文化に触れながら充実した生活を楽しんでいただく。あわせて社会活動などで地域の方々と積極的に共働してもらえればその地域の活性化も図れるのではないか、などと検討が進められました。

(注)CCRC: Continuing Care Retirement Community

 

ccrc

 

南魚沼市、早くから産学官連携でCCRCの研究に取り組む

県内においては南魚沼市(以下「当市」)が早くからCCRCの研究に取り組んできました。2014年には当市が中心となり、地域の大学、医療機関、企業、金融機関、市民グループなどが参加する勉強会が何回か開催され、米国における先進事例なども取り上げながら、CCRC運営の仕組み、移住者と市民グループとの交流の進め方、CCRCにより新たに創出される雇用や経済効果などについて検討を行ないました。2015年には勉強会に参加したメンバーを中心とした産学官連携の「南魚沼版CCRC推進協議会」が設立され、CCRCにより定住人口増加、地域の社会・経済活動活性化、雇用機会の増加などを目指そうと検討が続けられました。

南魚沼地域の豊かな自然や食は広く知られているところです。美しい山々が連なり、近隣には温泉やスノーリゾートが点在します。自然の恵みを受けたコシヒカリなどの農作物は地域の自慢です。首都圏からのアクセスも、新幹線で90分、マイカーで3時間とたいへん便利です。このように恵まれた環境に構築される南魚沼版CCRC(以下「CCRC」)に居住する様子をイメージしてみました。

 

自然に囲まれたCCRCのイメージ 南魚沼市提供

 

◎CCRCに居住するイメージ

新しい居住地はJR駅の近隣にあり、たいへん便利だ。間近に見る魚沼の山々の眺望はすばらしく、迫力を感じるほどだ。毎朝、緑の木立のなかをゆっくりと散歩した後はご飯がおいしい。JR駅のほか商業施設や病院なども近いので生活は徒歩でも十分だ。CCRCと連携する市内の大学が公開講座を設けており、毎週参加している。外国人留学生との交流会では様々なお国自慢が聞けて新鮮だ。このほかにもCCRC運営組織が提供してくれる健康、スポーツ、自然探索など様々なプログラムはバラエティに富んでいる。これに参加すると趣味を同じくする地域の人達と知り合えるのでありがたい仕組みだ。CCRC運営組織はイベントの企画や案内だけでなく、日常生活の相談にも乗ってくれるのでたいへん助かっている。先日、CCRC運営組織から依頼がきて驚いた。現役時代に培った〇〇ノウハウについて地域の皆さんに話をしてくれというものだ。地域の活性化に一役買うことができれば嬉しい限りだ ——   このようなイメージかと思われます。

 

南魚沼市が進めるCCRCの概要

自治体による地方創生の取り組みについて、政府は地域再生法(2005年制定、その後随時改定)に基づいて支援を行なっています。自治体が雇用の創出、移住定住の促進、まちづくりなど地方創生に関する事業からなる地域再生計画を策定し、それを政府が認定することで金融・財政面の支援が行なわれる仕組みです。官民協働や地域間連携による事業、既存事業の隘路を打開する事業など、「先駆的な事業」が支援の対象とされます。

2016年4月には、米国のCCRCを日本の実情に合わせた「生涯活躍のまち」が制度化され、この形成を目指す事業も地域再生計画における支援対象となりました。これを受け、当市も、従来の地域再生計画 「住まう歓びを感じるまち 南魚沼 実現プロジェクト」に「生涯活躍のまち形成事業」を加え、17年6月に政府の再認定を受けました。そのなかから移住者の増加を目指すCCRC関連の取り組みに注目し、その進捗状況などについて、当市(U&Iときめき課)に話をうかがいました。

まず興味を引かれるのは、移住するとどのような住宅に入居できるのかという点です。現在、CCRCを整備するための候補地を絞り込む傍ら、CCRC事業に取り組みたいとする民間事業者から、候補地にどのような施設を建設し、移住者にどのようなサービスを提供するかなど、様々な提案を受けているとのことです。
候補地のひとつに上越新幹線浦佐駅から約1kmに位置するエリアがあります(下図参照)。駅から徒歩15分で行くことができ、病院もほど近く、駅前での買い物や通院に便利なロケーションです。

 


この候補地からは山々の見事な眺望を楽しむことができ、また、近隣には公園や美術館もあります。居宅から雄大な山々を眺め、朝晩は広々とした公園を散歩しながら生活するのは都会では味わえない贅沢かもしれません。

 

 

当初のCCRC勉強会では、このような敷地に様々なタイプの居住施設を建築し、さらに健康増進や交流促進などの共用施設も設けるイメージを描きました。しかし、CCRC実現に向けた検討を進めると、民間事業者からは、移住見込者の数が固まらないと施設の建設や運営の計画が立てにくいなどの懸念も出されました。自らは事業の運営には踏み込めない行政、事業リスクを極力避けたい事業者との間で議論が停滞してしまったそうです。

このような状況も考慮して、最初からすべての施設の建設・運営を目指すのではなく、複数の事業者に施設ごとのプランを検討してもらい、計画の目処が立ったものから順次取り組む方針で臨んでいるとのことです。

この段階で留意した点は、行政と民間の役割の明確化でした。CCRC事業を進めるにあたり、行政は関係者の合意形成や規制への対応など、事業環境を整え、機運を醸成することに努めることにしました。一方民間事業者は、収支見通しや資金計画などを十分に検討したうえで実際の取り組みを行ないます。

現在、候補地においてサービス付高齢者住宅の運営を検討する動きも出始めています。サ高住であれば地域ニーズも見込めることから、移住見込数が固まっていないCCRC事業の初期段階でも進めやすいと思われます。目処が立った部分から順次取り組む方針は、無理がなく現実的な取り組みだと思われます。

市は、地権者を含む地域住民へのCCRC勉強会などを行なってきた経緯などもあり、地権者と民間事業者の協議の場を設けるなどの支援は惜しまないとしています。CCRC事業に関する民間事業者の斬新な提案に期待したいところです。

次回は首都圏シニアへの移住PR、移住者の生活を支援する仕組み作りなど、ソフト面の取組みをご紹介します。

 

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センター月報2018年7月号に掲載した記事を加除修正しました。