コミュニティ・ベースド・ツーリズムとは?

新潟経済社会リサーチセンターの江口知章です。

私どもの機関誌「センター月報」では、毎月、井門観光研究所の井門隆夫先生より、地域活性化や観光振興などに役立つヒントやアイデアをご紹介いただいております。

今月の「センター月報10月号」では、これからの観光地が目指すべき方向性のヒントについてご紹介していただきました。本日はその原稿の一部をご紹介いたします。

 

コミュニティ・ベースド・ツーリズム

地域にお金が残る観光を目指して

「1.持続可能な観光とは」

近年「持続可能な観光」というワードをよく耳にする。「持続可能」には、大きく環境的側面と経済的側面からの意味があると思うが、とりわけ、人口が減少し始め、GDPが頭打ちになっている日本においては経済的側面から考える必要がある。

地域経済を持続させるためには、地域に入ってくるお金を増やすと同時に、地域のなかでお金が循環する比率を高めていく。この両面を地域コミュニティごとに考えていくのが「コミュニティ・ベースド・ツーリズム」(以下、CBT)である。CBTの難しい点は、入ってくるお金を増やすことと、地域内で循環させることでは、その手法が真逆となるために地域内での意見が割れやすい点である。例えば、前者では、資本のある旅行会社に集客を委託し、多くの客数を追求する手法が採られる一方、後者では、一度ではなく何度もくるリピーターを増やしたり、滞在日数を増やしたりする手法などに取り組む。

しかし、旅行会社を経由するような観光客は、その地を目的とするというよりも「誰と行く」かを重視して目的地を選ぶ傾向があると思うので、再訪や滞在にはなかなかつながりにくい。同じ人と別の地域へ向かうことを重視するはずだ。そこで地域では、その地の人や文化に触れ、その気はなかったのだけれど、その地を好きになるような旅中の取り組みや商品設計に努めていく。○○体験といったコト消費がそれだ。

しかし、こうした手法は、人への依存度が高まり、その人がいないとできないといった属人性を必要とすることが多く、また、体験するコト消費も少数多頻度になりがちのため、生産性が高まらず、経済的な持続可能性につなげていくのが結構難しい。

こうした状況からなかなか脱却できないので、地域は初回の観光客数ばかりを追求せざるを得なくなる。観光客が送られてきても、地域内での経済循環が高まらないので、水はどんどん入るけれど穴から漏れていく「漏れバケツ」になっている。つまり、客数を追求し続ける人口増加期の「マス・ツーリズム」から抜け出られず、地域間で客の奪い合いをしているのが、日本の地域観光の現状ではないだろうか。

「2.CBTの原則」

CBTを設計するのは地域DMOの役割だと思うが、そもそもCBTがあまり日本でなじみがないために、どうしても初回客の大量集客に目がいってしまう。CBTは、ゲスト(観光客)もホスト地域(観光地)の経済循環を高めようと、共感し、文化・習慣を尊重する意思を持つツーリズムだ。そして何度もその地を訪問する。

しかし、地域観光は、ゲスト(例えば都市)側とホスト(地域)側の経済格差を利用し、ゲスト側の文化や習慣をホスト地域で実現する「植民地観光(コロ
ニー・ツーリズム)」が主流のままだ。

もう日本は先進国であり、経済格差を前提の観光を推進してはならない。都市と地域が同等レベルの経済において、ホストとゲストが対等の観光を設計していくべきだ。そのために、ホストのいる「その地を目的地とする」観光客を増やしていくことが重要な目標となる。

欧米で紹介されることの多いCBTには、10の原則がある。

〈 コミュニティ・ベースド・ツーリズム 10の原則〉

①  ツーリズムがコミュニティのためだということを理解し、促進する

②  最初から全ての局面においてコミュニティメンバーを巻き込んでいる。

③  コミュニティの誇りを維持し、増やしていく。

④ 地域の生活の質を向上させる。

⑤ 環境的な持続性を確保する。

⑥ 地域の固有の文化を維持する。

⑦ 文化交流を促進する。

⑧ 文化的違いや人間的な尊厳を尊重する。

⑨  コミュニティメンバーに利益を平等に分配する。

⑩  コミュニティの事業に収入の一部を還元していく。

これららの原則を読み、合点のいかない人はいないだろう。

そして、これらを実現し持続可能とするためには、属人のノウハウに依存するのではなく、仕組みを創ることが大切である。そのための投資と浸透するまでの時間も必要となってくる。その際の指標が生産性である。生産性の低い状態で続けていても先は見えてこない。いかに地域の生産性を高めていくかを目標とし、KPI(企業目標の達成度を評価するための主要業績評価目標)として設定する。

生産性とは一人あたりの付加価値を測る労働生産性だけではない。投下資本に対しての付加価値(営業利益+人件費など)である資本生産性(一つの指標として総資本利益率:ROA)がより重要である。しかし、現在の日本では、人に依存し、誤った労働生産性ばかりが追及され、ブラック化に突き進んでしまっていないか。今、より必要なのは、資本生産性を上げるための資本投下と仕組みづくりである。

実際に地域の観光事業者の決算書データから、労働生産性と資本生産性を軸に取り、事業者をプロットしてみるとわかりやすい。いずれの生産性も低い事業者が最も多く、本来はいずれも高い状況に向かわなくてはいけないのだが、どちらかが高い状況に向かってしまう。とりわけ、最少の人件費で付加価値を得るために労働生産性向上ばかりを目指すと、よりコストの低い人材(パート・アルバイトなど)を細かく採用していくオペレーションに向かうので、働き手が不足した時に袋小路にはまってしまう。

「3.低生産性脱却のために」

こうした状況からいかに脱却するかが、現代の地域観光のミッションであるといっても過言ではない。例えば、宿泊業でいえば、施設の稼働率を高めることが資本生産性向上に向けて手っ取り早いのだが、稼働を上げるにはどうしても人手がかかる仕組みになっているため、資本生産性が高まらない構造に陥ったままである。

(中略)

地域がこれから目指すべき資本生産性の高い地域観光。それが、コミュニティ・ベースド・ツーリズムだ。


井門隆夫(2019)「観光イノベーションで地域を元気に 第30回」『センター月報』2019年10月号

感想

「その地を目的地とする」観光客あるいは「何度もその地を訪問する」観光客をいかに 増やしていくのかを意識していくことが今後の観光振興には必要のようです。

なお、資本生産性を高める具体的な方法について井門先生は、幾つかの観光地の事例をもとにご紹介されています。ご興味のある方は 本誌をお読みいただければ幸いです。