新潟県におけるキャリア教育の現場から

 

新潟経済社会リサーチセンターの尾島です。

今日は新潟県内でおこなわれている「キャリア教育」について、ご紹介いたします。

 

書籍 本 感想

 

キャリア教育とは

「キャリア」とは、広義には職業上の経験、経歴などを意味しており、より狭義には専門的な能力や資質を要する職業あるいはその職業を通じた成功などを意味します。そして「キャリア教育」とは、「児童・生徒一人ひとりのキャリアの発達を支援し、それぞれにふさわしいキャリアを形成していくために必要な意欲・態度や能力を育てる教育」と定義されます。

小学・中学・高校では、主に総合学習(総合実習)のなかで若年者の職業観を養成することを目的として実施されてきました。こうした背景には近年、学校を卒業しても仕事に就かない若者のフリーター比率が上昇していることがあります。近年15~24歳では低下傾向でありますが、25~34歳のフリーター割合が上昇傾向にあります。

 

フリーターの割合

 

学生時代からの職業体験を通して、職業感覚を培うとともに、将来は起業を目指すようなマインドの養成も期待できます。県内では、専門高校を中心として総合学習のなかでの職業経験、部活としての商品開発や実際の販売を通したキャリア教育が実施されています。また、県内の商業高校では、部活として活動する「新潟県高等学校商業クラブ研究発表会」を開催して代表を選考し、各地の予選を勝ち抜いてきた学校と全国大会で競いあうなど、担当教諭の指導のもと、積極的な取り組みが行われています。

 

新潟県立海洋高等学校(糸魚川大字能生)~シーフードカンパニー能水商店設立による新商品開発・販売によりキャリア教育の実践~

次に、教育科目の実習現場から生まれた新商品を生産・販売する会社を立ち上げ、生徒のキャリア教育に活用している県内事例を紹介します。

新潟県立海洋高等学校は明治31年(1898年) に「能生町立水産補習学校」として開校し、現在 1学年80人で3学年約240人の専門高校です。 水産資源の活用、実習船「海洋丸」を持ち、漁業、 船舶、水産資源の養殖、水産加工、海洋工学などに携わるスペシャリストの養成を目的としています。

 

1.ドイツのデュアルシステム視察が契機に

能水商店設立の経緯は、2013年に同校の食品科学コースを担当する松本教諭が産業教育の充実したドイツの専門高校のデュアル教育を視察したことに始まります。ドイツの職業高校の中には、週5日のうち3.5日仕事をし、1.5日を学校で理論を学ぶ実践的なキャリア教育が施されているところがあるそうです。

国内でもデュアルシステムを導入する専門高校はありますが、企業実習は1日に止まっているそうです。同教諭は、当時開発した鮭の魚醬(ぎょしょう)による事業を興すことで地域振興と結びついたデュアルシステムを構築できないかと考えるようになりました。

 

2.新製品の魚醬「最後の一滴」の開発~

同校の食品科学コースでは、3年時の卒業テーマとしてこれまでにも商品開発に取り組み、地元の水産資源を活用して特産品を開発してきました。この頃、地元漁協による能生川での鮭の種苗生産によって増えた採卵・採精後の魚体を有効活用する方法がテーマとなりました。

試行錯誤した末、川を遡上した鮭特有の臭みが残る魚肉の利用を諦め、鮭一匹丸ごと使用した魚醬の利用を考え、生徒たちとともに企画から製品完成まで3年をかけて、2013年にようやく新商品である鮭の魚醬「最後の一滴」が生まれました。

 

3.授業から課外活動での実践へ~

商品開発では、新潟県水産海洋研究所と県食品研究センターが共同開発した醤油麹を入れて魚醤を作る技術を活用しました。商品企画から製造・販売まで一貫して取り組むことで、商品開発を学ぶことはできますが、実際に製造・販売するためには週1回の授業では時間の制約が多いことから、新たに食品研究部を立ち上げ課外活動として取り組むことになりました。

さらに、同校の寮を管理運営するOB組織である 一般社団法人能水会を事業主体とする水産加工事 業所「シーフードカンパニー能水商店」を立ち上げ、 糸魚川市からの助成で設備を導入し、2015年より製造販売を開始しました。現在は、同製品の派生商品である魚醬で味付けした「イカの一夜干し」などの商品を生徒とともに開発・製品化し、「最後の一滴」は月間3千本を販売するまでになっています。

 

海洋高校で開発した主な製品

 

4.糸魚川版デュアルシステムを目指して~

本事業の教育効果としては、参加する部員生徒が自分たちの知恵を絞って開発した製品を製造・販売し、お客様の声を再びフィードバックするという職業体験を通して得られる確かな実感と手応えがあります。その経験は生徒に自信を与え、主体的に取り組むマインドを醸成しています。

今後は、安定した起業家教育ができるように、 クラブ活動から学校のカリキュラムに移行する予定です。商品開発や製造、品質管理、マーケティン グに至る企業活動を「総合実習」「課題研究」の学習活動として週1回1日に組み込み、食品科学コースの生徒全員が「糸魚川版デュアルシステム」 に関われるようにする予定です。

能水商店では、今後の生産増加に対応するため 常勤の管理者を置くことも視野にあります。事業利益は首都圏の商談会や販売活動に参加する生徒の旅費・宿泊費、製品開発費に充てるほか、数年内にはHACCP(ハサップ・国際的に標準化された衛生管理システム)の導入により、教育内容の高度化・国際化を進めるとしています。

少子化が進み専門高校への進学者数が減少するなか、同校の知名度向上により、県外・市外からの入学者も増えています。地元の生徒との交流が良い刺激となって教育効果も高まりつつあるほか、地元企業への就職、雇用の増加に寄与しています。地域の活性化にも繋がる同校の新たなキャリア教育に今後も期待したいです。

 

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『センター月報』2016年12月号の「視点」を加除修正いたしました。